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避難所


セシリアの自動車移動解禁の声明を受け、多くの市民が自家用車や臨時に運行された市営バスに乗り込み、周辺の小樽、江別、恵庭などの避難所を目指し避難を始めた。


その時点で、あまにも多い避難民で、既にどこの避難所も満杯であり、溢れた避難者は、避難所周辺の駐車場や広場、畑などにテントを張り過ごしていた。


避難所の利用者数に対しトイレの数が少ないため、トイレを使うにも行列し更には、トイレが使えず外で穴を掘って用を足すという事で何とか乗り切っていた。


食事もおにぎりや乾パン、菓子パンやカップ麺ばかりで食欲をなくし、不満もつのっている。


中にはお年寄りや食物アレルギーの人が食べられないものもあったりして、本来は活力の源となる食事がストレスの原因にもなっており、収容人数を遥かに超えた避難所は、まともな状況ではなかった。


また、通院できないので薬が手に入らず、持病を悪化させる人もおり。そこに、やっとボランティアで看護師さんや介護士さんが駆けつけてくれた時に


「ボランティアの役目の大きさに気付かされ、彼女達が本当の白衣の天使に思えた」と口々に話す人もいる。


このように、避難所での生活は人間としてぎりぎりの状態である。



しかし、セシリアの声明後に避難した人達は、避難所にもはいれずもっと、悲惨な現実を突きつけられる。



平岸の買ったばかりの新築マンションに、妻と小学生の子供二人と暮らしていた岩沼は、セシリアの声明を受けて、直ぐにワンボックスカーに必要な荷物を詰め、早朝に避難を開始した。


36号線を南下し恵庭へと入り、100カ所ほど避難所として指定されている公園や施設を周るが、どこも満杯で車で近づく事も難しかった。


岩沼一家は、恵庭を諦め千歳まで足を延ばしたが状況は変わらなかった。


「やっぱり札幌市民を受け入れるには、周辺の市町村レベルじゃキャパ超えてるな~」


「もう、苫小牧か室蘭まで行った方がいいんじゃない?」


半日車で避難所めぐりしているが、妻はまだ呑気に旅行気分のように話し、子供達は後部座席でゲームに熱中していた。


タブレットで指定避難所を調べながら、苫小牧、室蘭と車で走り回るが、どこも満杯で陽が暮れてしまった。


「もう、指定の避難所に入るのは、無理っぽいから、洞爺湖辺りで車止めれる所で車中泊するしかないな」


「まぁ一日位なら、キャンプみたいでいいかもね!」


洞爺湖周辺の駐車場もどこも満杯で、何か所か周ると、やっと一台分のスペースが空いていたので止める事が出来た。


食事は、缶詰やレトルト食品も持参して来ていたので、今日の所は何とかなったが、そこはトイレも水道も無く非常に不便であった。


特に林の中へ入り、こっそり用を足すはめになった妻は、めそめそ泣きながら


「暗くて怖いし、虫いるし、お尻虫に刺されるし・・・」


最後は、悲しい思いがこみ上げてきて涙のダムがいっぺんに切れたように泣きじゃくっていた。


岩沼一家は翌日、避難所もしくは、もっとましな場所をと思い、一日中車で探し周ったが、結局、同じ駐車場に戻ってきた。


指定避難場所では、自治体や自衛隊による炊き出しや、生活必需品の支援などが優先的に行われるが、それ以外の場所ではそうした支援は受けられない。


その駐車場で避難して来た者同士、水や食料を融通し合い何とかしていたが、紙おむつや生理用品など明らかに足りない物があり、誰かがTwitterで呟くと、近隣の住民が駐車場までわざわざ持って来てくれたりした。


困っている時に、ちょっとした事で助けられると、不意に、胸の奥が白湯でも飲んだように温かくなるものである。


しかし、岩沼一家は、その駐車場で3泊した後、残った食料や水を周りの避難者へ全て融通し、自分達は、札幌の家に帰る事にしたのであった。




近くに身を寄せる事が出来る親類がいる者や、東京などへ自費で避難出来る者を除き、避難生活に耐えられない者達は、リスクと現状を天秤に掛け、札幌へ戻る者達が増えて来ていたのである。




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