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冒険、それは危険で甘美的な物語   作者: 阿賀沢 隼尾
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第ニ章 第六話 冒険をするということ

3日目のプログラムの内容が終わって、部員達は肉体的にも精神的にもヘトヘトに疲れていた。


プログラムが終わると、2日目と同じで、20時まで自由時間だった。

桜は、疲れを取る為に自分の部屋のベッドで寝ることにした。


アニーはというと、海辺に向かう小笠原にひょこひょこついて行き、相変わらず私可愛いですアピールをしていた。


桜は目を覚まし、部屋の窓を見ると外はすっかり暗くなり、無数の星が夜空に散りばめられていた。

「わぁ!綺麗!」


桜は何かに突き動かされるかのように部屋から飛び出した。

屋敷の外に出ると、夏の涼しい風が桜の体を撫でる。

気持ちいい。

海の静かで優しい波音、砂浜の砂上を歩くたびに鳴るサクサクという音。

そして、風に揺られてサアァァという木々のざわめきが桜の気持ちを優しく包んだ。

これらの自然が作り出す音のハーモニーが桜の心を和やかにした。


そういえば、今何時なんだろう?

桜はそう思ってスマホの電源を入れて確かめる。

6時30分。

集合時間まであと1時間30分ある。

まだまだ時間がある。


桜はその場にバタリと仰向けに倒れ込んで目を瞑ってみる。

今日は何かと自然に感謝したり考えたり感じたりすることが多いなぁ。

海の波音、木々のざわめき、砂と靴が擦り合うザクザクという音、髪を優しく包む滑らかな風、海独特の塩の匂いが桜の五感を刺激させる。

桜は自らの持つ五感を精一杯使って「自然」を感じる。

桜は、自分が普段の生活をしていて忘れていることがここにはあるように感じた。


「こうして海岸で風に吹かれながら星空を見上げていると人も自然の一部なんだなって感じるよな。今のような文明社会、技術社会では決して感じることの出来ない「何か」があるようなかんじがする」

この人の心を見透かしたかのような台詞は・・・

横をチラリと見てみる。

そこにいたのは・・・・

「森下君!」


「よ」

森下は、手を軽く挙げて挨拶をした。


「なんで?」

なんでいつもそうなの?

いつも私が悩んでいるときに現れて私の心を見透かしたかのような言葉を掛けてくる。

桜は体操座りをして蹲った。


「ねぇ、森下君。森下君はなんでいつも私の考えていることが分かるの?小笠原先輩の事もそうだし、今の事もそう。『人も自然の一部なんだな』って私が思った事を森下君は口にした。ねぇ、どうしてなの?」

桜がちらりと森下の方を見ると、森下はどこか悲しそうな表情をしているように見えた。

「そうだな。何でだろうな。小笠原のことは白神の表情とか見ていたらすぐに分かる。さっきのことは単純に俺の思っていることを素直に言っただけだ。ただそれだけ。お前は俺のことをエスパーだとか超能力者だとか思ってんのかもしんないけどなんてことは無い。ただ、偶然俺の考えていたこととお前が考えていたことが同じだっただけだ。そりゃ、こんなに綺麗な景色を見せられたら誰だって惚れちまうよ。俺は思ったことをそのまんま口に出しただけだ」

「そっか」

なんだか腑に落ちないけど。


「ねぇ、森下君」

「ん?今度は何だ?」

「私ね、この景色見ていると「非日常」って感じがしない?こんなに美しい景色、ここでしか見られないのかもしれないけど、この景色は毎日毎日繰り返されているんだよね」

月明かりに照らされている森下君はいつもの油っぽい、火薬臭いをプンプン臭わせてボサボサの頭を掻いている森下ではなかった。

今、桜の横にいる森下は、月明かりに照らされているせいもあってか、神秘的な、とても頼りげな人に見えた。

「ああ、そうだな。これは毎日繰り返されているんだよな。こんなにも綺麗な景色がこんなに近くにあるのに気付かないなんてな。それはただ俺たちが気付いてい無いだけなのかもしれないな」


「うん。私が求めている『刺激』も『幸せ』も私が気付いていないだけで本当は私のすぐ近くにあるのかもしれないって思うよ。私は『刺激』や『幸せ』はとても遠い存在で自分から追い求めるものだって思ってた。だけど、本当は違うんだね。『刺激』や『幸せ』は向こうから来てくれるものなんだって、そんなに遠いおとぎの国にあるものでは無くて、私達が過ごしている小さな日常のなかにあるんだね。でも、森下くんや小笠原先輩、齋藤さんが夢中になっていることは確かに私の求めている『刺激』の中の一部でなんだよね。でも、森下君が熱中になっていることはどこか「非日常」な感じがして仕方が無いんだよね。ねえ、森下君、教えてよ。一体どうすればいいの?どうしたら森下君や小笠原先輩みたいにそんなに熱中することができるの?」

