自衛隊の欠点
札幌テロ関係閣僚会議
あたりの空気が重みをもっていて、四方から圧し縮まってくるような息苦しさのなか、防衛省情報本部の園田は、本日の作戦結果を報告していた。
結果として、カバラ皇国軍の犠牲者は2000名以上で、自衛隊は死者12名、捕虜となったのが16名、拠点の制圧維持こそ諦めたが、札幌ドーム付近以外の路上のバリケードは撤去された。
園田が報告を終え、大臣クラスが座る円卓の後方にある官僚席に戻るが、罵倒どころか誰も何も話さず、お通夜のような重苦しい空気が部屋によどんでいた。
空気が葛湯のように重たくなってくる。こういう時は、何かしゃべった方がいいと思い、総理大臣の矢部が思いついた事を口にした。
「何故、今回こんな少人数で作戦を実施したんだ? 良く知らんがランチェスターの法則とやらでは、投入可能な戦力は集中して投入した方がいいんだろ?」
園田が立ち上がり答えようとするが、防衛庁長官の野々村が制止し自ら答えた。
「今更ですが、いくつか理由はあります。
一つめは、未知の敵の未知の攻撃手段の可能性があり、兵力の大量投入は止めました。事実、真駒内駐屯地では、一個旅団がNBC攻撃により壊滅してます。
二つめは、装備の不足です。NBCスーツや防毒マスクなど、全自衛官へ行き渡るほとの量は確保出来ておりません。完全装備は、現在千名分しかありません。
三つめは、自衛隊の致命的な欠点である、戦傷医療体制の不備の為です。自衛隊は戦争や戦闘で犠牲が出ることを想定してこなかった為、装甲野戦救急車は無く、法律の不備で、個々の隊員は、解毒どころか、痛みを緩和するための麻酔や麻薬さえも携行できません。
この状況で師団単位の兵力を投入し、大量の負傷者が出た場合には、対応出来ないのです。」
野々村は、状況も考えず普段から言いたい事を、織り交ぜて返答した。
「解ったよ、素人が余計な質問をしてしまったようだな。官房長官、世論の風向きはどうかね?」
官房長官の内村は、事前に用意しておいた、スライドとメディアの映像をモニターに映し説明した。
「あくまでも、SNSのリスニングとメディアの報道からの動向程度ではありますが、戦闘ヘリや装甲車の機関銃に掃射された、カバラ皇国軍兵士の映像は、相当な衝撃を与えたようです。
戦闘ヘリの墜落も想定外であり、墜落現場で住民を救出している、カバラ皇国兵士の映像も我々にとっては、良い影響をもたらしておりません。
また、自衛隊撤退後に、一部の市民が、カバラ皇国軍兵士の治療を手伝っており、それに共感する声も大きいです。今回の作戦による世論の風向きは、完全に逆風ですが、サイレント・マジョリティは、自衛隊の行動に否定を感じていないと思っております。」
「・・・今は、その風を受け止めるしかないな、野々村くん明日の作戦を説明してくれ」
野々村に促され、園田がモニターの前に出て説明を始めた。
「明日は、米軍との共同作戦となります。カバラ皇国軍兵士が、小中学校などの施設を占拠し駐留しておりますので、米軍の巡航ミサイルによる爆撃を行い、自衛隊は装甲車を爆撃地点に派遣し、爆撃で混乱した敵を掃射します。」
矢部が眉間にしわを出しながら
「巡航ミサイルがそれ住民へ被害が出ては問題だが、大丈夫なのか?」
「まず、今回は試験的な意味合いでありますので、巡航ミサイルは5,6発を予定し精密爆撃を行いますので、確率的にも住宅に直撃するような事はありませんが、爆風による被害はある程度出てしまいますので、事前に通告が必要と思います。」
「解った、攻撃地点の事前通告は内閣側で責任を持って行う。自衛隊側も手探りと言う事は理解しているが、十分にリスクを取って行動してくれ」