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第9話 難題解決


 ふむ。クリフとテレサの二人はこれでいい。あとは――。

 グルリと残された二人を眺めると、カタカタと全身を小刻みに震わせる。

 この二人が難儀なわけだが。

 テレサとクリフは、魔法発動以前の問題だったが、この二人は魔法の発動まではできている。プルートは、威力がなく、ミアはコントロールが効かない。その理由を知らねば、矯正はできぬ。

 まずは、プルートから。

 魔力はあるし、発動もできるのに、威力がない。燃料タンクは大きいが、その燃料にエンジンの大きさが釣り合っていない。そう理解すべきか。ならば、エンジンを大きくすればいい。言うのは簡単だが、容易く実現できるならばとうの昔にプルートが試みているはずだ。

 魔法発動エンジンか。

 魔法は、詠唱と魔力の注入さえなされれば、無事発動できる。では威力はいかにして決定しているのか? 魔力を注入する量? いや、一定以上の魔力で無事発動できることは既に確認している。つまり、詠唱と魔力の注入はあくまでエンジンのスイッチをオンにする作業に過ぎまい。だとすると、エンジンの駆動は発動と同時、もしくはそれ以降によりなされているはず。

 では、私はどうやって威力を調節している? 詠唱しながら魔力を籠めて……いや、待てよ。

 

 左手の指先に詠唱破棄で【炎舞(フレイムロンド)】により小さな炎を出現させる。それらの火力を次第にゆっくりと上げていく。忽ち、サッカーボールほどになった。


「す、すげぇ……」


 プルートが驚嘆の声を上げ、ミアも目を大きく見開いていた。

 今私は【炎舞(フレイムロンド)】を己の意思一つで調節して見せた。つまり、エンジンは心そのもの。そして、心とは観念であり、その者を造るアイデンティティー。


「プルート、お前はなぜ、自身の魔法の威力が弱いと思う?」

「決まってる。俺が平民だからだ。平民は貴族ほどの魔力は持てねぇ。もちろん、ごく一部の例外はあるようだが、あの親父でさえも、貴族に魔力では及ばないといっていた。特に才能がない俺なら猶更だろう」

「ときに、お前、いつから魔法を学び始めた?」


 プルートは顔を悔しそうに顔を歪めると、


「11のときだ」


 なるほど見えたな。この帝国では魔法は貴族のみが行使できる神から与えられた恩恵のような立ち位置だ。故に禁じられてまではいないが、平民が魔法を使用することはよろしくないような風潮が蔓延している。故に豪商であっても平民で幼い頃から魔法の鍛錬をしている変わり者などごく僅かだろう。詠唱と魔力の注入という魔法の発動自体にはそれなりのセンスがいる。幼い頃からの魔法の鍛錬がこのセンスを磨く手段だ。結果、平民のほとんどが魔法を発動し得ないという事態となる。

 そして魔導騎士学院のほとんどが貴族。平民も一割程度はいるが全国から選りすぐられた超がつくくらいのエリートであり、当然、幼い頃から鍛錬を積んでいる。

 遅く学び始めたプルートには激烈なコンプレックスがあった。要は平民で出遅れた自分には強力な魔法を発動し得るはずがないという固定観念が、プルートのエンジンを小さくしているのだろうさ。

 だとすれば、対策は簡単だ。


「単刀直入にいうぞ。魔法の才に貴族も平民もない。単なる修練と知識の差だ」

「ありえないな」 


 頭を左右に振りつつも、私の断言の言葉を即座に否定する。


「なぜそう思う?」

「定期試験でもトップをとるのは貴族ばかりだからだ」

「それはあたりまえだろう。魔導騎士学院の構成を忘れたか? 平民は一割しかいないんだぞ。おまけに、魔法の修練の機会も貴族と平民では天と地の差がある。第一、いくら金を積まれようと平民の子息子女に貴族の高名な魔法師が魔法を教えようと考えるか?」

