捕虜
荒谷は、遺体での人体実験を見て捕虜たちが心配になり、輸送ヘリに乗り、苫小牧沖に停泊している輸送艦おおすみへと向かった。
おおすみには、北海道大演習場で捕虜とした亜人700人前後が収容されているのである。
当初、武装解除したとしても、人並み外れた身体能力と魔法により、捕虜としての扱い難しい為、捕虜とはせずカバラ皇国への返還を予定していたが
防衛省情報本部から捕虜とするように指示が出た為、万が一の事を考え地上ではなく、洋上の艦船を使い収容する事になった。
おおすみの隣には、護衛艦あぶくまが、何時でも攻撃可能な状態で照準を合わせたまま停泊していた。
おおすみに着陸すると、荒谷は亜人達が収容されている格納庫へと向かった。
格納庫には、無数の監視カメラと各種センサー、自衛隊の装備とは思えない、見た事がない機械があるが、亜人達は、手錠も足枷も柵もなく自由に過ごしていた。
荒谷は、日本語の話せるエルフを見つけここの生活について、根掘り葉掘り聞いた。
捕虜となった亜人達は、治療も施され、食事も一日に3回も用意され美味しいと、待遇には満足していると話した。
「おにぎり、パン、カップ麺は、どれも毎日違う味で最高だよ!」
「そうかい・・・それでいいのか・・・不満は何かないのか?」
「毎日、血を取られるんだ・・・あと、水が地下迷宮と比べると不味すぎだよ」
「まぁ水は我慢してくれ」
亜人達が特に問題だと思っていないからいいが、荒谷からするとかなり怪しい感じがしていた。
ちょうど、ランチタイムになった頃、様々な種類のカップ麺が持ち込まれ、亜人達は、楽しそうに選んでいるが、お湯が用意されていないのである。
空のヤカンを数個置いて、給仕担当の4分隊は、持ち場に戻って行った。
亜人達は、手慣れた感じで魔法でヤカンに水を貯め火を起こし沸騰させて、カップ麺にお湯を注いでいた。
(魔法を使わせて分析してるのか、これ位ならいいだろう・・・)荒谷は思うが口には出さない。
昼飯の後は、甲板へ上がり、自衛官と一緒に短距離走、持久走を競うように行ったり、ダンベルを使って筋力トレーニングを行っているが、これもデータを取る為にやっているが、亜人達も単純な物で、力を見せつけるように全力でやっている。
ライカンスロープは100mを6秒で走り、ケンタウロスは片足を失ったリリス族の少年を背中に乗せたまま、一時間で30キロ以上走ってに余裕である。
ミノタウロスは、120キロのダンベルを鉄アレイのように片手で上下させ、もっと重い物を要求していた。
(まぁ楽しそうだから、いいか・・・)
夕方になると、治療と称して、採血やMRIで検査され、毛や爪はもちろん、尿や便も特別なトイレで採取され分析されているようである。
また、安全の確認などせず、投薬されていたので、荒谷が医師を問い詰めると、何もしないと悪化し最悪の場合は、死に至る可能性があるので、人間と同じ治療を施していると言っているが、明らかに実験の要素はある。
また、本来自衛隊の艦艇にいるはずのない、アメリカ人と思われる白人も艦内に数十人おり、魔法を使っている時は、各種センサーがはじき出す数値を、目を皿のようにして見ていた。
捕虜達が最悪の状況では無かったので、最後に艦長に一言忠告してから、千歳へと戻った。
「艦内での話は、全部亜人達に聞かれていると思った方がいい、何か企んでも、全部亜人達にばれてしまうから、変な気は起こさない方が身の為だ」
「上からもそう言われている、心配するな、変な事はせんよ。」