勇者を観察させられてたらいつの間にか女の子に囲まれてた話
「お前、勇者達の中に潜り込んで来い」
「……は?」
ある日、上司から呼び出しを食らった俺は唐突にこんな事を言われた。
「んだよ、聞こえなかったのか? いいだろう、特別にもう一回言ってやるから耳の中かっぽじってよく聞け。勇者が召喚されたから、その中に、潜り込んで来い。以上だ」
「いやあのですね、まだ若いんで局長ほど耳遠くありませんよ。え……勇者? 説明が一切無い上に突然の任務とか頭湧いてるんですか? いくら暗部でもやっていい事とダメな事があるんですよ」
「さらりと上司を馬鹿にしたな。よし、死ね」
「いや幾ら何でも横暴……ぐぺっ!?」
次の瞬間俺の意識はブラックアウトし、気付けば乗り心地の悪い馬車の中へと連れ込まれていた。何が起こったのか分からないだろうが俺にも分からん、などと混乱の最中に放り込まれた俺だったが、その場にいた同僚に色々と事情を説明してもらい、上司からの指令書を貰う事で漸く事態を把握出来た。
曰く、隣国で伝説の存在である勇者が複数人召喚された。
曰く、勇者達は尋常では無い戦力を持っていると予想される。
曰く、内情を探っとかないと安心できないからサクッと潜り込んできてね♪
最後の指令にイラっと来て指令書を思わず細切れにしてしまった。確かに少しばかり潜入の経験は豊富だが、そもそもこれは訳が違う。今までの場所は事前に風習や文化を学習出来たから何とかなったのであって、事前調査は愚か、見も知らない奴らに溶け込めなどというのはほぼ自殺行為に近い。現場を知らぬは上層部ばかりなり、ということである。
とはいえ、愚痴を言ってもこの現状が変わるわけではない。現場を慮れないのは上司の常だが、それに逆らうことが出来ないのも部下の常である。こうなった以上は俺と付いてきた同僚、この数少ない人員でどうにかこうにかやってみるしかない。勿論失敗すれば尻尾切りの憂き目に遭うことは間違いないだろうが、逃げた所で処分を逃れることは出来ないだろう。
前門の虎、後門の狼。引くも地獄、進むも地獄。どう足掻こうが死地であるなら、少しでも可能性のある方に掛けるしかない。せめて今の自分に出来ることは、勇者達が底抜けのアホであると祈るくらいである。
馬車の揺れから来る吐き気を必死に抑えながら、少しはマシになるだろうという一縷の望みをかけて祈りを捧げる。……同僚の子がこっちを見てたけど無視無視。環境とか付き合いとか色んな事情で諜報とかいう仕事やってるけど、俺はそこまでこいつらと深く関わるつもりないからね。俺が目指すは一軒家と可愛い奥さん、それに二人位の可愛い子供を持つイケメンパパなのだから。
……まずイケメンじゃないから無理だね。自分で言ってがっくり来たわ。
そんなこんなで出来ましたよ潜入。ええ、ものっそい苦労しましたけど。
何なのあの面接官? ちょーっと王宮の方で働きたいってだけなのに、騎士団の団長だか何だか知らないが俺の事ジロジロと見やがって。そりゃ俺が絶世の美女ってんなら分からなくもないけど、俺もアンタも普通の男だよ? あ、すいません嘘付きました。お相手の方はハイレベルのイケメンでした。何だったら俺が見とれる位イケメンでした。クソッ、憎しみで人が殺せるのなら……!
世の中の不条理にこっそり歯噛みしていると、目の前のイケメンから放たれた「合格」の一言。この国の習慣やら文化やらは以前学習済みだった為、経歴や仕草に不信感は持たれなかったようだ。
とにかく、俺は晴れて王宮付きの小間使いとして採用された訳だ。やれやれ、職場からここまでノンストップで来たものだから疲労が随分と溜まっている。とにかく明日からの仕事に備えて、今日は英気を養わないと……。
「それじゃあ、早速これに着替えて。多分サイズは合ってると思うけど、違ったら自分で調節しておいてくれ」
……は? 何、今日から仕事? 嘘だろ?