「……」


 プルートは無言で下唇を噛みしめるのみ。その瞳からはやはり、懐疑的な色が消えやしなかった。大方、貴族の私が屁理屈でも言っているのだと思っているのかもしれない。

 百聞は一見にしかずだ。実際に見せた方が手っ取り早い


「スパイ、第二訓練室へロシュを連れてきてくれ」

「はっ!」


 スパイの声に二人はビクッとするが、今度は悲鳴も上げず姿勢を正したままでいる。


「ではいくぞ」

「ど、どこにだ?」


 恐る恐る尋ねてくるプルートに、


「訓練所さ」


 端的に答えると二人を連れて、ストラヘイム郊外にある第二訓練室へ転移する。


「こ、ここは?」

「場所が変わったの」


 突然変わった景色に二人は混乱の極致のようだったが、説明するのも面倒なので、無視していた。



 待つこと五分後、仏頂面の少年がスパイに連れられ姿を現す。


「グ――いや、何のようだよ?」

  

 流石、スパイ、私に関する口止めも済ませていたようだな。相変わらずできる奴。


「この二人の前で魔法を使え。そうだな。【炎舞(フレイムロンド)】で頼む」

「別にいいけど、何でだ?」

「いいから」

「はいはい。¨輝き燃える赤き炎よ、我が力に従い、炎舞を踊れ¨」


 ロシュの詠唱により、訓練所の上空に炎の球体ができ、それらが鳥の形へ変わり、それから馬、獅子へと姿を変える。本当器用な奴だな。

 実のところ、ロシュとリアーゼには取得が困難な聖属性や回復系の魔導書以外与えていない。

 理由は二つ、下手に与えると勤勉な二人の成長を阻害してしまうという配慮と、通常人の効率の良い魔法の取得方法の探求のため。

 当然、ロシュは【炎舞(フレイムロンド)】の魔導書を契約していない。つまり、これは全てロシュの努力の結果といえる。


「そ、そいつは?」


 滝のような汗を流し、プルートは疑問の言葉を絞りだす。


「この少年はロシュ。お前と同じ平民だ。しかも、魔法を覚え始めたのは数か月前にすぎん」


 日々、私の指示の元、魔法の修行に邁進し、ロシュはメキメキとその実力を上げて、今やトート村の魔導書でドーピングした者達に近づきつつあった。


「そんなの信じられるか……そうだ! お前もそいつ同様、小人族(ノーム)なんだろ!!」


 遂に現実逃避し始めたプルートの言にロシュは眉を顰めて、


小人族(ノーム)だったのか?」


 そんな阿呆なことを聞いてきやがった。


「馬鹿者。その者が勝手に思い込んでいるだけだ」

「あーそう。もういいか? 俺、早く勉強に戻りたい」

「いや、ロシュ、お前はそこの少年に【炎舞(フレイムロンド)】を教えて差し上げろ」

「はあ? なぜ俺が!?」


 案の定、嫌そうに拒否って来るロシュに、


「無事、【炎舞(フレイムロンド)】をマスターさせた暁には、今度、発電システム開発チームに参加させてやるぞ」


 飴を提示してやる。


「ホ、ホントかっ!!」

「二言はない」

「ならやる!! こいよ。教えてやる! というか死んでも覚えてもらうぞ!」


 もはやブツブツ呟くプルートの右手首を強引に掴むと訓練所の隅へと移動していく。あとはロシュに任せておけば大丈夫だ。

 

 最後がこのミアか。

 私と視線が合うと彼女は僅かに身を竦ませた。もはや完璧に恐怖の対象だな。まあ、子供にどう思われようと知ったことではないか。

ともあれ、ミアは魔法のコントロールが効かず、身体強化系の魔法しか使用できないだったな。

 まずは、前提だ。


「【火球ファイアーボール】は使えるな?」

「ん」


 コクンと小さな顎を引くミア。


「なら、あそこの的に向けて、【火球ファイアーボール】を放ってみなさい」

「ん」


 再度顎を引くと一歩前に進むと、的に向けて右の掌を向けるが……。

 

