第ニ章 第三話 幼馴染登場
桜達はひとまず小笠原の別荘に荷物を置いて海で遊ぼうと言う話になった。
「いやっほー!海じゃーーー!!」
桜が自分の部屋で着替えていると、野獣の奇声が聞こえて来た。
どうやら男子達はもう着替えて海に向かっているようだった。
コンコン
「あの~、白神さんだっけ?一緒に行かない?」
聞いたことのない声だった。
でも、この別荘にいるからには冒険部の一員なのだろう。
冒険部で私が関わりを持っているとすれば小笠原先輩と森下くんくらいだからなぁ。会ったことがあるのはこの前の会議の時くらいだし覚えている方が無理な話だと思う。
「別にいいけど誰なんですか?」
「あー、そっか。私、イギリスで留学に行っていたから私のこと知らないよね。私は小笠原から手紙で話は聞いていたけど。あ、手紙って言っても私たち恋人とかそんなんじゃないからね。普通の部活仲間なだけだから。か、勘違いしないでよね」
何?そのツンデレキャラ。
一体どんな人なんだろうか?
桜がドアを開けると、そこにはとびっきりの金髪美少女がいた。
「え・・・・」
黄金のように輝く金色の長い髪、さらに、ビスクドールのように艶の良い白い肌に、桜の胸辺りまである小さな体をしていた。どうやら彼女は外国人らしく、ぱっちりとした大きな瞳はサファイアの如く、鮮やかな青色の瞳をしていた。
お、お人形さんみたい。
桜が目の前にいる金髪少女のあまりの美しさにぼっーとしていると
「ねぇ、早く行かないと遊ぶ時間が減っちゃうよ!」
「あ、うん。そうだね」
我に返った桜はニッコリと微笑んでその金髪美少女と一緒に海に向かった。
海では何人かが既に遊んでいた。
「くらえー!」
「やっだな!てめー!」
水鉄砲で。
もちろん、遊んでいたのはあのサバゲー三人組だった。
こんなところまで来て銃の撃ち合いをしなくてもいいのに。老人になってもあの三人は全く変わっていない気がする。
桜は他の人がいないかとキョロキョロと周りを見渡してみる。
ビーチバレーをしている人達を発見した。
先輩たちだ。その中には小笠原もいた。
近くにはシートを敷いて寝ている人もいる。恐らく部員の一人だろう。
「取り敢えずあそこに行ってみようか」
金髪美少女はコクリと頷いた。
「おーい、白神か?一緒にビーチバレーに行かないか?」
小笠原が桜たちに話しかけた。
「はい!したいです!」
小笠原は桜の隣にいる少女に気づいて目を大きく見開いて驚愕の表情を浮かべていた。
「アニー?アニーなのか?」
「ユキくん。久しぶり!」
アニーという外国人美少女は太陽のような満開の笑みを浮かべてタタタッと小笠原のところまで走って行きギュッと小笠原に抱きついた。
「ちょっ!?アニー!?みんながいる前でそれは」
流石の小笠原もアニーの行動に戸惑ってしまい顔を耳まで赤くした。
可愛いな。
先輩とあのアニーっていう人ってどんな関係なんだろう。なんだか久しぶりに会いに来たって感じだったけど。
「あの、先輩とアニーさんってどんな関係なんですか?」
「どんな関係って言われてもなぁ。そんな怪しい関係ではないけれど、まぁ幼馴染かなぁ」
「幼馴染ですか」
桜の眉が僅かに動く。
少しズキッと心が見えない手に握り締められたかのように痛んだ。
「いいえ!ユキくんと私はそんな関係ではありません!私達は夫婦同士なんです!」
「「「夫婦!?」」」
その場にいた全員が驚いた。
夫婦ってことはもしやあんなことやこんなことも・・・
桜の脳内にいやらしい妄想がモワモワと浮 かんできた。桜はすぐに正気に戻り、自分が考えていたことを思い出して頬を赤くした。
今、私はなんでこんなこと考えたんだろ。
パンパンと頬を手で叩いて自分を叱る。
「ちょっ!?アニー!?それは昔の話だろ?今は違う!幼稚園児や小学生ならともかく僕らもう高校生だろ?そんな幼稚な夢をいつまでも見てるんじゃないよ。それに、お前だってもう16歳なんだから好きな人の一人や二人はいるだろ」
「いいえ」
アニーは爽やかな笑顔で首を振った。サラリと腰まである金髪が踊る。
「私が好きなのはユキくんだけ。私にとってユキくんは初恋の人だから。だから、全力でいきたい!」
アニーはそう言って、小笠原の手を握って細マッチョな肩にトンと小さな頭を乗せた。
小笠原はというと少し照れ臭そうにぽりぽりと頭を掻いている。
「ちいと待ちや!そこの金ロリ女!」
どこかで聞いたことのある声が桜の右後ろから聞こえた。
あの声、そして、関西弁。もしかして・・・
後ろを振り向くと、案の定、 そこには齋藤茜が仁王立ちをして、腕を組んでアニーを見下ろしていた。
「えっ」
最初に会った時はあまり気付かなかったけれど、齋藤の体を見て桜は正直目を疑った。
齋藤が女性にしては背が高いのは分かっていたが、それに加えてとてもスタイルが良かった。
モデルのように体は細く、くびれがあるのに、バレーボールの玉くらいの胸とお尻がポンと突き出しており、非常にアンバランスに感じるが、それが彼女の魅力を一層引き立てていた。
さらに、藍色のビキニから少しはみ出てしまっている胸が彼女のセクシーさを際立たせていた。
齋藤は優雅にシートの上でくつろいでいる森下をビシッと指差して
「ギャルゲ先輩はそこにいるモーリーくんと永遠の愛を誓ってんねん!お前みたいな偽恋人なんか入り込む余地なんてないねん!」
「ちげーよ」
と小笠原は齋藤の言葉を全否定して
「良いか、アニー。確かに俺はお前のことがすきだ。だけどな、僕がアニーに対して思う好きとあにーが俺に対して思う好きは違うんだ」
アニーは、小笠原に抱きついたまま、不思議そうに小笠原の顔を見上げる。
「何が違うんですか?好きは 好きではありませんか。私の気持ちに迷いはアリマセン!」
小笠原は横に首を振り、泣いている小さな子供を慰めるように、屈んでゆっくりとアニーに話しかける。
「違う、違うんだよアニー。アニーの気持ちはとても嬉しいんだけれど、僕はその気持ちには応えることが出来ないんだよ。僕にはやるべき事があるんだ。たぶん、僕と付き合ったら君を傷付けることになる」
僕と付き合ったら君を傷つける事になるって一体どういうこと?
