表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
129/257

第7話 初めての学級会


 いやね、流石にここまであからさまだと、オジサンも正直引いてしまうよ。

 眼前の掘っ立て小屋を目の当たりにして、小さなため息を吐く。

 敷地はそれなりの広さはあるが、木造の数人が入れる程度の小屋は至る所が傷んでおり、足元には雑草が生い茂り、建物の中にさえ生えている。周囲の生い茂った樹木に日の光は終始、遮られて薄暗い。この場所を一言で表現すれば、お化け屋敷だろうか。

 いずれにせよ、ここは人が住める場所ではない。こんな場所では授業はできぬ。いい機会だ。土魔法等、いくつかの基本的な生活魔法の講義を行い、彼ら自身に教室を建ててもらうこととしよう。

 

「揃っているな。初めまして! 落ちこぼれ諸君! 私が君らの教官であるシラベ・イネス・ナヴァロだ。まあよろしく頼むよ」


 私の前でいかにも胡散臭そうな顔で私を凝視する四人の男女に言い放つ。


「随分と小さいな。その割にそのいかつい声。あんた、噂できく小人族(ノーム)か?」


 やけに目つきの悪い赤髪の少年が、ポケットに手を突っ込みながらも、私に近づくと不躾な視線と言葉を向けてくる。


「どうかな」


 この少年がプルート・ブラウザー。先のアンデッド事件で私が引導を渡したランペルツ・ブラウザーの実子。

 ジークの資料では、見かけによらず根はかなり真面目であるが、致命的なほど魔力に乏しく攻撃魔法系の威力は皆無といってよい。本人もそれを熟知しており、近接戦闘用の魔法をメインで取得しているが、元々の虚弱体質からか女子にさえも敗北するありさま。結局、定期試験の成績は下の下。遂に、この度めでたくGクラス行きとなる。

 こんなところだが、解析の結果、彼の魔力はE-。魔導学院では本来トップクラスの魔力保有量のはずなんだが……。


「んー」


 プルートを押しのけると、テレサが私に顔を近づけるとスンスンと鼻をならす。


「な、なんだ?」


 流石の私も彼女の奇行に面食らっていると、


「君、どこかで……」


 私をジロジロと観察し、ポロリと呟く。野生児のような少女だ。匂いで記憶と照合しているのだろうが、声を変えていなければ十中八九、私と見抜かれていた。まさに九死に一生を得たな。

 テレサは、高い戦闘技術に、身体能力を有するが、魔法がからっきしのようだ。

 身体強化系の魔法すら使用できないから、定期試験の成績が悪く、この度、Gクラスへ落ちた。というのが建前ではあるが、彼女は身体能力が平均E-もある。実技訓練で負けるはずがないのだ。多分、彼女が地方豪族の雄、ハルトヴィヒ伯爵の娘であることも一因であるのだろう。


「さあ、私は君など知らないが」

「うーん、この甘いような嫌な感じ、覚えはあるんだけど……」


 完璧に自分の世界に入ってしまったテレサなど歯牙にかけず、金髪幼女は私の前にくると、


「早く授業を始めて欲しいの」


 そう求めてきた。この娘は、学科受験の際に隣に座っていた童女であり、私は彼女にも因縁がある。

 ミア・キュロス――キュロス公の姪。相当な魔力保有量を有し、総合的な成績は良く、本来、Sクラスだったが、キュロス公の失脚により、門閥貴族派の教授達から今回厄介払いになったという不運な少女だ。

 資料では彼女にはこの学院を放校になるわけにはいかない入り組んだ事情がある。今彼女がGクラス行きとなったのには、私の行動も一因となっている。その責任は取らざるを得まい。


「そうだ! 僕達は定期試験で合格しなければ放校となる。あとがないんだよ!」


 クリフ・ミラードが、ミアの言葉を追認する。

 私の異母兄。入学当初は期待の新人だったが、ある事件により、魔法を暴発させて以来、魔法を上手く発動し得なくなってしまう。その(やつ)れ具合からいって、相当苦労しているのだろう。

 