「そうだな。これはあくまで俺個人が思うことなんだが、俺が化学実験に熱中したり、小笠原がギャルゲーに熱中したり、齋藤があんなに腐女子なのは『好き』だからかもな」

「好き?」

「 そうだ。それが好きだから、好きで好きで堪らないから皆頑張れるんだ。周りの人には俺達のしていることは『非日常』な出来事だ。だけどな、俺達みたいに熱中している側からみればそ れが『日常』なんだ。 俺が化学実験をしているのも、小笠原がギャルゲーに熱中しているのも、齋藤がホモゲーに熱中しているのも全部な。白神、お前は『刺激』や『幸せ』は自分から探していくものじゃない。そういうものは俺達の日常の中にあってそれを自分達は気付いていないだけ。見つけていないだけと言ったな」

「うん」

「俺はな、そういう『刺激』や『幸せ』っていうのは好きから生まれるんだと思う。自分の感性や本能を信じて自分の『好き』を見つけていく。それがお前の言う『刺激』や『幸せ』を見つけるヒントになるんじゃないかと思う」

桜は森下の言っていることが自分が話している森下とは別人のような気がした。


本能。

感性。


いずれも、普段の森下からはイメージすることが出来ない言葉だ。

桜は、森下は物事を考える時には、自分の感情を一切挟まずに理性的に、論理的に考えていくような理知的な、別の言い方をすれば冷たい、冷静な人間かと思っていた。

「森下君、自分の感性や本能を信じるってどういうこと?私、全然分かんないよ」

「いや、もうお前は分かっているはずだ。白神、お前は俺達と一緒の世界にいる」


「それってどういう・・・・?」

桜は森下が言っていることが全然分からなかった。

森下君達と一緒の世界にいる?

それってつまり、私はもう、「好き」を見つけているってこと?


「恋だ」


「へ?」

桜は、一瞬、森下の言っている意味が分からなかった。

「恋?」

「そうだ。恋だ。恋も本能や感性から来る『好き』だからな。理屈じゃ無いんだ。『好き』になるっていうのは。人に恋をする、化学に恋をする、ギャルゲーに恋をする、ホモゲーに恋をする。皆同じなんだ。好きになるのに理由なんていらない。全部、自分の感覚の話だからな。お前が小笠原のことを好きなのならお前の気持ちをもっと大切にすべきだ。お前はもっと自分に素直になるべきだと思う。白神、お前はそのままで良いのか?本当にこのままで良いのか?」

「自分の気持ちをもっと大切にするべきだ」

という言葉を聞いたとき、桜は全身に電撃が走るような感覚に襲われた。


自分の気持ちにもっと素直になる。

大切にする。


私は本当にこのままで良いのだろうか?

私は一体どうしたいんだろう?

思い返せば、私は自分の気持ちにずっと嘘を付いていた。

小笠原先輩の事が好きなのになかなか話せなくて、傍にいるだけで良いって思っていた。

このまま小笠原先輩に告白せずにこの気持ちをずっとしまい込んでおこうって思っていた。


でも、このままじゃいけないんだ。

このままじゃ。


やっぱり、自分の気持ちを伝えたい!

振られてもいい!

もっと、もっと自分に正直でいたい!


桜はきりりとした表情でスッと立ち上がった。

「森下君、有り難う。私、今まで間違ってた。私、明日の夜に小笠原先輩に告白するよ」

森下はふっと笑って

「ああ、行ってこい。白神。」


今日の集会も終わり、就寝時間となった。

集会では、マリーと言い合いは無かった。

というよりも、マリーはかなり落ち込んでいる風に見えた。


なんだか寝づらいな。

ていうか、私明日小笠原先輩に告白するのか!!

きゃーーー!

どうしよう?そう思ったら急に眠れなくなっちゃうよ!!!


桜はバタバタ足を動かして枕を強く抱きしめる。


「五月蠅い。白神さん」

隣から嫌な声がした。

「何よ。あんたには関係ないでしょ?マリー」

「ある。おおいにある。でも、今の私にはもう関係ないかな?」


「え?」

それって一体どういうこと?

「私ね、振られちゃった」


そんな・・・・

「だって、あんなに・・・」


今だから分かる。


顔も小さくて、絹のように綺麗な金色の長い髪をしていて、宝石を埋め込んでいるかのように綺麗で大きな青い目をしていて、長い睫毛をしていて、細くて、そんな風に見た目は可愛くてか弱そうに見えても実は、強気で、小笠原先輩にアタックして、前向きで、素直に自分の気持ちを小笠原先輩にマシンガンのようにドシドシ言っているマリーの事を私は心の奥で憧れていたのかもしれない。


いつも言い合っているけどマリー、私ね、マリーの事好きだよ。

本当はね。

本当は・・・


「ねえ、マリー、」


「ん?何?いつもみたいに嫌みを言うつもり?」

マリーは少し涙声で言った。


「私ね、マリーと友達になりたいな」

マリーはそれを聞くとぷふっと吹き出してははっと笑い出した。

「あはは。白神さんって変なこと言うんだね」

「え?」

「私達、もう友達じゃん。一緒に同じ人に恋をして、夜中までその好きな人の話をして、一緒に喧嘩をして。それってもう友達じゃん」

私は、マリーのその言葉を聞いてホッとした。


そっかぁ。友達か。


そう思うとなんだか腹の中から笑いが込み上げてきた。

「あはっ、はは、ははは」


その夜は、二人で夜中になっても飽きるまで笑っていた。


次の日、マリーと桜は一緒に朝食を食べた。

昨日まであんなに仲が悪かったのになんで今日はこんなにも仲が良いんだ!?

