戦士の死に場所
自衛官による機関銃乱射事件は、幸いにも死亡者は出なかったが、この事件のおかげで市民の避難は大幅に遅れ、陽が暮れる18時の終了予定を過ぎても避難は続けられていた。
パウリーナ=ドラコニュートは、暗闇の中で輸送地点へ歩きながら、自分の存在が純粋に観念的なものに思えていた。
肉体が闇の中に溶解し、実体を持たない観念がエクトプラズムのように空中に浮かびあがってくる。
自分はここに物理的にだけ存在し、魂はその虚無の宇宙を彷徨っている。悪夢と現実の奇妙な境界線を。
北海道大演習場での戦いで、メスだと言う理由で、後方のリリス族の護衛をしていた為、初弾の砲撃で気を失い、無事だったリリス族に担がれて地下に戻されていた。
聞けば、3万の兵はほぼ全滅したと言う・・・
こんな屈辱をおめおめと受け入れる者は、戦闘種族であるドラコニュート族にはいない。
自分の魂は死んでいるのである、一人でも多くの自衛官を道ずれに肉体の死を迎える為、ここへ辿り着いた。
熱しきった狂的な復讐の念を胸に抱き、札幌市民の行列の最後尾に着くと、パウリーナに気が付いた、市民がざわめきだした。
「うおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
パウリーナが雄たけびを挙げると、行列は真ん中から2つに割れ、その先に迷彩服の自衛官がパウリーナの目に映ると、カッカとマグマのようなものが全身を駆け巡った。
「うおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
パウリーナは、真っ直ぐ自衛官へ向かい、ミスリルの剣を抜いた。
掛け声とともに打ち下ろすと、自衛官の首は、毬のように飛び転がって行った。
隣で唖然としてる自衛官を、間髪入れず右から3人斬ったあと、背後で銃を向けた自衛官に返す剣を突き刺した。
剣を引き抜くと、自衛官は半開きの口から血へどを吐き、音を立てて地面に転がった。
瞬く間に、5人の自衛官を殺害すると、市民は悲鳴を上げ四方八方に逃げ惑い、辺りは大混乱に陥った。
混乱の中、駆け付ける自衛官を一人また一人と、ミスリルの剣で斬り殺して行く
大勢の市民が逃げ惑うなかで、発砲出来ない自衛官達は、小銃に銃刀を装着し応戦するが、剣術の力量は明白で、かすり傷させ与えられず斬られて行った。
腹を剣で突かれ、瀕死の自衛官が最後の力を振り絞り、至近距離で拳銃を放つが、パウリーナに致命傷を与える事は出来ない。
剣道の師範格である自衛官が、パウリーナが剣をふりあげた隙に、みぞおちに銃刀を突きいれ、そのまま発砲するが、パウリーナは何事もなかったように、剣を振り下ろした。
「この化け物相手に、白兵戦は無理ゲーだ!」
と叫びながら一人の自衛官が、エンジンがかかったままのジープに飛び乗り、すぐさま発進した。クラッチを急激に離したためか、甲高い音を立てて車は一度前のめりになった。けれど、すぐさま体勢を立て直し、喚くようなエンジン音とともにどんどん加速する。
自衛官達がバタバタとパウリーナに斬られていくなか、クラクションを鳴らし、けたたましいエンジン音が近寄ってくる。
「どけ! どけ! どけ! どけ~」
市民や自衛官を掻き分け、ジープがパウリーナへ突っ込んで行った。
パウリーナは、5m程ふっとばされ、気が付くと銃を構えた自衛官に、完全に囲まれていた。
一瞬の静寂の後 「撃て!」
ドドドドドドドドドドット! ドドドドドドドドドドット! ドドドドドドドドドドット! ドドドドドドドドドドット! ドドドドドドドドドドット! ドドドドドドドドドドット!
数百発の銃弾を浴びながら、パウリーナは、自分はもうこれで死ぬなと悟った、それまでの苦しい訓練や人間達との戦いのシーンがばたばたと音をたて、目の当りに、細部まで明瞭に、頭の中に閃いていった。
「セシリア陛下、パウリーナの身勝手をお許しください・・・」
パウリーナは、満面の笑みで戦友達の元へ逝った。




