第二層 深い森
広さは第一層も第二層も同じだと説明を受けながら、大きな石段をゆっくりと下って行くと
だんだんと樹皮や木の芽のむんむんする激しい香がしてきて、かつて聞いたこともないほどの数知れない虫の鳴き声や小鳥のさえずりが、嵐のように吹きこんでくる。
最後の石段をおりると、その視界には、森林はどこまでもどこまでも続き、豊饒というよりも無造作に、枝々は幾重にも折り重なり、法則もなく長く長く伸びていく風景が目に入る。
まるで、どこでもドアでジャングルの真ん中に、突然放り投げられた感覚だった。
アナウンサーも唖然として
「す・すごい・・・」
「第二層は、区画に別れておらず、ひとつの大きな森なんですよ。足元が滑るので気をつ・・」
とフローラ=エルフが言っている間に
「きゃぁ~~~!?」
森の中は湿気が多く、地面は落葉と泥で覆われている。アナウンサーは、ぬかるみに足を滑らせ派手に転んだ。
泥だらけになったアナウンサーは
「これ使わないで下さいよ~」
「これ生放送だぞ」
後ろのプロデューサーは、ニヤリと笑いながら答えた。
手や顔は綺麗に洗ったが、衣装は泥で汚れたまま放送は続いた。
フローラ=エルフが、地面はどこも似たような感じなので、みんな木の上に家を作って住んでいると説明し、住宅街らしき場所を紹介する。
木の上の家はどれも板壁はどこも腐りかけ、いつ屋根が崩れ落ちても不思議でない家ばかりである。
しかし廃墟とは違う。朽ちかけた板壁の中に人の息遣いが含まれているのを、アナウンサーは、感じ取ることができていた。
カメラをフローラ=エルフのツリーハウスへ招き入れると、何の飾りもない、修道院の内部のような裸かな室内で、僅かにある家具などの説明していると、小さな窓にゴブリンの子供達がびっしりと顔を付けて覗いている。
カメラを向けると、ゴブリンの子供達は何故か、蜘蛛の子を散らすように枝伝いに逃げていった。
「みんな好奇心は旺盛だけど、恥ずかしがり屋なんですよ。」
その後、周辺を散策しながら取材を続けた。
時折子供達が木登りをしたり、猿のように蔓を使って空中散歩をしたりして遊んでいるが、やはりカメラを向けると隠れてしまう。
エルフの一般的な家庭で、食事を食べさせて貰う事になった。
籠一杯にキノコを採って来たエルフが、自慢げにカメラに向けると、それは見た事も無い、毒々しいカラフルなキノコばかりだった。
直感的に身の危険を感じたアナウンサーは
「これ毒キノコじゃないんですか?」
「心配しなくても、解毒魔法を使ってから食べますので、大丈夫ですよ」
とエルフはにこやかに返し、解毒魔法を使った後、採ってきたキノコを片っ端から鍋へ放り込んだ。
「出来ましたよ! どうぞ食べて見て下さい。」
アナウンサーは、恐る恐る食すと、森の香りが響きあい、ひたひたと舌に押し寄せてくるが、調味料が無いので、素直に美味しいとは言えず、少し首を傾げてしまった。
「お口に合いませんか?」
「いえ、大変良い香りですが、私達にはちょっと味が足りない感じですが、健康的な感じで美味しいですよ」
「いつも美味しい物を食べている、日本人には、物足りないようですね。じゃとっておきの魔法の粉を使いますよ。」
「魔法の粉!?」
アナウンサーは、そんな美味しくなるような魔法があるなら、最初から使ってよ! と心の中で呟くと
エルフは、大事そうに閉まっていた、銀色の袋を棚の奥から取り出した。
ただ、その銀色の袋には、日本語が書いてあった。
『のっぽろ一番 塩ラーメン』
「・・・魔法の粉って、それなんですか?」
「はい! 初めて食べた時に、色んな味が混ざり合って余りにも美味しかったので、今は大事に少しづつ使ってますよ。何に入れても美味しくなるので、カバラ皇国では、皆これを魔法の粉って言ってます」
「そうですか・・・勿体無いので、私はこのままでいいですよ」
とアナウンサーは言い、盛られたキノコ汁を一気に頬張った。
キノコ以外にも、森の中の食料として、ドングリや木の皮を紹介するが、残念ながらこの森には果物がないらしい。
エルフの一般的な家庭で、食事を終え、第二層を歩きながらアナウンサーが、
「地上で見る、ドワーフ族、ドラコニュート族、ケンタウロス族がまったくいないけど、隠れているんですか?」
フローラ=エルフは
「木登りが苦手な種族は、下の層に住んでいるんですよ! 」
「そうなんですね。この層のラスボス的な亡骸はないのですか?」
「ここは木の魔物トレントが守っていたので、残念ながら燃やしてしまったので灰も残ってないです。じゃ下に行きましょう! 次はこれまでと全く異なる層ですよ~」
「一層も二層も全然違いましたが、三層は何が違うんですか?」
「三層は自然じゃないんです。特別ですよ~ まぁ見たら解りますよ」
年度末と言う事で仕事が忙しくなって来たので、暫く更新は週一話ペースとなってしまいます