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無限の泉


撮影班は川沿いに、いくつかの区画を進んで行った。


途中、農作業をしているゴブリン達や、蝶と一緒に舞うように飛んでいるスプライトに手をふったりしながら、他愛もない雑談を続けるなか、アナウンサーとの会話で、重要な事が明らかになった。


「ここは、どれくらいの広さ何ですか?」


「う~ん・・・形は円なんだけど、地上で言えば、手稲から夕張くらいかな?」


「そんなに広いんですね~」


何気ないこの一言に、世界は注目したが、当人たちは、気が付く事はなかった。



奥へ奥へと話しながら歩き進むと、用水路の先に、大きな泉が見えて来た。


その水面は、底に何か歓楽境めいたものを秘めていて、その明りが洩れ出ているような、この世の物とは思えない妖しい美しさであった。


「ここが無限の泉です。泉から湧き出る水で作物を作り、飲料水として使っているので、我々の命の源とも言えます。元々は毒が混ざる水だったんですけど、ウンディーネ族の皆さんが、この中で暮らし水を浄化してくれているんですよ。ね?」


フローラ=エルフが泉に目を向けると


「そうですわ~」


泉に水柱が立ったかと思ったが、それは半透明な人間の姿をしていた。


これには、ここ数カ月ほど様々な事が起きて、少々の事では驚く事がなくなったアナウンサーも


「・・・あっ・・・」と叫びかけた。けれどもその声は、まだ声にならない次の瞬間に咽喉の奥へ引返してしまい、息を呑んだまま唖然となってしまった。


呼吸を整えるために、一度深く息を吸い込んでから


「・・・ウンディーネ族の皆様は、地上で見かけませんが、ここから出てないのですか?」


「外へ出てますですわ~、でも地上じゃなくて水中ですわ~ 豊平川には100人以上おりますですわ~」


「そうだったんですね。気が付きませんでした。」



「日本の食べ物はどれも美味しい物ばかりで、とても羨ましいんですけど、水だけは、泉の水と比べるととても不味く感じます。この水を飲んでみて下さい」


フローラ=エルフは、用意していたグラスで水をすくいアナウンサーに渡した。


それはまるでグラスを持つ手までがすきとおってしまいそうなほどの澄んだ冷たい水


アナウンサーは、恐る恐る口に含んだ後、一気に飲み干した。


「美味しいいいいい!? 水の表現は難しいんですが、なんと言うか、純粋そのものなのに、豊かなふくらみのある純粋さ・・・もっと言うと、この水はしっかりとした味の像、クリスタルガラスのように、実に透明な味です。」


上手く例えたと思い、どや顔で絶賛するアナウンサーに、フローラ=エルフもまるで自分が褒められているように喜んでいる様子だ。



すると・・・


「あっ!? あの人は誰ですか?」


アナウンサーは、泉の反対側の人影に気が付いた。


「満子さんですよ。泉の水で、もやしを育ててくれているの。」


フローラ=エルフが大きく手を振って手招きをするが、


満子は、ハエでも追い払うように顔の前で手をひらひらさせ、首を振って奥へと行ってしまった。


「満子さん、なんか嫌みたいですね。第一層はこれくらいにして、下に行きましょう」


カメラの後ろにいるプロデューサーが、スケッチブックに急いで書いた汚い字でカンペを掲げた。


『老婆の事をもっと聞け』


それを読んだアナウンサーが


「あの人は、何故ここにいるんですか?」


「満子さんは、山の中で最初に出会った日本人なんです。お怪我をしていたので、地下迷宮都市で治療する事になって、そのままここで暮らしています。」


「そうなんですか、無理矢理、拉致したりしてないですよね?」


「最初は、我々の存在を知られたくなかったので、しばらく外へ出ないようにお願いしてましたけど、満子さんもここが気に入ってくれたようで、今はうどんの作りかたとか、もやし栽培とかを皆へ伝えてくれてます。」


「そうなんですね。是非お話を聞きたいのですが・・・」


「満子さんどっかに行ってしまいましたね。時間も限られているので下の層へ行きましょう。」



年度末と言う事で仕事が忙しくなって来たので、暫く更新は週一話ペースとなってしまいます


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