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初めての女



首相官邸は、窓は広く、大通りに面していたが、騒音はまったく聞こえない。窓からの陽光が、部屋の床に敷かれた無地のカーペットを暖めているような、落ち着いた空間で、矢部は、秘書官から各国からの要請を聞いていた。



世界各国から自国民の安全確保と救出の依頼と米国、中国、ロシアからは自国民救出の為の軍派遣の申し出が来ており


米国は沖縄の海兵隊を横須賀の空母艦隊へ移動させ、中国も上海で空母艦隊を編成しロシアはサハリンに上陸部隊を集結させ各国共に派兵の準備を行っている


「準備をするのは構わんがくれぐれも我が国の領土領海への侵入は慎むように大使館へ伝えてくれ」


「総理、かしこまりました。ただ各国とも札幌に領事館を構えており連絡も可能となっておりますので、事態が急変し札幌の領事館から直接強い要望が出た場合に、行動を起こす可能性もあります」


「我が国をなんだと思っているんだ・・・」


「それでは総理、カバラ皇国皇帝との会談のお時間です。万全のセキュリティ対策を行ってますがTV会議ですので内容は全て傍受されていると言う前提でお願いします」


「腹を割って話す事は出来んのか・・・」



-----


外務省の田中を通し真駒内駐屯地の司令部にあるTV会議で日本の総理大臣との会談が決まった。


会談には最小限のメンバーで臨む事としてセシリア、宮脇、満子、ヨエル、ライラ、ケライノとした。


エルフ族スプライト族ハルピュイア族は人間への心象が良いと言う理由で選んだのであるが、満子は珍しくどうしても同席したいと要望があったので同席することになった。


TV会議と言うのはセシリアにとっては不利な状況で、直接対峙していれば表面上の言葉だけでなく、その裏にある感情を読み取れるのだがTV会議ではそれが出来ないのである



真駒内駐屯地のTV会議の回線が繋がると、画面には国家緊急事態対処会議のメンバーがそれぞれ秘書官を従え立っていた、お互いに一礼したあと着席し会談が始まる


お互いのTV会議室は、装飾というものがない、狭い正方形の部屋だった。



冒頭から内閣総理大臣矢部が話し始める


「まず誤解が生じぬように先に言っておきますが、我が国は貴方達を国家として認めておりませんので、これは交渉ではありません。」


矢部が一言話した後は、秘書官と思われる男が事前にプリントされている日本政府側の意向を読み上げた



武装解除を直ちに行い、全員投降し夕張岳での警察官殺害から、現在の札幌占領までの行為を日本の法律に従い裁きを受ける事、尚、自衛隊との戦闘は上記に含まない



「自衛隊との戦闘に関しは追及はしない、これが我が国として最大限の譲歩である、貴方達も考える時間が必要だと思うので一週間一切の戦闘行為を停止しますので、その間住民に対して食料や医薬品等の救援物資を送ります」


ここまでは事前に知らされていた内容であった為、セシリアも一週間の停戦と野幌森林公園への救援物資の輸送は了承した



一週間と言う期限は、これから活動する自衛隊の特別措置法の成立と自衛隊側の準備時間として日本側には必要な期間であった



「一週間の停戦と住民への支援物資に関しては歓迎いたします。今回の戦の責任追及に関しても受け入れる意向はあります。その上で今地下に暮らす臣民達が暮らす領土の提供はして頂けないのでしょうか?」


「冒頭に話したように我が国は貴方達を国と認めておりません。国家間の戦争と比較する意味などない」


「では日本の条件を全て飲んだとしてカバラ皇国1000万の民はどうなるのですか?」


「元の世界へ戻ればいいではないか」


「それが出来ないのです。元の世界はもう太陽が無い暗黒の世界になってしまったのです」



「・・・」



会談が膠着してしまった時、満子が立ち上がり話始めた


「矢部ちゃん、わしを覚えておるか?」


「存じませんが・・・日本人のようですが・・・」


「初めての女を忘れちまったか?食堂の満子じゃよ」


「み・み・み・つ・こさん?!」


「初めての女ってどういう事だにゃ?」


「矢部ちゃんはなぁ~中学卒業して直ぐに夕張の炭鉱に働きに来ておっての~毎日わしの食堂で飯を食っておっての、30近いわしに色目使ってきて・・・・・・」



「満子さん!?その話は止めて下さい(汗)今何も関係ないじゃないですか、それより何故満子さんはカバラ皇国の人達と一緒なんですか?」



出席者全員が二人の関係にドン引き・・・



「わしはこの子達に命を救われてのう、それから一緒に暮らしていたんじゃ、この子らは貧しい。戦後の日本のようじゃ、ただ生き残る為に戦っておる、その戦いを止めようと言うのに何故もっと話し合おうとせんのじゃ」


「私も争いは避けたい、出来れば話し合いで解決したいが条件が合わな過ぎます。下手をすると他国が自国民救出の名目で札幌に侵攻しかねません」


「恩に着せるようで嫌だが矢部ちゃんはわしがいなくて生きていられたと思うか?わしはこの子達に救われた残り短い命をこの子達の為に使う。矢部ちゃんはわしの為にひと肌脱いでくれんか?」


「満子さんの恩は一生忘れませんが、今私は日本と言う国を背負ってます。国民を裏切るような真似は出来ません」


「この子達との争いを止める事が国民の為じゃと思うぞ、誰も住んどらん山ひとつやふたつくれてやればいいじゃないか」



最後に矢部は声を荒げ 「そんな単純な話じゃないんですよ! 土地を提供して終わる話じゃない! ・・・田舎の婆さんには理解出来ないでしょうがね!」 



満子の説得にも関わらず会談は破談し日本政府は事務官レベルの会談は毎日開催する事を約束したが、一切の妥協はしないと釘をさされた


このままでは一週間後に本格的な戦闘が再開される


ただ、満子のおかげで矢部総理に心境の変化があった事をセシリアは感じていた




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