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冒険、それは危険で甘美的な物語   作者: 阿賀沢 隼尾
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第二章 第三話 合宿

遂に、冒険部の合宿の日が来た。

それでも、 桜はまだ自分の気持ちを整理しきれていなかった。あの日から2週間小笠原先輩から幾らか電話やラインが来たけれど全て無視してきた。だから、桜と小笠原との関係は現在進行形で悪化していると言って良いだろう。


このままではいけない。変わらなくては。

そう思うのだけれど、どう変われば良いのか私には全く分からない。いや、本当は変わるのが怖いのかもしれないけれど。

正解なんて無いのかもしれない。

だけど、答えが欲しい。早くこの苦しみから抜け出したい。この曖昧でドロドロとした関係から速く抜け出したい。こんなのは本当は甘えなのかもしれないけれど、それでも、何か、何でも良いから結果が欲しかった。


「ヒロインの仕草や言葉遣いがかわいらしいのが俺の心を鷲掴みにするのさ」


あの時、小笠原が放った一言が鮮明に桜の脳裏を横切った。

その度に胸が苦しくなる。


「あーあ、先輩に会いたく無いなぁ」

桜はふぅと深いため息を吐く。

白く、繊細な刺繍がしてあるワンピースにクマのキーホルダーが付いている桜色のリュックサックを背負って、待ち合わせの駅に向かって歩いていた。


待ち合わせの場所には既に小笠原先輩も森下君も齋藤さんも、あの三人も来ていた。が、中には知らない顔の人もいた。

「遅いぞ!白神!」

笑いながら冗談混じりに怒る小笠原の声が聞こえた。

後ろめたさからズキンと桜の胸が痛む。


「すいません。ていうか、みんななんでそんなに早いんですか?集合時間までまだ10分もありますよね?」

「みんなそれだけこの日を楽しみにしていたって事だ。自分の趣味、全力でやっている事を知ってもらうというのはとても嬉しい事だからね」

「そうなんですか」

桜は視線を右に逸らした。


先輩、今私とどういう気持ちで話しているんだろう?

鬱陶しいとか思っているのかな?それとも性格の悪い奴とか思っているのかな?


桜がそんな事を考えているとバスが来て

「よし!まだ全員来ていないがあいつらは自力で来れるだろう。行くぞ!野郎共!」

「おー!!」


桜は真ん中の右側の席に座った。

「隣いいか?」

そう声を掛けてきたのは同じクラスの森下だった。

桜はコクンと頷いて承諾をした。


2週間前の小笠原先輩との事はもうどうすることも出来ない。

たぶん、先輩はもう私のこと嫌いになってしまったのかもしれない。

「小笠原が心配してたぞ」

「え?何のこと?」

桜は反射的に誤魔化してしまった。


まるで桜の心を見透かしたかのような一言。

偶然?

それとも・・・

森下が口を開く。


森下は桜を叱りつけるかのように

「とぼけるな。二週間前のことだ。お前、泣きながら化学室出て行っただろ。その後、何があったかは知らねぇけど、小笠原が珍しく元気がない感じだったからな。二人の間に何かあったというのは容易に想像がつく。それに、あの後小笠原からおまえのことについて色々相談されてな・・・」

「相談?」

森下はニヤリと笑う。

「ああ、そうだ。『白神に嫌われてしまったのかもしれない。どうしよう?森下。助けてくれ~~』とか言ってきてよ。ったく、乙女かお前は!!って言いたかったぞ俺は!!」

「先輩が・・・私・・に?」

桜は真っ白で小さい手をそっと口に当てる。

「ああ見えて小笠原は繊細な性格をしているからな。あいつモテっからいつも女の子から告白を断った後の後始末とかはいつも俺にしてくる。まったく!!俺はいつもあいつの雑用係。俺はおめぇの奴隷じゃないんだっての!」


「ぷ、あはは」

なーんだ!先輩も同じか。

それなら先輩に謝ればなんとかなるかも。

桜はそっと胸を撫で下ろした。

元気のなかった桜の顔に生気が戻ってくる。


森下は不思議そうに桜の顔を見つめて

「何で笑ってんだ?お前?」

「だ、だってあまりにも森下君が面白くって!!」

「そんなに面白いこと言ったか?俺」

あと 、自分の勘違いが解けて良かった事かな。これは自分だけの秘密にしておこう。

良かった。本当に良かった。


「よーし!!着いたぞーー!!」

外に出ると、コバルトブルーの海とギラギラと輝く太陽、そして、真っ青に透き通った大空が冒険部一同の目の前に現れた。


遂に合宿が始まる。

波瀾万丈な合宿が。

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