第一章 第四話 銃撃
桜は、その夜は眠る事が出来ずに、ベットの中で一晩中ずっと今日あった出来事について思い返していた。
あの小笠原先輩がいたからつい勢いで冒険部に入りますって言っちゃった!
どうしよう。やっぱり、もう少し考えさせてくださいって言った方がいいのかな。
そんな事を考えていると、空は明るくなっており、小鳥の囀りも聞こえてきた。
桜は目を擦りながらベットから起きて朝ごはんを食べ、歯磨きをし、制服に着替え、ボッーとした頭で家を出た。
どうしよう。興奮しすぎて今日全然眠れなかった。
何やってんだろうな。私。
てか、冒険部って具体的に何するんだろう?
と悶々としていると、柔らかいものが桜の視界を奪った。
「だーれだ?」
と後ろの方から甲高い声が聞こえてきた。
「その声は陶子ちゃんだ!」
「正~解~!!」
視界が明るくなると、目の前には自分より少し背の高い陶子の姿があった。
黒猫のような艶の良い黒髪に黒曜石の様に黒く輝く綺麗な瞳、そして、スラリとモデルのように長い足をしており、雪の様に白良い肌をしていた。
「おはよう!さくちゃん!」
陶子は、いつも通り明るい。
「おはよう。陶子ちゃん。今日も元気だね」
桜は、牧野の元気な姿を見ていると、自分が馬鹿馬鹿しく思えてきた。
「さくちゃん、昨日の冒険部?だっけ?どうだった?」
桜はどう言えば良いのか迷った。
まさか、「憧れの小笠原先輩がいたから入った」とか言えない。
なぜなら、陶子も小笠原先輩のファンだったからだ。
それに、まだ入ると決まった訳じゃない。
先輩のジョークだったり、実は夢でした!なんて事ももしかしたらあるかもしれない。
「さくちゃん。どうしたの?そんな難しい顔して」
陶子は桜の深刻そうな顔を見て心配そうな表情で言った。
「え?あ、あー、考え中。なんか、昨日色々あったから頭が混乱しちゃって」
あはは、と桜は笑って誤魔化す。
「そうなの?それで、冒険部はどうしたの?」
「いや、なんか、昨日行ってみたら面白そうだなぁって思っちゃって。入部しようかなって」
それを聞いて陶子は不安そうな顔をして
「え?入るの?冒険部って変人ばっかりだって聞くよ?そんな所にさくちゃん行って大丈夫なの?」
桜は両手を振って
「大丈夫だよ。なんかやりたい事見つかりそうだし」
嘘だけど。
「本当に大丈夫なの?なんかあったら私に言いなよ?」
「うん。言うよ」
白神は、チラリと森下を見ると、森下は相変わらず科学関連と思われる本を読んでいた。
昨日のあれは夢だったのかなぁ。
聞いてみようかな。
森下に聞こうとするが、本を読んでいるのでなかなか話しかけるタイミングが掴めない。
結局、その日の朝は森下に話しかける事が出来なかった。
昼休みの予鈴が鳴り、クラスは急に静かになる。
だめだ。
森下君に聞きたいけどどうしても話しかける勇気が出ない。
「はぁ、私一体どうしたら良いんだろ」
と頬杖をついて独り言を呟いていると
「白神さーん、呼ばれてるよ」
白神はまたか。と思った。
どうせまた誰かが自分に告白をしてくるのだろう。
だが、いつもの男子の告白とは少し周りの空気が違った。
何かクラスの女子たちがソワソワしている気がした。
何だろう?
白神が廊下に出ると
「よぉ、昨日ぶりだな」
「え?先輩?」
ドクンと心臓が鳴った。
白神の目の前に立っていたのはなんと小笠原 則之だった。
白神はチラリと周りを見渡すとクラスメイトがこちらを見ているのが分かった。
それだけじゃない。他のクラスからも窓から顔を出したり廊下に出たりして桜と小笠原の方を見ている。
これが小笠原効果か。流石だな。と 白神は緊張しながら心の中で呟いた。
「白神、ちょっと」
小笠原は白神の小さくぷにぷにとゼリーの様な弾力のある手を握って1つ下の階まで白神を連れて行った。
白神は小笠原の大きい手をまっとりと眺めていた。白神の心臓はちぎれそうだった。
「白神」
「は、はい!」
緊張し過ぎて変な返事をしちゃった。
白神は、バクバクと心臓を鳴らしながら白神の顔を見た。
白神は卵のように白く、艶の良い小さな顔をほんのりと紅く染めていた。
「昨日の事なんだけど」
え?昨日の事?
