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一人と一匹

 ぽかぽかな陽射しが眠気を誘う。

 俺は大きく欠伸をする。首輪についている小さなネームプレートが揺れた。

 弁慶。ネームプレートにはそう刻まれている。

 無論弁慶とは俺のことだが、実は弁慶と言う名前はあまり気に入っていない。

 昔、写真やテレビで見たことがあるが、弁慶は大柄な男だった。

 俺の体は細い。どう考えても弁慶の格好とは釣り合わないだろう。

 そして、なによりこれが肝心だが弁慶は人間だ。俺は人間ではない。

 俺の顔には髭が生えて、茶色と白と黒の毛に覆われている。牙も生えて、爪もながい。

 そうここまで言えばおわかりだろう、俺は三毛猫なのだ。

 

 では、猫の俺にその名前をつけたのは誰かというと.... 時計がボーンと鳴り午後四時を知らせる。

 俺はその場で欠伸をすると、体を伸ばし出来る限り柔軟にする。

  どうやら.... 名付け親が帰ってきたみたいだな。

 

 「ただいま!!」

 玄関のドアが開くと、こちらに近づく音が聞こえる。奴が.... 来る!

 「ただいま!! 弁慶~ 会いたかった!」

 その瞬間女性ーー 浜野鮎(ハマノアユ)はセーラー服のスカートをなびかせ俺の方へ突っ込んで来ると顔面を俺の顔へ擦り付けてきた。

 ああ! こいつはまた制服で抱きつきやがって。毛がつくだろ!

 「にゃ~、にゃ~!」

 「あ.... そっか制服だと毛がついちゃうね。ごめんごめん」

 勿論 鮎には俺の言葉が聞こえる訳ではない。しかし長年一緒に住むと俺が何を言っているのか分かるらしい。

 「じゃあ、一緒に部屋に行こ? 沢山可愛がってあげるから。」

 .... 長年住んでもこいつの猫コンプレックスは未だに分かんないけどな。

 無論俺の答えはNOだ。

  「あー! そっぽ向くとか逃げる気でしょ! だったらこれならどうだ!」

 鮎は鞄を探ると赤い字で『どんな猫もこれでイチコロ!』と書かれた猫缶を見せつけた。

 く! 行ったら嫌な予感しかしないのに猫の本能が!!

 気づいたときには俺は鮎の部屋へと入っていた。


 鮎の部屋は青春を謳歌している今時の高校生の部屋と思えないほどガランとしていて、机に椅子、その隣には本棚にクローゼット。壁の隅にベットが置いてある。

 本棚には勉学の教科書ばかりで、見ていて飽きないか? といつも思う。

  鼻唄を歌いながら鮎はセーラー服を脱いでいき、下着姿になると、

 「う~ん。またブラがきつくなったかな?」

 純白の布に覆われた豊満な胸を持ち上げると鮎はそう呟き、後ろに立っていた俺の方へと振り向く。

 「いやーん! 弁慶のエッチ!!」

 いや、そんな赤い顔で言われても.... そもそもお前が呼んだんだろ。後俺は猫だから興奮しないし。

 鮎は黒髪ツインテールに束ねており、容姿端麗成績優秀の女だ。それにとても柔らかそうな体つきをしている。

 もし俺が人間だったら間違いなく惚れている。.... まぁ猫でも惚れているけどな。

 「ふぅー。着替えたしこれで心置きなく弁慶に甘えられる!」

 はぁー程ほどにしてくれよ。

 その後俺は鮎にとことん遊ばれた。


 「ねぇ弁慶.... 何で弁慶は人間じゃないの?」

 鮎はベットに寝転がり俺を抱き締めながらそう言うと、俺の顔を胸へと当てる。ムニュと柔らかい感触が俺を包む。

 「ほら分かる? 私がドキドキしてるの。可笑しいよね.... 猫に恋するなんてさ。」

 いや、巨乳で何も聞こえないけど。

 「ふぅわ~、弁慶と一緒にいると安心して眠くなっちゃうよ。」

 その発言通り、鮎は眠りについた。俺を抱えたまま。

.... 俺は湯タンポか!!

 それにしても何で人間じゃないの? か。それは俺も知りたいけどな。

  鮎の奴余程気持ちいいのか、凄い顔して寝てる。美人が台無しだぞ。

 「う~ん、弁慶....  行かないで」

 .... たく、夢でも俺を見てんのかよ。安心しろ俺は何処にも行かねーよ。

 だからお前も何処にも行くな。


 俺は知っている。鮎のベットの下には小さな箱があることを。

 俺は知っている。その箱には、カッターナイフや荒縄、そして睡眠薬が入っていることを。

 俺は知っている。お前が不安な顔をして帰った翌日には睡眠薬が減っていることを。


 今日はとても安らかな顔をしているから睡眠薬を飲むことはないだろ。

 この先もお前が甘えたいときは存分に甘えてもいい。


 だから頼む.... どんなに辛い毎日でも生きてくれ

 

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