「いやー助かったよ! 最近は人手が足りなくてね、雇ってもすぐに辞めて行っちゃうから困ってたんだ。君がこの職場を気に入って、少しでも長く残ってくれると僕としても嬉しいな」
嵌められた。頭の中に浮かんできたのはそんな言葉だった。
ここの離職率が高いのはどうにも世話をする勇者たちに問題があったようだ。それに気づいたのは、仕事を始めて三日目の事である。
この世界基準では奇妙な服ーー学生服を着た一団が、王城では随分と幅を利かせているようで、目下のスタッフにかなり横柄な態度を取っているのだ。いや、こちらも仕事であるから、態度くらいならば別にいい。問題は、色々と無理難題を突きつけてくる事なのである。
例を挙げると、
「ねぇ、そこにいられると邪魔なんだけど」
「え、ですがここは廊下の端で……」
「うっさい! あたしが退けって言ったら退くんだよ!」
とか、
「あたしの部屋汚れてるから掃除しといてよ。三十分以内でね」
「申し訳ありませんが、他にも仕事がありまして……というより女性の部屋なのですから、自分ではなく同じ女性の方に頼むべきでは?」
「……っ! い、いいからやっておいてよ! 私物に変な事したらただじゃおかないからね!」
勇者達の『ただじゃおかない』発言は本当に洒落にならないのでやめて頂きたい。こちとら訓練は積んであるとはいえ所詮は凡人、彼ら彼女らのチート同然能力を受けてしまえば木っ端微塵待った無しである。
だが、いかに理不尽な命令と言えど機嫌を損ねるわけにはいかない。折角勇者達と急接近出来る立場にいるのだ、これを活用せずしてなんとする。そう決意を新たにして、俺は日々の仕事をコツコツとこなしていった。
ちなみに先の状況を別口で潜入している同僚に話したら呆れられた。まあ、あまりにデリカシーが無さすぎる命令に同じ女として考えるところもあったのだろう。いくら勇者達の顔面偏差値が高いからといって、流石の俺も年頃の少女の私物を漁るような趣味は無いからな。
……え、違う? 『貴方の鈍さに呆れていた?』 なんて事を言うんだこの同僚は。これでも人の感情の機微には人一倍敏感だと自負しているのに。
潜入工作員を捕まえた。俺、部下が増えた。
いや、確かに色々と疑問はあるだろう。そもそも潜入工作員はお前じゃんとか、そもそも部下が増えることに何の脈絡も無いじゃんとか色々あるだろうが、まずは俺の話を聞いてほしい。
そもそも事は何気ない一日から始まったんだ。その日は諜報部への報告書を纏める為、暗号だらけの文章を羊皮紙にしたためるという七面倒くさい作業を、夜遅くまで行っていた。
ロウソクが半分程まで燃えた頃ようやく書き終えた俺は、猛烈に尿意を覚えた訳だ。急いで厠へ行って用事を済ませ、自室へ戻ろうと勇者達が寝ている廊下を横切った、その時のことだった。
見覚えのある部屋から、見覚えの無い人影が足を忍ばせて出てくる。明らかに異常だ、そう考えるより早く、俺の足は人影へと駆け出していた。
先手を取った事で不意を打ったのか、大した抵抗も出来ずにもんどりうって転がる影。そのまま首元に腕をかけ、体重を乗せる。
コキ、という小気味の良い音が、明確な絶命の印であった。腕を離して顔を見ると、やはりそれは見知らぬ者。
嫌な予感のままに、目の前の部屋へ入る。ここは確か、自分を散々こき使っていた少女の部屋だ。リーダー格だったのか、同じような金髪の少女を多く後ろに引き連れていたのが印象に残っている。
「……やっぱりか」
国の中でも一級品であろう枕にマットレス。それらは血の海に沈み、見るも無惨な姿になっている。いや、真の無惨はこの少女の方であろう。
一突きされた首元からは未だにドクドクと生暖かい血液が流れ出しており、既にそれが致死量である事は想像に難く無い。キツい眼光を向けてきた目は穏やかに閉じられており、散々罵声を飛ばしてきた唇は血色を失い薄く開けられている。もうこの少女が二度と動く事はないのだと考えると、自然と全身の血が引いていくのが分かった。
暗部なんて稼業をやっていれば、自分が親しくなった人物が翌日には物言わぬ死体と化している事はそう珍しくない。それを行った人物は自分の場合もあるし、誰か見知らぬ奴だったりもする。
年端もいかない少女が死ぬ所だって何度も見た。そうだ、これはいつも通りの事なのだ。いつも通りに人が死に、いつも通りに人を殺す。
ーーだったら、いつも通りに人を救ったって構わないだろう?