桜の頭の上にポンポンポンと疑問符が浮んでくる。
「本当にうちの部活に入るのか?」
「え、えと」
白神はいきなりの事で頭が混乱していた。
「無理にとは言わない。昨日はああ言ったけど、もうちょっと考えた方が良いと思ってね。うちの部活は幽霊部員が多いし、変な奴ばかりだ。君が入りたいのなら入れば良いし入りたく無いのなら断れば良い」
白神はずっと小笠原といたいと思った。ずっと小笠原先輩と一緒にいたいと思った。白神はぱっちりとした目を少し上目遣いにして
「あの、小笠原先輩、私が冒険部に入れば先輩は嬉しいですか?」
小笠原はいつもの爽やかな笑顔で桜の質問に答える。
「ああ、嬉しいよ。白神さんがいてくれると」
桜の胸がキュッと鳴る。
それじゃあ、小笠原先輩、私、冒険部に入ります。宜しくお願いします」
小笠原はにっこりと微笑んで
「うん。こちらこそ宜しく。白神さん」
あー、びっくりした。
先輩に告白されるのかと思った。
桜が教室に戻るとクラス中がザワザワとしていた。
「もしかして白神さん、小笠原先輩に告白されたの?」
「私、先輩のこと好きだったのに・・・」
などいろんな声が聞こえた。
そこに牧野が来て
「さくちゃーーん!!どうしたの!?小笠原先輩に何言われたの?まさか告白?」
と大きな声で近づいて来た。
「違うよ。部活のことで話していただけだよ。」
「そっか~。告白じゃ無いのかー」
と、牧野が大きな声で言うと、
「なんだ告白じゃなかったんだ」
「小笠原先輩が白神さんに告白するなんてびっくりした。」
「でも、なんか似合いそうだよね、あの二人」
とクラスの雰囲気が一気に変わってさっきまでのピリピリとした雰囲気が無くなった。
「有難う。陶子ちゃん」
白神がお礼を言うと、牧野はグッと親指を立てて
「なーに、良いってことよ!うちら友 達じゃん!」
そうして、その日の昼休みは終わっていった。
放課後のチャイムが鳴り皆んな帰り始めていた。
「さくちゃん今日一緒に帰ろう!」
と牧野が長い黒髪を揺らして言うと、白神は両手を合わせて
「ごめん!陶子ちゃん!今日は部活があるの!」
牧野は少ししょんぼりとして
「そっか~。そりゃ残念!それじゃ、今日は私も陸上部に行こっかな。さくちゃんも頑張ってね!」
と白く綺麗な手を白神に振る。
「有難う!陶子ちゃん!バイバイ」
と白神も手を振り返した。
「よーし!行くぞ!」
白神は気合を入れて化学室に向かって歩いて行った。
「こんにちは~」
ガラガラガラ
「誰だ!」
桜が扉を開けると本を読んでいた森下が叫んだ。
「え?あ、私だけど?」
何だろう?
このピリピリとした雰囲気。
「お前・・・。なぜ今日に限ってここに来た?」
桜は森下はの何かせり詰まった様な雰囲気を感じた。
「何故って、一応、私も今日から冒険部員だし、何?私がいちゃいけないわけ?」
桜は少し苛立ちを感じながら言った。
森下はボサボサの頭をガリガリと掻きながら
「いや、いけないってわけじゃ無いんだが、小笠原から何も聞かなかったのか?」
桜は子犬のようなくりくりとした目をキョトンとさせて
「え?小笠原部長から?いや、なんにも聞いて無いけど・・」
森下はチッと不愉快そうに舌打ちをして、
「全くあの人は。いつも重要な事を言い忘れる。白神さん、とりあえず隣の準備室に隠れるんだ!」
森下は桜の手を引っ張って隣の科学準備室に引っ張る。
「え?ちょっと!?」
準備室の中は薄暗く、様々な薬品が入り混じった独特の臭いがした。
部屋の隅には骨の標本が置いてあって一層その部屋の不気味さを際立たせていた。
桜は今一体何が起こっているのか全く把握出来なかった。
「ちょっと森下君!?」
森下は 桜の口を手で塞いで、
「!?」
「いいか?「奴ら」に怪我をしたく無かったらここから出るんじゃ無いぞ!絶対だ!」
桜は、森下の気迫に押されて口を塞がれたままこくこくと頷いた。
桜は、状況を把握出来ずに頭の中が真っ白になった。
「奴ら」って誰だろう?