「ちょっと待て! あの的に向けて放つんだぞ? それではズレすぎではないか?」


 そう。ミアの右の掌は的から大きく右にズレていたのだ。


「こう?」

「いや、まだかなりずれている。もう少し左だ」

「これでいいの?」

「もう少し上だな」


 ミアが右手の掌をやや上方に修正する。


「そこで唱えてみろ」


 コクンと小さく頷きミアが【火球ファイアーボール】を詠唱すると、赤色の球体が生じ、的へ向けて驀進直撃する。

 

「当たった……」


 呆然としたミアの声が鼓膜を震わせる。

 なるほどな。そもそも魔法の問題ではなかったわけだ。


(馬鹿馬鹿しい)


 大きなため息を吐くとミアに右手を差し出し、


「いくぞ」


 私は彼女を促す。


「ど、どこへなの?」


 ドモった声で疑問を口にする。


「いい所だ」


 急速に全身を真っ赤に染め上げながらも、ミアは私の右手を握ってくる。

 意味不明なミアのリアクションに僅かに首を傾げながら、ミアの手を引きつつ、私は第一研究所の中央研究室まで転移する。

 再度変わった景色にキョロキョロしているミアを尻目にルロイの元まで彼女を引っ張っていく。


(何じゃ、そのけったいな仮面とゴツイ声は? いつもにもまして壮絶に気持ち悪いぞ。違和感がない所が特に!)


 込み入った事情を察してかルロイが私に近づくと耳元で不愉快な疑問を口にしてくる。


(訳ありで姿を晒せない状況なんです。話を合わせてください)

(また、面倒なことになっとるようじゃな)


 もじもじしているミアを眺めつつも、さもおかしそうに豪快に笑うと


「で、今日はどんな用件じゃ?」


 尊大に尋ねてくる。


「彼女、かなりのド近眼のようなんで、眼鏡を見繕って欲しいんです」


 視力が悪ければ、的も見えない。当たるはずなどないのだ。


「構わんよ。視力を調べるからついてこい」


 咄嗟に私の後ろへ隠れるミアに、ルロイは深いため息を吐き、


「相変わらず、モテモテじゃな」


 そんなあり得ない皮肉を口にしたのだった。



 約六時間後、夕焼けが見え始めたとき、ミアの眼鏡は完成した。


「ほら、これをかけてもう一度、あの的に放ってみなさい」


 訓練場でミアに眼鏡をかけてやる。


「え?」


 唖然とした顔で周囲をキョロキョロと見渡すミアに、


「もう的に当てられるはず。やってみなさい」


 再度、的に【火球ファイアーボール】を当てるよう指示すると、ミアは右の掌を向けて、詠唱を唱える。そして――。


「当たったの……」


 ミアの両目からボロボロと大粒の涙が頬を伝い、床へと落ちる。


「よかったな」

「良かったの」


 何度も頷き、私にしがみ付くと、顔を胸に押し付けてくる。その小さな身体を小刻みに震わせる。

 別段、大袈裟だとは思わない。あの資料が真実ならば、魔法を真面に飛ばせないという弊害は、ミアから全てを奪ったはずなのだから。

 彼女の肩をそっと掴んで離し、


「丁度いい。今から君に【火球ファイアーボール】の講義をしよう」


 私はミアに【火球ファイアーボール】の教授を開始した。


 お読みいただきありがとうございます。


 遂に総合評価が、70000ポイントを超えました。これもいつも私の拙い物語を読んでいただける読者の皆様のおかげです。心から感謝いたします。これからも頑張りますので、よろしくお願いします。

 もし面白い、続きを読みたいと感じましたら、ブックマークや評価をいただければありがたいです。


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