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冒険、それは危険で甘美的な物語   作者: 阿賀沢 隼尾
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第一章 第七話 冒険部の合宿計画

今日は灰色の雨雲が空に広がり、雨が降っていた。

「ふぅ~。やっと終わった~!」

桜はそう言いながら、猫みたいに掌を空に向けてのびをした。桜の明るい栗色のミディアムロングの髪がサラリと揺れる。

「さくちゃん!疲れたよ~!!」

牧野陶子が前の席に座って桜の机にぺったりとほっぺたを乗せる。牧野の子犬のような長い睫毛がチラリと見える。


牧野の雪のように白い肌が見えた。

やっぱり陶子ちゃんの肌は綺麗だな。

「陶子ちゃんの肌って綺麗だよね」

桜はポツリとそう呟いていた。

「なに~?さくちゃん皮肉?」

牧野がニヤリと笑みを浮かべて言った。

桜はそんな牧野の態度に少し不満を感じ、わざとらしくぷっくりと頬を膨らまして

「そんなんじゃないよ!陶子ちゃんを見ててそう思っただけだよ。なんか、お人形さんみたいに綺麗だなぁって」

牧野は不審そうな目で白神を見つめる。

「えー、そんなのさくちゃんに言われると皮肉にしか聞こえないー」

「なんでよー!」

二人がそうして言い争っていると

「白神・・・」

言い合う二人の背後から桜の名前を呼ぶ人がいた。

が、二人は気が付かない。

「だって、陸上部の赤城くん、陶子ちゃんの事好きなんだよ。この前告白されたの私知ってるんだからね!」

牧野は白い肌をポッと赤らめて「なっ、なんでそれをさくちゃんが知ってんの!?」

「白神・・・」

その人は再び後ろから話しかけるが、二人は女子トークに盛り上がっていて聞こえていない。

桜は、得意げな顔で

「へへーんだ。私の人脈と女子トーク力を舐めるなよ!」

「白神・・・」

背後から二人を呼ぶ声の主、森下は半分諦めかけていた。

が、もう一度聞いてみようかなとも思い、大きく息を吸って

「白神!」

と大きな声で桜の名前を呼んだ。

「あー!もう!うるさーい!あんたさっきからうっさ・・い・・・・?森下君?」

森下は閻魔様のような恐ろしい顔でこちらを見下ろしていた。

おそロシア。


彼には桜の天使のような見た目も全く効かないらしい。さらに、黒縁の眼鏡がその迫力を一層引き立てていた。

「白神、何回言わせたら済むんだ。部長から呼び出しだ。さっさと化学室に行くぞ」

桜の頭の上にポンポンポンと疑問符が5つ、6つ浮かんでいるのが見えるような顔を浮かべて、


「ご、ごめん。森下くん。て、え?呼び出し?」

「そうだ。今、小笠原から『夏休みの合宿何をするか決めるから全員集合~(*^▽^*)』っていうクソうざいLINEが来たんだよ。だから来い」

森下君の誘い方にはちょびっと不満があるけれど小笠原先輩が集合をかけているのなら行こっかなぁ。

「分かった。行くよ」


化学室の前までくると、ギャーギャー叫んでいる人の声とパンパンとエアガンを撃つ音が聞こえてきた。

なんか、この中に入るの嫌なんだけど。そんなことを考えながら化学室の扉を開ける。


ガラガラガラ


「こんにちは~」

その中はもう、異世界に来たと言っても良いほどの事態になっていた。

「坂本、敵は向こうに行った。一斉にたたみかけるぞ!」

「ラジャーー!!」

「小笠原先輩が攻めで森下先輩が受けとか最高やわ~~!!これはもうキマシタワーー!!!!それに、この新発売のBLゲーム『お前をもう離さない 3』。これは人気になるに違いないにあらへん!」