恐らく、その場にいた冒険部員の全員がそう思っただろう。

勿論、小笠原先輩や森下先輩も。


桜は、小笠原の様子を観察したが、いつも通りの小笠原先輩にしか見えなかった。

その後、予定通りに森下の「科学実験」が行われた。

実験の内容としては、

〔午前〕

・スライムを作ろう!

・飴を作ってみよう!!


〔午後〕

・火薬、銃、花火の仕組みを知ろう!

・実際に火薬を作ってみよう!!


なんだか最後の方は駄目なものが色々と混ざっているような気がするが、森下の科学実験はこんな風に進められていった。

その中で、桜とマリーはまたまた同じチームになった。

が、今回は喧嘩も言い合いも無く仲睦まじく楽しく作業をしていた。

午後のプログラムに関しては、森下が注意事項をこれでもかというほど言っていたので最も危ないサバゲー三人組もなんとか怪我無くプログラムを終える事が出来た。


その日の夜、桜は小笠原を別荘の近くの浜辺へと誘い出した。

「白神さんから僕を呼び出すって珍しいね」

「・・・・・・」

決心が付いたからとはいえ、やっぱり告白するのには勇気がいるなぁ。

「白神さん?」

「ひゃ!?ひゃい!!」

うわーー!

遂にやってしまった!


今絶対に私顔真っ赤だよ!

とっても熱いもん!

しっかりしろ!私!

告白するって決めたんだから!


「白神さん?どうしたの?」

「あ、あの、先輩・・・」

うわーー!キャーーー!!

恥ずかしくて言えないよーー!

「えっと、夜空が綺麗ですね」

「そうだね。綺麗だね。こんなに綺麗な星は僕たちが住んでいるような都会じゃ見れないよね」

違うでしょーーー!!

もー!

しっかりしろ!!私!


桜は自分の頬をペしペしと引っぱたく。

よし!


「あ、あの・・・先輩・・」

桜は小笠原の腕の裾を、お人形のように小さくて白い、ぷにぷにとした右手で引っ張り、もう一方の手で、緊張で赤くなっている顔を隠す。

小笠原は少し驚いた表情で桜を見下ろした。

「白神さん?」

小笠原の声は僅かに震えている。

桜は、さくらんぼ色の唇をぎゅっと結んで左手の拳を自分の胸に当てた。


ドクン ドクン ドクン


いつもより速い速度で心臓は波打っていた。


大丈夫。

今の私なら絶対に。

絶対に後悔はしない。


桜は、俯いていた顔を見上げて小笠原の顔を真っ直ぐ見つめた。

桜は、自分と小笠原との間で緊張が走るのを感じた。


「先輩、いや、小笠原先輩。私、小笠原先輩の事が好きです」

サァァと海風が二人の間を走り抜ける。

桜のミディアムロングの髪がふわりと棚引く。


「さくら」

自然と小笠原の裾を握っている手の力が強まる。

「済まない。僕には心に決めた人がいるんだ」

桜の目が見開かれる。


「そう・・・ですか」

ぽたぽたと桜の瞳から大きい透明の雫が顔を伝って地面に落ちていく。

全部、全部伝えなくちゃ。

「先輩、私、入学式の時に先輩を見て、惚れて、それからずっと先輩の事が好きだったんです。冒険部に入ったのも学校に張り出されている張り紙を見て、最初は面白そうだなってていう好奇心で見学に行ったんですけど、そこに先輩がその冒険部の部長って分かって、私、実は先輩と一緒に居たいっていう不純な動機で冒険部に入ったんです」

小笠原は、静かに桜の話を聴いていた。

「そこから先輩がギャルゲー好きって分かって、始めはギャルゲーのキャラに嫉妬していたんです。私。可笑しいですよね。それでも・・・それでも、私、先輩の事が好きで、もう、自分じゃ何が何やら分からなくって」

桜がそこまで言うと、小笠原は20cm以上もの身長差がある桜の体を抱きしめた。

「ごめんな。ごめんな。白神さん。それでも僕は、君の事を好きになれないんだ。いや、僕はもう誰も好きになれないんだ。済まない」

「うわーーー」

桜は小笠原の腕の中で号泣した。


泣いて、泣いて、泣いて。

喉と目が枯れるまで泣き尽くした。

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