躊躇なく袖口から小さいナイフを突き出し、そのまま自身の首筋に突き刺す。一瞬感じる痛みと、次第に遠のいていく周囲の景色。何度も感じた感覚だが、やるのは久々だなと薄れゆく意識の中でそう思った。
「ーーっは」
目が覚めるとそこは自室。窓から差し込む光と小鳥の鳴き声が、目的の達成を明確に伝えていた。
『時間遡行』。命を落とすことがトリガーとなり、ランダムな時点へと時間を戻すことが出来る。大した才能も無い俺が唯一持つ、誰も知らない能力だ。
これに気がついたのは本当に偶然だった。幼い頃幼馴染と森で遊んでいた時の事、俺は誤って森の主『キングベア』の縄張りへと踏み込んでしまったのである。
大人からは絶対に行くなと言い含められていた禁忌の領域。そこに踏み込んだ代償は幸いにして愚かな小僧の命一つで済んだ。ガキらしくも無く、あの首が吹き飛ばされる瞬間には走馬灯が見えたものだ。
……だが、次の瞬間何が起こったのか、俺は自宅のベッドの上で目を覚ました。妹が腹の上に降りかかってくるという、デジャブを感じる方法で。
当然混乱した。何せ俺が死ぬつい先程まで起こっていた出来事が、まるでビデオテープを巻き戻したかのように目の前で再生されているのだから。
そしてその後は幼馴染とまた遊び……同じ様に命を落とした。
そして三度目、妹のダイブが鳩尾に入るのを実感しながら、漸くこの世界がループしているという事実に気付いたのだ。
人よりも多少成熟していた精神が幸いして、俺は直ぐに行動に移すことができた。周りの人が死なないため、そして何より自分が死なない為に。
そうして周りに降りかかる火の粉を振り払っていたら、いつの間にやらこんな阿漕な職業に就いていたのである。これは幸いじゃ無いね、災いだね。ふざけんなよマジで。
さて、今回も無事ループで戻ることが出来た。そうと決まれば、今夜に起こるはずの惨劇を回避するべく動かなければならないと、俺は必死に奔走した。
とはいえこれが中々に大変。雑用と言う身分では大した事も出来ず、限られた範囲で調査しなければならない為、碌な情報も得られない。ならばと夜に彼女の部屋周辺を警戒すれば、夜中に城内を見回りしている兵士に見つかる始末。こうなったら恥も外聞もないと少女の部屋に忍び込み、暗殺者と直接対決紛いの事もして見せた。
……が、結果はあえなく失敗。良いところまで行っていたのだが相手も相当の手練れだったようで、隠し持たれていた第三の暗器によってそのままお陀仏である。頭が冷えたのか、諜報が領分なのに俺なんでこんな真っ向勝負やってるんだろうと翌朝冷や水を掛けられたような気分になってしまった。
確かにここの騎士団にそれとなく伝えれば勇者周りの警戒は強化されるだろう。だが、この一件は少女の周辺を警護するだけではどうにもならない。相手が狙い続けている以上、警戒が緩んだ頃に再び襲い掛かってくるだけだ。その辺の執念深さは、同業者として良く分かっている。
つまるところ、この件は完膚なきまでに相手を叩きのめすことでしか終わることは無いのだ。自分より格上の相手を、実質自分一人で倒さなければならない――これなんて苦行ですか?
