SATの戦い 後半
札幌ドーム前の交差点は主要街道のひとつでカバラ皇国が境界として定めた地点である事から300名以上の兵士で警戒を行っていた
中心部へ進軍して行った部隊は、警察官らの抵抗に合い戦闘が発生していたが、この地点では戦闘は発生せず時折近づいてくる車を追い払うだけであった
周辺の一軒家にはリリス族とエルフ族が、危害を加える意思がない事と戦闘が起きた時は巻き込まれないように十分な準備と注意をして下さい
と一軒一軒周って説明していた
マンションへはスプライト族とハルピュイア族が飛びながらベランダに降り説明して周ったが、これには住民も驚き時々悲鳴が聞こえて来るが、逆に子供達は大喜びでスプライト族と戯れていた
札幌中心部で起こっている争いとは無縁の平和な時間が流れていたが
その状況は一変する
歩道橋から周囲を警戒していたライカンスロープとゴブリンが頭を撃ち抜かれ、マンションの前を飛んでいたハルピュイアも住民の目の前で肩口を撃たれそのまま墜落した。
「敵襲だりゅーー!」「敵はどこだーー!」「どこから攻撃してるんだウオー」「どっちから来てるウマー!」
遠距離から突然の銃撃に敵の位置も解らずカバラ皇国交差点守備隊は混乱した。
音もなく繰り出される銃撃に周囲を警戒していた者達が一人また一人と物言わぬ屍となる
それぞれ物陰に隠れるが攻撃の方向さえ解らず次々と撃たれていく、リリス族が上空の鳶の視界から周囲を探るが敵の姿は見えない
一人のエルフが目を閉じて風の音を感じる事で敵の場所が解った
日糧パン工場を指差し
「あそこの砦から筒で攻撃しているぞ!」
日糧パン工場を目指し直ぐにドラコニュート達がケンタウロスに跨りライカンスロープ族も追従し銃撃を避けるように国道ではなく住宅街を疾走する
ミノタウロス族とゴブリン族も遅れながらも必死に向うが、巨体のミノタウロスは狙い撃ちされ工場へ辿り着く前に一人また一人と撃たれ倒れて行く
工場の敷地まで辿り着いた兵士達は工場の周囲を囲む壁に身を隠していた
「よし壁をぶち壊すと同時に砦に突撃するりゅ!準備はいいか?」
全員無言で頷く
ドーーーーン!
ドラコニュートが壁に体当たりし壁を崩壊させると同時に一斉に工場へと突撃するが、待っていたように激しい銃撃を浴びせられ敷地内の車の陰に隠れる
車の陰で突入のタイミングを計っていると、突然車が次々と爆発し工場の敷地に辿り着いた200名の兵士の半数近くを失った
その爆発で駐車場に止めてあった小麦粉運搬車のタンクに穴が開き大量の小麦粉が流れ出るとエルフが竜巻を起こし辺りが真っ白になるとドラコニュートを先頭に工場へ突入した
最初に突入した者達は工場内での爆破により全員死亡したが、それに怯む事無く後続は続々と工場内へ突入した
工場内で激しい銃撃に合うがファイヤーボールと竜巻を起こし一歩一歩敵を追い詰めていくと敵も徐々に後退していった
「本丸は上にいりゅ! 上に登れ!」
多くの犠牲を出しながらも一階を制圧し敵を上に追い詰めていくと敵が2階の窓から外へ逃げ出していた
「逃がさんりゅ! 絶対に追い詰めろ!」
一斉に追撃に向かうと
バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!・・・ドドドドドドドドドドッドドドドドド
建物の四方八方からの爆発音が鳴ると工場は崩壊しカバラ皇国の兵士達は瓦礫の山に埋もれた
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化け物に徐々に追い詰められていたSATだが、これも作戦通りの状況であった
名塚が無線で全員に指示を出す
「各自、直ちに2階の窓から隊員輸送車へ飛び乗れ!遅れたら爆破に巻き込まれるぞ!」
隊員達は、2階の窓から躊躇なく飛び降り隊員輸送車へ向かった。
名塚は全員工場から飛び降りるのを確認すると、爆破スイッチを押し自らも飛び降りた
工場を支える支柱が同時に爆破され工場は自らの重さにより一瞬で崩壊し辺りは大量の埃が舞い上がり視界はゼロである
崩壊する工場の確認もせず隊員輸送車は発車し全速力で千歳へと戻った
「確認しなかったが、全員いるか?」
「隊長!全員乗車しております!」
「怪我人は?」
「重傷者はおりません、全員かすり傷程度であります」
「???佐藤お前左目失明してるだろ?それに他にも顔に一生消えそうもない火傷を負ってるのが7、8人いるようだが・・・」
「死ぬ事はないですよ!これから女には困りそうですが、労災の給付金で風俗行けば大丈夫でしょう」
「「「「ワハハハハーッワハハハハーッワハハハハーッ」」」」
「最初に言ったと思うが、カメラとマイクで防衛庁と警視庁にリアルタイムに情報が流れてるから、いまは相当数のお偉方が見てるんだが・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「労災はちゃんと出ますかね?」
「知らんわ!」
「・・・」
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SATのCCDカメラに映された戦闘映像は、防衛庁により詳細に解析され、その後の自衛隊の装備や作戦に反映される事になった