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身体は児童、中身はおっさんの成り上がり冒険記  作者: 力水
第二章 受験とラドル解放戦編
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第57話 鬼神VS究明者(ブレインモンスター)


 瞼を開けると空中に浮遊する身体。

 周囲を見渡すと、皆が目を見開き私を凝視していた。


「グレイ殿……なの?」


頬を流れる涙を拭いながら、ルチアがそんな当然のことを尋ねてくる。


「そんなの決まってるだろ」

「そう言われてもな……」


 頬をヒクヒクさせ返答するアクイドに眉を顰めつつも、周囲を見渡す。

 口をパクパクさせているもの、面食らってぽかんとするもの、唖然としてまじまじと見つめるもの。この認識の誤謬(ごびゅう)

視線を下に向けると、やはり私の普段の姿だ。うん? それにしては少し若すぎないか? 肌の張りから言って十代のものだ。


(ちょっとまて!)


どうも目覚めたばかりで、頭が上手く働かない。というか、壮絶に混乱している。

まずは確認すべきだな。私の名はグレイ。13歳の肉体のはず。だが、この骨格の発達具合から言って一七、八歳。しかもこの右手の痣ができた理由を、私ははっきりと覚えている。

つまり、これは――。


「若い頃の相模白部(さがみしらべ)の肉体ってわけか」


十中八九、【解脱(げだつ)】の効果だろうさ。

グレイだった記憶も、相模白部(さがみしらべ)だったときの記憶もある。それはまるで、二人分の記憶を矛盾なく重ね合わせたようで独特な気持ち悪さがある。

しかし、それなら話は早いのだ。


「駆除対象は、あいつか?」


今も上空で青髪の少女の首を右手で軽々と掴み持ち上げている黒髪の女に視線を定め、一番冷静そうなクラマに尋ねる。


「はっ! あれがあの空間を形成していた首領だと思われます」


 開けていた半口を閉じると、クラマは姿勢を正し返答してくる。


「ジュド、お前達は先に戻っていなさい」

「グレイ殿はっ!?」


 縋り付くルチアの頭を軽く数回掌で叩くと、


「私も用を済ませてから帰還するさ」


 笑顔で強く宣言すると、ジュドは大きく頷き、中断していたと思われる転移を再開する。

 ではそろそろ、羽虫の駆除の時間だ。

私から同心円状にシルケ全体を覆う巨大な球状透明の空間が展開される。どうやら、私の異能は使用可能ならしいな。グレイとしての意識も重なっている以上、試みれば魔法という意味不明な力も使えるんだと思う。


「さて、始めよう」


青髪の少女との間の空間を収納すると、一瞬で視界が移り変わり、眼前に出現する黒髪の女。


「んなっ!?」


 仰天したような声を短く口の中であげる黒髪の女の右手首を握る。

 そして、


「返してもらうぞ」


 私が握った奴の右手首へ向けてさきほど収納していた空間を解放(リリース)する。

 瞬間的に右手首から莫大な容積の大気が生じ、黒髪の女性の肉体を吹き飛ばしていく。


「うおおおぉぉぉっ!!」


 黒髪の女は、けったいな声を上げて吹き飛んでいき、地上へと衝突し大きな地響きを上げる。

青髪の少女の頸部を掴んでいる右手首がサラサラと塵と化し、少女は落下を開始するので、抱き上げた。


「主殿……なのか?」

「ふむ、状況から言ってお前、シルフィだな?」


 シルフィの奴、少し見ないうちに大分縮んだな。まあ、姿などどうでもいいか。


「面目ない」


 悔しそうに頷くシルフィをジュドに渡す。


「頼んだぞ」

「大将、あとで説明してくれ」

「ああ、善処しよう」


 これは勘だが、あのクソピエロが関与している以上、このミッションモドキ同様、今のこの記憶は綺麗さっぱりこの戦闘後に消失するだろうがな。


「御武運を!」


 ジュドの言葉を最後に転移が完成し、奴らの姿が消失する。

 ハッチの能力が消失したせいか、私の体は落下を開始する。

 落下した鬼の数メートル手前までの空間を収納する。再び景色が変わり、眼前で右手首から鮮血をまき散らしながらも私を睥睨する黒髪の女。

 

下等生物(食料)、今、何をした?」


 馬鹿かこいつ、この私が今戦闘中、相手に懇切丁寧に教えるわけないだろうが。


「諦めろ。お前はもう逃げられん」


 別に強がりでも虚勢でもなく真実を述べているに過ぎない。相対したのがグレイではなく、私――相模白部(さがみしらべ)である以上、この哀れな鬼の行き着く先は既に決まっている。