という訳で俺が行ったのは、ひたすらに相手と戦うことだ。初日に不意を打てば倒せたのだ、それならば希望が無いわけではない。幸いにして、時間と機会なら腐るほどある。戦って、戦って、戦って、戦って戦って戦って――最後に泥臭く勝利をつかみ取れば良いだけなのだから。
一度目、首を裂かれて敗北。相手の右腕が閃いたと思った瞬間、首筋に走る鋭い痛みと真っ赤に濡れるカーペットが視界に入った。攻撃が速すぎて早くも心が折れそう。
二度目、脚を砕かれて敗北。相手の主武装は刀だろうと判断して、斬撃を防ぐスライム製の手甲を装備したのだが、斬撃が通らないと見るや相手はすぐさま狙いを変更。気付けば脚が砕かれていた。いや、何使って砕いたんだよこいつ。また攻撃が見えなかった。
三度目、頭を砕かれて敗北。機動性を犠牲にして防御を固めた事で以前よりも耐えることは出来たが、隙を付かれて頭蓋を砕かれた。当初は刀だと思っていたが、明らかにリーチがおかしい。もしや全く別の武器なのでは?
四度目、激闘の末出血多量で敗北。だが、これでようやく相手の武器が分かった。不可視の斬撃に、多種多様な攻撃手段。おまけに背後からの強襲と、そんなトリッキーな技が扱える武器はただ一つ。そうと分かれば、跡は十全に対策を施すだけだ。
「これで漸く……全てが終わる」
ぼそりと呟く黒衣の人影。目の前に眠る一人の少女へと向けられた剣呑な目線が、その先に起こるであろう凶事を予測させる。
振り上げられる黒衣の右腕。ここではない時間軸において幾度も振るわれたその凶刃は、しかし。
「その暗殺、少し待ってもらおうか」
「っ!?」
不意を突いてドアから飛び出し、一気に相手へ飛び掛かる。敵を目前にしてまで暗殺を強行する程の破滅願望は無いようで、黒衣は咄嗟に身を引き攻撃を躱す。
恐ろしいほどに素早い身のこなし。下手な気配の消し方といい、暗殺者としては二流だろうが、恐らく戦闘に関しては一流以上の実力はあるだろう。有利な状況に誘い込みでもすれば話は別だが、完全なタイマンでは俺に勝ち目はない。それはこれまでの経験でも明らかだ。
だが、不意を打つ時の初撃、それに体勢を立て直すまでの二撃目までは俺に圧倒的アドバンテージがある。これを利用しどれだけ最善の状況まで持っていけるか、それがカギになる。
懐から球状の物体を複数取り出し、思い切り投げつける。あっけなく不可視の斬撃により叩き落され、黒衣へと届くことは無かったが、これこそが俺の狙いだった。
斬撃が当たった瞬間、球体は全て炸裂する。ぱちゅり、という水音を響かせ広がったのは、真っ赤なインクだ。それ以上でもそれ以下でもない、ただのインク。だがそんな何の変哲もない物が、相手を封殺する重要なアイテムとなる。
「……貴様、初めからこれが狙いか」
「ああ、アンタは強いからな。絶対に条件反射で反応してくれると思ったよ」
月の明かりによってテラテラと濡れが輝く。俺の投げたペイントは、この世界に切れ目を作るかの如く、明らかに空中の不自然な位置で浮かんでいた。それも一本ではない、蜘蛛の巣でも作るかのように幾本も。
鋼糸。それが黒衣の武器の正体だった。不可視の斬撃は素早いから見えなかった訳ではない。本当に見えなかったのである。両足を無慈悲に砕いた一撃は、糸の先に重りでも付けたのであろう。遠心力を利用すれば、人一人の骨など簡単に砕くことが出来る。
だが、それも全て武器が見えていないからこそのアドバンテージ。いかに鋼とはいえ大抵の武器よりも耐久力は低い上、人をまともに殺すには何本かの糸を束ねなければならない。そして、本数が増えるほど操作の難易度は跳ね上がるというとんでもない武器だ。
いかに俺が投げたものが脆弱なペイントボールだとはいえ、攻撃だと認識したものに対して迎撃するならばそれなりの本数を束ねて対応するだろう。そこにペンキを付け攻撃が視認できるようにする、それこそが俺の狙い。
「お前の武器はとうに見切ったーーさあ、打ち倒される覚悟は十分か」
