私は神様です。
目を開けると俺は闇の中にいた。ここは何処だと辺りを見渡すが眼前に広がるのは墨汁を溢したように真っ黒な景色だけ。
どこかに出口はないのだろうか? 俺は一歩踏み出した。
するとどうだ。水に石を投げ入れたわけでもないのに足元に波紋が広がるではないか。
「不思議な所だ…」
ポツリと俺は独り言をもらす。
「ふっふっ。そうでしょうそうでしょう。なんせ私が創った世界ですからね」
その声は足元から聞こえてきた。なんだと黒い地面を見下ろすと、突如光輝いた。
「なっっ!」
光を直視し目が眩む。俺は反射的にその場から退け、頭をぶんぶんと何度も振る。
そして、自分がさっきまで立っていた所を見て驚愕した。
ずぶぶと何かが光ながら出てくる。
俺はさらに半歩下がり、毛を逆立て警戒の色をみせる。
「そんなに警戒しないでくださいよー」
スローモーションに姿を見せるそれは少女のような幼い顔をしていた。猫の尻尾の様にアホ毛がピコピコと揺れている。
「だ、誰だお前は!」
「誰だお前はと言われたら答えないわけにはいかないですね。私はルシア。この世界の神です!」
ずぶぶと顔まで浮き出てた少女は得意気にそう答えた。
「神? ふざけているのか!!」
俺はまだ顔しか出ていない自称神と名乗る少女を何度も引っ掻いていく。
「や、やめて! 痛い! 痛いですってば」
地面からにゅっと腕が延びると、俺の体を掴み力任せに投げ飛ばす。
俺は体をくるりと回転させ、着地した。
「あーもう。せっかくの美貌が台無しですよ。以前もそうでしたし、まったくこれだから猫は」
よいしょと陸から這い上がるようにすると、やっと全体像を現した。
「はじめからそうしとけよ…」
「勿体ぶって登場するのがお決まりなんです!」
埃がついているわけでもないのに、ルシアは白いワンピースを叩き、そうだこれもですよねと指パッチンする。
すると、ルシアの頭上に黄色いリングがふわりと現れた。
「それって天使だろ!」
「違いますー 神様だって天使のわっかをしてるんですー」
そう言ってルシアは風船みたいに頬をぷっくりと脹らませる。
ムカつく。俺は飛んで噛み付きたい衝動を抑え、今更気づいた質問をぶつける。
「お前…何で俺の言葉がわかるんだ?」
「だから言ってるじゃないですか。私は神様だって。神にかかれば猫語を聞き取るのも容易い事なんです」
ルシアはえへんと胸を張り、しかしこれは不意討ちでしたと思い出したかのように引っ掻き傷を撫でる。
すると、どんな手品なのかルシアの手が淡白く光り、傷をみるみるうちに消していく。
まさかこいつ本物か? 俺は唾を飲み込み、半歩下がる。勿論警戒は解かずにだ。
「う~ん、このパターンを見るのも何度目か。まっしょうがないですよね。知らない者を警戒するのは最早野生の本能ですから」
無駄話もここくらいにとルシアは再び指を鳴らす。すると、どこからともなく、辞典と同じ厚さの赤い本が少女の手に現れた。
ルシアはペラペラと捲っていき、探していたページが見つかったのか、はたと手を止めた。
「ふんふん。弁慶さんって名前なんですか。おっしかも三毛猫のオス!! 珍しいですねー」
何で俺の名前を。ルシアは俺の驚愕を他所に本に視線を流して言葉を続ける。
「嫌いな場所は煩いところ。猫らしいですねー。えーと逆に好きな物は…へーなるほどねー 」
ルシアは悪戯な笑みを浮かべていた。その顔だけで好きな物欄に何が書かれているのか容易く予想できた。
俺は一気に駆け出し、ルシアの細い足に思いっきりかぶりつく。
ルシアはギャーと悲鳴をあげながら、その本を落とした。
「お前何が目的だ…!!」
「うぐぐ酷い。一度ならず二度までも。前の猫だって引っ掻くだけだったのに」
「煩い! とっとと答えろ! 俺を脅して何するきだ」
「脅す? ああ、そいう風に考えたんですね。嫌だなーそんな事するわけないじゃないですか。私はあることを説明しようとわざわざこの空間を創って呼んだだけですよ?」
「呼んだ? 一体なんのために」
ルシアはまた不思議な手品で噛まれた傷を治すと、またもや指をパッチンと鳴らす。
すると俺の頭上に小さなくす玉が現れ、パカリと勝手に割れた。
そこから花びらが舞い落ち、小さな垂れ幕が落ちる。
そこには。
「おめでとうございます弁慶さん! 貴方はこの度我々神々の主催する参加企画の一匹に選ばれました!」
獣戦争ーー赤く太い文字でそう書かれていた。