「逃げる!? この俺様が逃げるだとぉ!!」


 いくつもの青筋が綺麗な顔面に張り巡らされ、咆哮にも似た叫びをあげる。それを契機に、黒髪の女の肉体がボコボコと泡立ち盛り上がった。

切断された右手が再生し、他の四肢や胴体とともに、太く長く成長し、顔も華奢な女のものから、精悍な男のものへと変貌していく。

服装までが新たにつくられ、忽ち、狩衣を着た赤髪の青年と早変わりしてしまう。額から伸びた二本の角と鋭い犬歯と爪から察するにあれが、奴の本来の姿なのだろう。

 奴は腰の美しい刀を抜き放つと、明後日方向に振り抜く。

奴の右側に位置する要塞シルケ最大の中央官庁がズルリと斜めにスライドしていく。

地面に落下する倒壊した建物の上半分。


「どうだ?」


 勝ち誇ったように、尋ねてくる鬼。


「どうっていわれてもな……」


その建物を建設するのに、かなりの資材と労力かかっている。気分で破壊するのは、迷惑だから止めて欲しいのだが。


「一撃で切り裂く膂力(りょりょく)に、電光の斬撃っ! 見えなかっただろう? わかる。わかるぞぉ。お前の恐怖が‼ 絶望がっ!!」


 なんだろ? この雑魚臭プンプンするお目出度い奴は……これでは闘争にすらなりそうにもないな。


「はいはい、相手してやるからさっさとかかって来い」


 右手首をプラプラさせて挑発すると酒呑童子は、しばし、目じりを険しく吊り上げていたが、一転、笑みを浮かべ地面を蹴り放ち、刀という武器が届く間合いにまで瞬時に距離を詰めていた。

確かにおごるだけの力はありそうだ。

 

「ほう」


 私は感嘆の言葉と共に、右肩に向けて振り下ろされる刀を重心をずらして避けると同時に、アイテムボックスから短剣を取り出し、奴の腹部へ向けて突き立てるが――。

 

 ガギッ!


 金属の破砕音と共に、短剣は一瞬で粉々に砕けた。

 何ちゅう脆い武器だ。これでは話にもならん。


「下等生物ぅ、お前のどんくさい頭でも理解したかぁ? 俺様にはそんな鉄屑では傷一つつけられやしねぇよ!」

「そのようだな」


 ないなら作ればよい。私の異能力ならそれが可能だ。

 アイテムボックスから予備の小剣に鉄、鋼を取り出し【永久工房】に収納する。

 性能は可能な限り頑丈に。それだけだ。別に切れなくてもいい。勝利によく切れる武器等不要だからな。


『30秒』


 眼前に次の一文が出現する。結構早く作れるようだな。


「なら、泣き叫べぇっ!」


酒呑童子は、刀を両腕に構えて一気呵成に攻め続ける。

奴の複雑な軌跡を描く刀の曲線を、身を捻り、跳躍しつつも、幾度となく躱す。


「ちょこまかとっ!」


 奴の剣術が稚拙なのが幸いし、薄皮一枚で全て空を切っている。


 チーン!

 

 頭蓋内に響く耳に心地よいチャイム。

 完成したようだ。

 私は【永久工房】からできたてほやほやの剣を取り出し、解析をかける。


――――――――――――――――

〇【強靭過ぎる剣】:耐久力と強度のみに特化した剣であり、切断力は皆無といってよい。

〇ランク:B

――――――――――――――――


 そのまんまだが、いいんじゃないか。要は撲殺用の剣だ。この愚物を屠るにはちょうどいい。

 