もしかして、それが小笠原先輩が誰とも付き合わない理由なの?
「私を傷付けるって一体どういうコト?」
アニーが桜の思った同じ疑問を小笠原に問いかける。
「済まない。これ以上は何も言えない」
桜達の周りは重く、澱んだ空気が漂う。
小笠原の目は、どこか遠い、誰もいない所を凝視していた。
その時、桜は、そんな小笠原を見て背筋が寒くなるのを感じた。
こんな小笠原先輩見たことがない。
こんな暗い顔をする先輩は私の知っている先輩じゃない。
そんな、暗い雰囲気をぶち壊したのは、あの三人組だった。
「うりゃーー!!!喰らえぼけーー!!」
「へん!そんな雑魚い武器が俺に効くかよ!」
「いやっほーい!」
武田、松本、吉田の三人組が水鉄砲を持って澱んだ雰囲気の中に入ってきた。
正直阿呆だと思う。
KYだ。KY。
でも、今回に限って言えばグットタイミングだ。
その場にいたマリー含める冒険部員の間に漂っていた重い空気が一気に軽くなっていった。
「さーて!!バレーを始めよや!みんな!!ほれ!そこでぐうたらしちょるモーリーも参加せんかい!思いっきり楽しもうや!」
齋藤のその一声を合図に、人形みたいに固まっていた冒険部員達は、生れたての雛鳥みたいにぎこちなく動き出した。
「だ、だな」
「うん。そうだね。バレーしよっか」
それまで日傘の下でのんびり白神達の見物をしていた森下も面倒くさそうにしながらも、齋藤に手を引っ張られながら渋々付いてきた。
その日はビーチバレーをして終わった。
みんなヘトヘトだ。
「な、森下君強すぎ」
結果としては、
〔結果〕 白神チーム(白神、小笠原、マリー、松本)2勝
齋藤チーム(齋藤、森下、武田、吉田) 5勝
という感じになった。
というよりは、森下が殆ど点数を取ったような感じだった。
小笠原もかなり強く、もう二人のプレーの鬩ぎ合いだった。
ビーチバレーが終わると、一旦、20時まで全員別荘に帰って体を洗い、休憩することにした。
別荘に戻っている時、白神は小笠原に呼び止められて
「白神さん、済まないが白神さんの部屋にマリーを止めてもらえないかな」
「え?」
桜は顔に驚きと嫌悪感の表情を浮かべる。
「いや、まさかマリーがここに来るなんて思わなくてな。空いている部屋が無いんだ。それに今、合宿に来ている冒険部の女子は齋藤と白神さんだけだし、齋藤はしっかりしているところはあるんだが性格があれだろ?だからこんなことを頼めるのは白神さんしかいないんだよ。この前泣かした事は本当に済まないと思ってる。ごめん」
小笠原がお辞儀をした。
桜は小笠原に頼まれて正直嬉しかったが、この前の事を思い出されて不快な気持ちになった。
少し意地悪なことを言ってやろうかな。
「先輩、この前の事って何ですか?先輩は私に一体何を謝っているんですか?」
「それは・・・だから・・僕がギャルゲーが好きだって言ったことだろ?」
桜の可愛い顔の眉間に皺が寄る。
「私は別に先輩の趣味が何であろうと構いません。ですが・・・・・・先輩は私の気持ちは絶対に分から無いと思います。ですが、マリーさんの件に関しては承諾しました。それでは布団を2つ用意しておきます」
「あ、ああ。ありがとう。でも、白神さん、僕は何を謝れば良いんだ?教えてくれよ」
小笠原の顔は真剣そのものだったが、桜はそれを決して許さなかった。
そんなことも分からないんだ。
なんで?、何でなの?
桜の心にふつふつと怒りの温度が上がっていった。
「それは先輩自身で考えてください。私は・・・わたしは・・・先輩が答えを出すまで何も言う気はありません!」
桜は、怒りのパラメーターが沸騰してきたので、クルリと身を翻してして、床を強く踏みつけながら去って行った。
小笠原は、去って行く桜をただただ見つめることしか出来なかった。