「あの・・・」
と桜が言おうとした時、森下は準備室の扉をピシャリと閉めて自分だけ化学室の中に入った。
その直後だった。
耳をすますと、廊下側から何やらゆっくり近づいて来る足音がした。
音からして3、4人?
と、そう思った時だった。
バァン!!
突然化学室の扉が大きな音を立てて勢いよく開いた。
「森下!どこにいる!」
「探せ!どこかにあいつがいるはずだ!」
「どこにいる!?出てこい!」
野太い男達の声がした。
桜の頭はますます混乱してくる。
何?
今外で一体何が起こっているの?
桜は、怖くて外を見ることが出来なかった。
心臓のと鼓動が速くなる。
ドカドカと化学室の中を歩いている音だけが化学室の中に響き渡る。
その時、カッと閃光が光り、
「ぐわぁ!目が、目がぁぁ!」
と男達の悲鳴が聞こえてきた。
その直後にドンっと床に強く叩きつけられたような大きい音がし、その音を最後に化学室は静かになった。
桜は何が起きたのか全く理解出来なかった。
そして、コツコツと誰かがこちらに近づいてくる音がした。
ゾゾゾと桜は背中が凍る感じがした。
「白神、出てきていいよ」
桜は多少不安になりながらも化学準備室の扉を開いた。
「うん」
化学室には迷彩服を着た三人の男が倒れており、拳銃やライフルなどが床に散らばっていた。
何でこんな所にこんな人たちが・・・
「これ、全部森下君がやったの?」
と桜が聞くと
「まあな、少し武道には身に覚えがあるんだ」
「へぇー!凄いんだね。森下君」
森下は白神に褒められたのが嬉しかったのか頭をガリガリと掻きながら
「そうでもない」
「ところでさ、この人たちは誰?」
森下は三人に近づいていって一番右から倒れている人を指して
「こいつらは自衛組ってやつをやっててな、火曜、水曜、土日曜の放課後に化学室に来ていきなりサバゲーをしだすんだよこいつら。馬鹿だろ。で、こいつは1年3組の武田、こいつは2年2組の吉田、で、こいつがこの中のリーダーの2年1組の松本。こんな奴らだけど仲良くしてやってくれよな」
「え?サバ・・・?」
桜は聞きなれない単語に戸惑って
「サバゲー。サバイバルゲームの略。まぁ、簡単に言えばエアガンとかの偽物の銃で戦争ごっこをする遊びだ」
白神は情けなさすぎてポカーンと口を開いてしまった。何?高校生にもなって戦争ごっこ?ガキなの?馬鹿なの?この人達は一体何がしたいんだろう?白神がそんなことを考えていると、倒れていた三人が突然立って敬礼をし始めた
「流石は森下殿!!今回も完敗でした!」
今回も?て事は何回もやられているのか。凄いな、この三人。
桜は少し引いていた。
でも、その相手をしている森下くんもなんか情けないような気がする。
森下はやや疲れた表情で、
「いやいや、俺は別にお前らのご主人様じゃ無いから。学校にバレたらヤバイからこれで堪忍しとけよ。俺も相手すんの疲れるし」
三人は森下の言うことなどお構い無く、
「で、先程から森下殿の隣にいる綺麗なお嬢さんは誰でしょうか?」
「紹介する。今日から冒険部の部員になった1年1組の白神桜さんだ。何か夢中になりたいものを探しているらしい」
桜は丁寧にお辞儀をして(三人が怖かっただけ)
「始めまして。1年1組の白神桜です。宜しくお願いします。」
「おう!宜しく!!」
三人とも同時に返事をした。あまりにも息が合っていたので白神は目を丸くした。
なんなの?この三人は。
「こんな冒険部はこんな変なやつらばっかだけど仲良くしてくれよな」
「あ、う、うん」
白神の顔が思わず引き攣る。
正直、今の時点で既に辞めたいかも。
それに、森下君も大概変な人だけどね。
こんな人が冒険部にはまだゴロゴロいるか。
私の精神持つかなぁ。
でも、入るって決めたんだし。自分のしたい事が決まるまでがんばろっと!
と白神は自分を勇気付けてみる。
それは、もう空元気といっても良いものだった。
「ねぇ、森下くん。冒険部って女子もいるの?」
どうやら聞いてはいけない事を聞いてしまったようだ。森下は眉をひそめて
「いるって言えばいるけど、俺は苦手だ。」
「え?なんで?」
「会えばわかる。」
今回以上の変人に白神桜は会う事になるのだが、それは後のお話である。