(なまく)らをいくら出しても同じだぞぉ!!」


 酒呑童子は、剣を力任せに袈裟懸けに振り切ってくるので、それを【強靭過ぎる剣】により、易々と受けた。


「は?」


 頓狂な声を上げる奴の腹部を横薙ぎにする。

 ミシミシと【強靭過ぎる剣】が奴の脇腹にめり込み、その体をくの字にした状態で吹き飛んでいき、背後の建物に衝突し、倒壊させてしまう。


「あー、しまった。もう少し考えて振うべきだったな」


 剣で肩をトントンと叩きながら、奴が消えた先まで跳躍する。


「おぉ……」


 奴は地面に這いつくばり、痛苦に顔を歪ませ、地面に嘔吐する。

 鬼も嘔吐するのだな。そんなのんきな感想を抱きながらも、


「反射神経、筋力、耐久力、技術、全て未熟。悪いが、お前程度ならこの世にはゴロゴロいるのだよ」


 言い放ち、剣で奴の顎を打ち上げる。

 酒呑童子の肉体が数メートル上空へ持ち上がり、直ぐに重力に従い落下を開始する。

 落ちてくる奴の顔面に剣をまるで野球のバットのように無造作に振り抜く。

 斬撃というには切断力に乏しい一撃が奴の顔面にクリーンヒットする。

轟音とともに奴の体が大きく吹き飛び、向かいの絶壁へと衝突し、土煙が舞い上がる。


「貴様ぁっ!!!」


 両目を真っ赤に血走らせて、怒りに吠えると酒呑童子はめり込んだ絶壁から身体を起こし、私へと弾丸のように一直線に跳んでくる。

 右手に持つ剣の間合いに入り、私の首を跳ねんと大気を切り裂き迫る刀を、右手の【強靭過ぎる剣】で受け、左拳を奴の顔面に叩き込む。

 鼻が陥没し、地面を何度もバウンドしながらもようやく止まった。


「お前はあらゆる意味でお粗末すぎる。考えなしに行動しても、私を殺すのは不可能だ」

「殺す……殺す! 殺す! ぶっ殺すぅ!!」

「その言葉は実現する前に口にするもんじゃない」


 剣先を奴に向けると、ビクンと身を竦ませ、その後、全身を屈辱に紅潮させた。


「もう、遊びは止めだっ!」


 (おもむろ)に酒呑童子は、左手の人差し指を私に向ける。背筋に電撃が走り、刹那、視界から色が消え、音が消え、ゆらりゆらりと緩徐(かんじょ)な時を刻み始める。

 大気に舞う砂の粒子、一粒一粒まで視認することができる世界。これは敵の攻撃でも私の異能力のような大層なものではなく、ただの私の体質だ。

 即ち、私は幼い頃あの地獄へ足を踏み入れてから、己が危機を認識したときに限り、動体視力が著しく向上するようになってしまっているのだ。


(これは奴の異能力か……)


 左指先から発せられた光線がゆっくりと私の蟀谷(こめかみ)へと向かって進んでくる。

この動体視力の著しい向上は、俊敏性等の肉体の強度に比例して大きくなる。今の私なら奴の動きなど蚊が留まったようなものだ。

 私の感覚がこのスローの世界にあるという事実からも、この紅の光線は私に傷をつけられる強度のものなのは疑いない。おまけに奴のあの自信。この異能、多少は興味がでたな。

もっとも、己の肉体を下らん検証に捧げるほど私は愚かではない。


(奴自身に協力願おうか)


 奴の右腕をその剣ごと【永久工房】に収納し、その剣と【強靭過ぎる剣】を材料に新たな剣の創造を試みる。

 同時にそのもぎ取った奴の右腕を解放(リリース)し、紅の光線を当てる。

 紅の光線が右腕に照射されると、大部分が抉り取られ奴の左手へと一瞬で移動する。

 なるほどな、二点間の瞬間移動。それが奴の奥の手の異能ってわけか。

 だが、光の照射などという無駄な条件を必要とするなら、戦闘では全くといっていいほど使えない。

 もったいない。やり方さえ間違えなければ、相当役立つ異能であろうに……。


「ぐがあああぁぁっ!!」


 右腕を抑え、


「お、お、お前、一体、どうやって?」

「ああ、私の異能のことか?」


お次は、奴の左腕を肩から収納し、解放(リリース)すると左手に掲げる。


「ぐぎいぃぃっ!」


七転八倒の激痛の中、私を見る奴の顔は私という未知のものに対する濃厚な恐怖に満ちていた。


「ようやく理解したか?」

「うぁ……」


震えながらも、バックステップをして私から距離を取ろうとするが、


「やあ」


 その肉体は奴までの空間を収納した私の前にあった。


「いひぃぃ!」


 悲鳴を上げて尻餅をつく酒呑童子を前に、チーンという快音が鳴り響く。どうやら私専用の武器が完成したらしい。

 工房から引き出した剣は、刀の形であり、その刀身は透明で紅に染まっており、常に幾何学模様の文字が(うごめ)いていた。


――――――――――――――――

〇【妖刀ムラマサ】:所持者のHPとMPを糧に特殊な能力を発現する意思のある妖刀。他者の魂を吸収して成長する。

〇ランク:S

――――――――――――――――


 成長する武器か。奴の武器が元々かなりの名刀だったのだろう。


「すまんな、お前のような人食いの鬼を野放しにしておくわけにはいかんのだよ」


 私は上段に【妖刀ムラマサ】を構えると、血の様に真っ赤な光の奔流が刀身へと収束し始める。


「うあぁぁぁぁぁぁっ!!」


 私に背中を向けて一目散に逃げ出す奴の背後に私は【妖刀ムラマサ】を振り下ろした。

 落雷にも似た轟音が、地上にあったあらゆる音を吹き飛ばし、その赤茶けた大地に深く突き刺さる。

 光は瓦礫となった建物ごと酒呑童子を跡形もなく消滅させてしまう。


「ようやく終わりか。やれやれだな」


 そろそろ、終了の時間だ。急速に薄れる意識の中、私の眼前で微笑んでいる黒髪の少女が視界に入る。


「ありがとう」


 少女は私に深く頭を下げると煙のようにその姿を消失させた。


「良い旅を」


 彼女とあの青年への最後の手向け言葉とともに、私もその意識を再び深層世界へと潜らせる。



お読みいただきありがとうございます。

二章はあと1話で主な内容は終わりです。次回も読んでいただければ幸いです。

面白く感じましたら、ブックマークや評価を頂けると滅茶苦茶嬉しいです。テンションが上がり、日々の執筆活動の励みになります。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] ルチア、おバカさんかな?読んでいてイライラする。
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