「僕のエミちゃんが~~!!!僕を離さないで~~!愛してるよ~~♪」

なにこれ?カオスすぎるわ・・・。開いた口が塞がらないんですけど。

目の前にはゲーム(エロゲー)をしている小笠原先輩。

「ウヘヘヘヘ」

小笠原の顔が緩んでニタニタと笑っている。「あ、あの」

涎出てるんですけど。

あと、目が狂人みたいになってて怖いし。

「お、来たな。それじゃ、ミーティングを始めるぞ」

小笠原はゲームを鞄の中に入れ、壇上に上がった。


「なんでもいいけど、早く終わらせろよ!」

後ろを振り向くと森下が小笠原に向かって野次を飛ばしていた。

小笠原は無視して話を進める。

「はい!今回、君たちを呼び出したのは他でもない!夏の強化合宿(という名の遊び)をするためだ!」


しばらくシーンと沈黙が続いた後、


「「「「「な、夏の強化合宿~~~!?」」」」」

冒険部員達の悲鳴が聞こえる。


迷彩服を着た吉田が立ち上がって言う

「ど、どういう事でありますか!我々はそんなこと一言も聞いていないですぞ!」

すると、小笠原が腰に両手を当ててへへんと自慢げに、

「そりゃそうだ。今言ったんだからな」

「そ、そんなのずるいであります!」

小笠原はまあまあと吉田をなだめて

「まぁ、皆落ち着いて聞け。悪い話じゃないんだ。部活や趣味、受験にこの夏休みを使いたいだろう。そんな時に仲間がいたらもっと楽しくないか」

小笠原はニヤニヤして話している。

何か企んでいるのだろうか。

「まぁ、確かに」

部員達は「仲間」という単語を聞くとふんふんと小笠原の話を集中して聞き始めた。

「そうだろう?そこでだ!今回、冒険部の初の強化合宿では自分たちの好きな事を部員のみんなで思いっきりやって自分が持っている趣味に対する熱意を!夢を!愛情を伝えようぜ!イエイ!!っていう事をしようと思う」

「小笠原、それって単にお前の趣味のギ」

森下が何かを言いかけるとビュンと何かが飛んできた。

ゴッと鈍い音がしたかと思うと、黒板消しが落ちてきた。

「うわっ、危ね!小笠原お前・・・」

小笠原は閻魔様のような恐ろしい顔をしていた。

森下は小笠原の顔を見るとそれっきり黙ってしまった。

うわー。小笠原先輩恐いなー。でも、あんな風に怒っている小笠原先輩もカッコイイ!レアもんだね!

桜は閻魔顔の小笠原を目をキラキラ光らせて怒っている小笠原を見つめていた。


小笠原は急に顔をにっこりを笑顔にして

「という事でやろうと思っているんだけどみんなどうだろうか?」

無視した!この人今のあったこと無かったことにするつもりだ。

「我々は素晴らしいと思います」

「うちも仲間が欲しいから大賛成やで」

皆大賛成。これが小笠原先輩が怖いからなのか自分の趣味を他の人に知ってもらいたい(押し付けたい)かは分からないけど多分皆の事だから後者なのだろう。


これは大変なことになりそうだ。

私、不安しかないんだけど。

「それじゃ、決定だな。ちなみに、場所は海の近くだ。女子の水着姿が見放題だ!お前ら期待しておけ。お前ら」

「「「「「うおーーー!!!!!!!!」」」」」

教室が吹き飛ぶのではないのかというほどの大喝采。みんなやっぱり男だった。

ああ、先が不安すぎる。

そして、桜はそんな気持ちを抱えたまま午後の授業に挑んだ。

お陰で授業中ずっと合宿の事を考えていて先生の話が全然耳に入らなかった。


放課後、桜は親友の牧野陶子と帰っていた。

牧野の艶の良い黒髪がサラサラと風に乗って揺れている。

「聞いてよ。陶子ちゃん。夏休みに冒険部で合宿をするんだよ」

「え?良いじゃん。楽しそうじゃん。私も陸上部の合宿あるけどとても大変そうだよ。先輩が『地獄だから覚悟しておけ』って言うし。でも、夜にはバーベキューとか花火とかするらしいけど」

桜はバーベキューと花火という単語に反応して目をキラキラと輝かせて

「バーベキュー!?花火!?良いなぁ。私なんか一日中化学の話を聞いたりサバゲーとかしそうだよ」


「あはは!サバゲーってさくちゃんの所の部員皆面白すぎ」

隣で文字通り腹を抱えて爆笑する牧野を見て桜は眉間に皺を寄せて

「笑いこっちゃないよ陶子ちゃん!嫌すぎるよー。周りは男子ばっかだし水着女子に飢えているや野郎ばっかだし」

「あはは、でも、男子ってそんなもんだよ。さくちゃん」

牧野は手で目を擦りながら

「さくちゃんなら大丈夫!部員だけじゃなくてビーチ中の野郎共の目を奪うこと間違いなしだよ!この大々々親友の牧野陶子ちゃんが保証してあげよう!」

牧野はぐっと右手の親指を突き立てる。


白神はふぅーとため息をついてから

「そんなこと言わないでよ陶子ちゃん。あの小笠原先輩がさ『自分の好きなものをより良く知ってもらう為に自分の好きなものをみんなに一日中それをやるようにしてその間に自分のそれに対する愛を!夢を!希望を語ってもらおうじゃないか!ハッハッハッ!』みたいな事を言われてさ。地獄のような合宿になりそうなんだよ」

白神の顔が余程憂鬱そうな表情をしていたのか牧野が同情モードに入る。

「だ、大丈夫だよ。さくちゃん。愚痴ならいつでも聞くし、今年の夏は私と花火とかしたり海に行ったり映画見たりして楽しもうよ。カラオケにも行ってストレス発散しよう」

白神はこの世の終わりのような顔をして牧野の胸に飛びつく。

「陶子ちゃん!ありがとう~~!!!」

よしよしと牧野は白神の綺麗な小麦色の髪を優しく撫でる。


夏休みまであと一週間。

全く、これから一体全体どうなることやら。

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