戦いは兵士に、交渉は為政者に
ゴブリン達を振り落とした恵庭部隊には、福住駅あたりに黒煙がしずかに絶え間なく、自衛官達をおびやかすように立ち昇っているのが見えて来た。
「指揮車より各車へ、戦闘ヘリ2機墜落の報告があがった、急いで現場へ向かうぞ!」
現場に着くと、札幌ドームから福住駅までの短い路上に、多数の化け物達の遺体が転がっており、その先の商業施設に一機が激突して墜落、もう一機はその奥の住宅に墜落し、火災が発生していた。
「各車ヘリに横付けし救助を行え、屋上の敵に気を付けろ! 但し絶対に住民を撃つなよ」
墜落したヘリを囲んで、マンション屋上に機銃で威嚇射撃を行いながら、装甲車のハッチを開き兵士が一斉に飛び出すと、猛烈な突風で兵士達は数メートル吹っ飛ばされ、装甲車の開いたハッチから炎により内部から焼き尽くされた。
飛ばされた兵士と迫りくる敵の間に入り、盾となり機関砲を乱射する別の装甲車は、兵士救出の為のハッチを開ける事が出来なかった。
住宅に墜落した地点へ向かった装甲車の目の前で、燃え上がる炎の中から老婆と赤子を、抱いて走り抜けていく全身鱗の化け物を見た自衛官は、当然引き金を引くことは出来ない
「化け物が住民を救助・・・俺達は何をしているんだ・・・」
銃声と兵士の悲鳴と怒号が無線で飛び交う中、指揮車内では
「隊長、車外へ出ると殺られてしまいます。負傷者はどうしますか?」
「負傷者を置いて、我々だけ撤退する訳にもいかん」
「しかし、車外へ出れば全滅します」
「降伏するしかないな・・・」
無線で全車に戦闘中止命令と降伏を宣言し、機銃からの射撃が全て止むと、指揮車から手を上げながらゆっくりと車外へと降り、降伏の意思を示した。
数分の静寂のあと、指揮官と思われるエルフが、近寄り硬く握手を交わしたのち、自衛官達は武装解除を行い、負傷者の手当てを行った
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停戦期間は、毎日カバラ皇国の亜人達と交流していた引きニートの中山元気は、テレビで生中継されている、カバラ皇国と自衛隊の戦いを注視していた。
新さっぽろ付近での自衛隊による一方的な殺戮に、目を覆いやり場のない怒りを覚え、福住での戦闘ヘリ墜落に、不謹慎であるが歓喜の声を挙げた。
福住で自衛隊が降伏した事を見て、自衛隊とカバラ皇国の戦闘が終了すると思い、家を出てカバラ皇国の亜人が駐留しているいつもの交差点へと向かった
坂を下って行く途中、石山通りを真駒内方面に向かって走る自衛隊の車両が見えた。
「もう戦闘は終わったと言うのに、何しに来てるんだ・・・」
元気は、亜人達の方へは行かず、旧道から迂回して自衛隊の進行方向へ走った。
ドカーン! と重々しい響きとともに、石山通りと五輪通りの交差点に、黒い煙が一すじ薄くなびいた
「福住で戦闘が終わったって事を、まだ知らないのか!」
自衛隊は、距離を置いて交差点付近へ銃撃を行うが、カバラ皇国軍も建物の陰に隠れ様子を伺っているようであったが・・・
制止していた装甲車が、銃撃しながら交差点に向かい前進を始めた。
「クソ! なんで止めないんだよ!」
元気は、銃弾が飛び交うなか、ファミレスの駐車場から石山通りへ出て、道路の真ん中で、両手を広げ装甲車に向かって叫んだ。
「福住では、自衛隊は降伏して戦闘は終わったよ! 何でまだ戦おうとするの!」
「・・・」
暫くの沈黙の後、装甲車のスピーカーから元気に避難勧告が出された。
「ジジ・・・ここは戦闘エリアになっております。速やかに避難して下さい。また、装甲車の進路を妨害する事は違法行為です。速やかにこの場所から離れて下さい。」
「だから、戦闘はもう終わったって言ってるじゃないか!」
「ジジ・・・福住の状況は知っておりますが、それは局地的な戦況であり、我々に作戦中止の命令は出されておりません」
「そんな・・・」
呆然と路上に立ち尽くす、元気をケライノ=ハルピュイアが、疾風のように舞い降り、抱きかかえ上空へと舞い上がった。
「なにをするんだ! 僕は戦闘を止めようと・・・」
「貴方の気持ちは解ってザンス、しかし、戦いは兵士に、交渉は為政者に、任せておけばいいザンス。どちらも貴方達市民の為に、命懸けでやってるザンス」
元気の勇気ある行動も、双方の兵士には届かず、この後、地上部隊のみで激しい戦闘が行われカバラ皇国軍は、ほぼ全滅、自衛隊も死傷者を出したが周辺を制圧した。
しかし、グローバルホークから、一万規模の大規模部隊接近の情報が入り、この地点の維持は困難と判断し、自衛隊は路上の障害物を撤去し退却していった。
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「木下隊長、今日の俺達の戦闘に意味があったんでしょうかね?」
「今更何を言ってるんだ?」
「装甲車の前に出て来た少年の言う通り、戦闘を始める前には既に、福住で部隊が降伏してましたし、実際、ここも制圧したとたんに撤退ですよ」
「俺達は、命令に従い、与えられたミッションをこなす事が使命だ、それが人命救助であっても戦闘でも同じだ」
「しかし、あいつらは倒しても倒しても、沸いてくるじゃないですか、きりがないですよ」
「いつか状況は変わる、その状況が少しでも我が国に有利になるように、我々は戦い続けなければならん。それが嫌なら退官するしかない。俺も一度真剣に退官を考えた事あるし、止めはせんぞ」
「木下隊長は、いつそんな事考えたんですか?」
「東ティモールPKOの時だな」
「何故ですか? 特に戦闘はなかったと思いますが」
「状況的には今と逆だな、望遠鏡越しではあるが、国連の事務官達の宿舎が反政府軍に襲撃された時、出て行く事が許されなくてな・・・ただ戦況を眺めていたよ・・・その時は、帰国後に退官しようと考えてた」
「そうですか・・・何も出来ない虚しさですよね・・・なぜ退官しなかったのですか?」
「帰国直後に、震災があってな、被災地で、がむしゃらに働いていたら、退官なんてこと忘れてしまったよ」
最低限のミッションをこなした木下の部隊であるが、車中は、敗戦兵が命からがら撤退するような空気のまま基地へ戻った