「ならばお望み通り、授業の話に入ろう」


一旦、言葉を切り、ミア達をグルリと見渡し、話を続ける。


「私の授業は課題制だ。これから諸君らにはいくつかの課題をこなしてもらう」

「課題なの?」


 ミアがキョトンと小首を傾げる。


「ああ、相当難解だが、全てクリアできれば、定期試験など楽勝で合格できることを約束しよう」

「けっ! 随分とすごい自信じゃねぇかっ!」

「別に自信ではなく、単なる事実だよ。第一、定期試験の合格? そんな温いことなど、直ぐに口が裂けても言えなくなる」


 真実だ。仮にも教官役を引き受けた以上、徹底的にやってやる。私は基本妥協が嫌いなのだ。

 ゴクリと喉とをならすクリフに、不愉快そうに顔を(しか)め地面に唾を吐くプルート。テレサは未だに考え中であり、ミアに関してはボーと私を眠そうな目で眺めてくるだけ。


「では、最初のミッションだ。君らの手で、ここに教室を造れ。期限は7日後の5月11日午前八時まで。それ以上は、一分一秒たりとも待たないからそのつもりでいるように」

「はあ? 教室を造れだぁ!?」


 素っ頓狂な疑問の声を上げるプルートに、


「そうだ」


 即答しつつも軽く頷く。


「ふざけるなっ! 僕はミラード家次期当主であり、貴族社会の一員だ。なぜ、大工のごとき平民風情の真似事をしなくてはならないっ!? 早く授業を始めて欲しい!」


 批難の声を上げるクリフ。クリフの言に不快そうにそっぽを向くテレサに、表情一つ変えず、私の言を待つミア。


「教室の建築はミッション。即ち授業の一環だ。嫌なら、直ぐにでも辞めてもらっても構わんぞ」

「くそっ……」


 悔しそうに悪態をつくクリフに、


「別に大工の仕事を馬鹿にするつもりはねぇよ。そこの貴族様と違い、俺も平民だしな。一朝一夕(いっちょういっせき)にはいかねぇ、重要な仕事だと理解している。

 だが、俺達が目指すのは帝国軍人であり、騎士だ。俺達がそんな大工の真似をしても大して身にもならねぇし、逆にその職業に失礼にあたる。そうじゃねぇか?」


 プルートは頭の回転は速いようだが、こんな下らん屁理屈をこねることに貴重な才能を使うなよ。実に労力の無駄だ。


「私もそう思うよ」

「そうなの」


 うんうんと大きく頷くテレサと小さな相槌を打つミア。

 テレサは貴族の看板をひけらかしたくはないが、大工の仕事もしたくない。ミアは早く授業が受けたい。そんなところか。

 全く、根性から甘ちゃんだな。


「舐めるなよ。端からお前らごときが、どうあがこうと大工の仕事を模倣することはできぬ。私はあくまで自分達の学ぶ場所くらい自分で造れと言っているにすぎぬ」

「だから、そんなのできねぇと――」


 プルート達からの一切の反論を聞き流し、ボロボロの建物に【風操術】を頭上から発動すると、クシャッと一瞬で押しつぶされる。まさに風が吹けば倒壊する。この強度でよく今まで現存できたな。この生い茂った樹木で強風から守られてでもいたか。

 ともあれ、虫も湧いているようだし、完全に腐っている。こんな場所で授業などできやしない。


「解体作業は手伝ってやった。あとは、お前達の仕事だ」


 目をカッと見開き、微動だにせずに凝視するプルート達を尻目に、私はアイテムボックスから、サガミ商会特製の黒板とチョークを取り出す。野外授業のために技術部に作らせておいたのだ。


「うおっ!!」


 突然生じた二メートルはある黒板に、咄嗟に背後に跳躍するプルート。


「わぁ!」


 対して、歓声を上げ、好奇心に目を輝かせながらもテレサが黒板に近づいていく。

ミアはやはり、眉一つ動かさず眠たい目で黒板を凝視し、クリフはヒクヒクと頬を引き攣らせていた。

 まさに三者三様の姿を示す彼らに、


「ではGクラスの校舎作成のための授業を始めるぞ」


 私はチョークを持ち授業を始める。



 いつも、お読みいただきありがとうございます。

 本日、明るい報告事項があります。なんと、2019年5月10に、ツツギクルブックス様から、この『身体は児童、中身はおっさんの成り上がり冒険記』が書籍化されることになりました!

 これも毎回私の拙い物語を読んでいただいている読者の皆様のおかげです! いくら感謝しても仕切れるものではりません。本当にありがとうございます!

 本作のイラストレーター様は、『みっつばー』様です。最近アニメ化された『転生したらスライムだった件』のイラストレーター様で、そんな方に本物語のイラストを担当していただきテンションMaxの状態です。しかも、物語の雰囲気ともピッタリで、かつキャラもメッチャ格好いいので、やっぱり、『みっつばー』様は天才だと思いました。

 気になる一巻の内容ですが、書籍の約半分程度を最初から書き下ろしました。担当の編集様からのオーダーが既に既読のなろうの読者様にも二度楽しめる物語だったので、徹底的に書かせていただきました。主要新キャラも増えてますし、二巻以降もメインのストーリを維持しつつも、WEB版とはまた違った物語が進行していく予定です。(二巻は完全新規ストーリーの予定ですので、ご期待いただければ幸いです)

 さらに、コミカライズの企画も進行中です。少年ジャンプが愛読書の作者としては、私の物語がコミックになるなど夢のようでまだあまり実感がありませんが、どうやら本当らしいです。これからも、書籍とWEB版の執筆を頑張っていかねばと考えている所存です。

 ツギクル編集部様と協力し、最高の内容のシリーズにしていきたいと考えていますので、お手に取っていただければこれほど嬉しいことはありません。

 既に、Amazonで予約購入できますで、もし本書が気になったらご利用していただければ幸いです。

 なお、なお、書籍化にあたり、ツギクルブックス様のツギクルサイト上でスペシャルサンクスキャンペーン開始しています。応援いただければ感謝感激です! 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タイトル身体は児童、中身はおっさんの成り上がり冒険記(コミック)
・ツギクルブックス様から、1巻、2巻発売中!!
・第三巻、11月10日に発売予定!
・コミックも発売中!
・書籍版は大幅な加筆修正あり!
・Amazonで第三巻予約受付中!
ツギクルバナー 小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