結局二十回目でようやく勝利を収めました。え、五回目くらいで攻撃見切ってたろって? 馬鹿、恥ずかしいからその話やめろよ。大見得切って返り討ちとか、今時三流の悪党でもやらねぇよ。
いやー、それにしても本当に強かった。途中から戦術を切り替えて、相手を捕獲したからなんとかなった物の、あのまま殺害に固執してたら試行回数百は行ってたかもしれない。マジやばいよアイツ。
しかも確保した後後ろでスヤスヤと寝てた勇者が起きかけたからな。慌てて寝かしつけてどうにか事なきを得たけど、これでバレてたら洒落にならなかった。変に勇者を刺激したら一瞬で消し飛ばされちゃう。
捕まえた後はお待ちかねの尋問タイム。黒幕やらなんやらのあれこれ、全てたっぷり体に聞いてやるぜグヘヘ……という展開にはならず、その作業は全般的に同僚が行うことになった。
なんでも『貴方にこの女が近づくのは危険』だとか何とか。確かに強かったけどしっかり拘束してあるんだしそこまで警戒する必要はないと主張したんだが、若干ハイライトを失った目で迫られてはどうしようもない。結局妙なやる気を出し始めた彼女に引き渡すこととなった。
尋問の結果、彼女はこの国で王宮付き騎士団において副団長の役職に就いている事がわかった。何でも唯一の家族である妹が謎の黒衣に人質に取られ、返して欲しくばと条件に出されたのが勇者の抹殺だったとか。なるほど、道理で奴が忍び込んでも警戒されない訳だ。
『こうして失敗した以上処刑は免れない。それに妹の命も最早無いだろうし、どうしようもないから早く殺せ』と主張されたが、証拠集めのために彼女の家へ行ったら当の妹が帰って来ていた。は? と思わず呟いてしまったのは仕方のない事だろう。
しかもそこから紆余曲折あって、当の副団長が何故か俺たちの協力者の枠に収まった。何故わざわざ元敵を雇用するとかいうリスクを背負わにゃならんのか、幸いにしてここは同僚も同じ考えだった様で俺と共に断ったのだが、一体どんな手を使ったのか次の日には本部から現地の協力者として雇用する様にとのお達しが届いた。マジふざけんなよあのクソ上司……胸だけでなく頭の中までスッカラカンかよ。
そんな悪態をついた所で現状は変わるはずもなし、結局日々の何ら変わり無い日常に、一人加わって来るという形で勇者暗殺未遂事件は終わりを迎えた……かに見えた。
「ホラ、今日もアタシの部屋を掃除しに来いよ。バックれたら許さねぇからな」
「昨日掃除したばかりの筈ですが……もう汚れたのですか?」
「う、うるせぇな! つべこべ言わずに、アタシの言う通りやっとけばいいんだよ! ……その、茶ぐらいは出してやるからさ」
「おっと、済まないが此奴には私も用があってな。暫く借りていくぞ」
「な、副団長!? アンタがコイツを連れてく必要ないだろ! もう専門の使いだって付いてるじゃねぇか!」
どうしてこうなった。思わずそんな言葉を思い浮かべてしまう位にはカオスな状況だった。
百歩譲って副団長は分かる。こちらもある程度監視しなければならないし、ある意味好都合でもある。しかし、勇者の少女は何故こうも付きまとってくるのだろうか。あの夜の事はバレていない筈なんだが……。
というかお二方とも何で掃除を頼んでくるの? 別に得意じゃないし、何だったら逆に汚くなるまであるけど? ちらっと見たとき、二人とも部屋キレイだったじゃん。
あ、団長丁度良いところに。この二人なんとかしてくださいよ……え? 両手に花で何よりだって? これなら勇者の世話役も任せられそう? 何言ってんだアンタ。春の陽気に当てられて遂に目が見えなくなったか? どこをどう見たら二人を御せているように見えるんだよ。
は? 冗談じゃない? 本気で世話を頼むつもりだ? いやいやいや本当に考え直そうぜ。もっと俺以上の適任者が……あ、逃げやがったコイツ!
お、覚えてやがれコンチクショウが!!!
主人公のイメージ像としては中の下くらいの容姿。多分この後主人公は同僚やら勇者やらにつけ狙われてストレスが溜まる毎日を過ごす事になるでしょう。