樺太の戦い
満子が話しながら誘うようにベランダに出て行くので宮脇も付いていった
「わしは命を助けられたからの~この子達の国は戦争中の日本のように貧しい、わしに出来る事はなんでもしてやるつもりじゃ、たとえ世界を敵にしてもな」
「満子ばーちゃん怖い事言いますね。あの子達はここで何をしようとしてるんですか?」
「昨日会ったばかりじゃから難しいと思うがおぬしに世界を敵にしてあの子らの味方になる覚悟はあるのか?あるなら教えてやるわ」
「生物学者としては悪魔に魂を売っても調べたい気持ちはありますが・・・満子婆ちゃんは何故そこまで・・・」
「貧しく本当に困っているあの子らは、戦争中のわしや日本人達を見ておるようじゃ」
満子は自身の半生を宮脇へ語り始めた。
貧しい小作農の暮らしが嫌で政府が募集していた樺太移住で家族全員で樺太へ渡り必死に働き以前よりはましな暮らしとなり仕事で出入りしていた日本軍駐屯地で夫と出会い結婚するが
終戦間際にソ連が攻め込んで来て夫ら日本軍は本土からの援軍は無く孤立無援で時間稼ぎの戦いを行いその貴重な時間で満子は実家の両親と共に南へ南へと逃げた
8月15日を過ぎてもソ連の侵攻は止まらず、難民として数百人一緒に南へ移動していた満子達も遂にソ連軍に追いつかれ満子を抱え草むらへ連れて行こうとしたソ連兵に抵抗した両親は射殺された。
こんな奴に恥辱される位なら自分の舌を噛切って死んでやろうと覚悟を決めた満子であったが満子に覆いかぶさる両親を射殺したソ連兵の背中に銃剣が突き刺さり動かなくなった
ソ連兵を刺したのは同じソ連兵であった、将校と思われるソ連兵はすまなそうに頭を下げ満子の手を取り起こすとそのまま進軍していった。
やっと南端の港町真岡へ辿り着いたが既に真岡もソ連に占拠されており家々には略奪の跡が見られ本土への引き揚げ船も運行していなかった。
ソ連兵が略奪の限りを尽くすこの地から一刻も早く逃げ出したかった満子は知り合い数人と一緒に漁師の家を周り脱出の為の漁船の提供をお願いしたが首を縦に振ってくれる人は中々見つからなかった、
途方に暮れていた中、漁船を提供してくれたのはそれまで満子自身も少しばかり差別意識のあった朝鮮出身の青年であった。
満子達はその青年に何度もお礼を言いながら漁船に乗り闇夜に命懸けで稚内まで渡った
無事稚内に渡った満子だが本土に縁故の無い引揚者はその後も悲惨であった。
狭い漁師小屋に十数人住まされわずかな配給だけでは生きて行く事ができず南瓜一個を貰うために途中でソ連兵に殺された父の形見の懐中時計を農家に差し出した
なんとか終戦間際の混乱期を生き延びて来たが、シベリアに抑留されたと聞いていた夫はいつまでも戻らなかった
国のためだと散々煽られさまざまな教育を刷り込まれ身を国に捧げた結果がこれである
日本の復興も進み人々の暮らしも徐々に豊かになっていったが女一人で必死に働きただ生きて来たとしか思えなかった
「終戦後の戦闘ですか理不尽な悲劇でしたね・・・こう言う事を学校では教えてくれないですのであまり知りませんでした。」
満子の半生を聞いて宮脇が相槌を打つようにぽつりと呟くが
「日本中大変だったのは解っておる、沖縄も大変じゃったろ、でもな満州や樺太と言った外地でそこに住んでおったわしらがどんな目にあったのか・・・ロスケは好き放題に略奪しておったわ、それを何故か日本は無かった事にしておる」
ここから満子が人が変わったようにまくし立てる
戦争ってなんじゃろ?人殺しと戦争は何が違うんじゃ?国ってなんだと思う?
わしの両親を殺したロスケは人殺しじゃないのか?それを裁くのが国じゃろ
日本はわしらを助ける為に迎えに来なかったんだ?何故戦争終わってからいつまでも兵隊さんはシベリアに抑留されてたんじゃ?国は何しとったんじゃ?
わしの両親を殺したのがロスケ、わしの命を救ったものロスケじゃ
本土へ戻るのに日本人は誰も力を貸してくれず
船を貸してくれたのは半ば強制的に連れてこられていた朝鮮人じゃ
余裕がない時は人の本性が出る、国籍も人種も関係ない、人はそれぞれじゃ悪人も善人もいる
困った時国が何かしてくれるなど無い、人が人を助けるんじゃ
だからわしは、いま困窮してるカバラ皇国の人の力になりたいんじゃ
日本で街におれば、
子供のおらんわしに孫から電話が来て金振り込んでくれ!とか
付き合いで集会場へ行けば何十万もする布団押し売りされたり
無料点検と言うから家を見せたら300万請求された
国が裕福になったのに金儲けしか考えてない連中ばかりになり
この時代の人間が嫌になってひとり山小屋で暮らしてたんじゃ
わしは命を救って貰ったセシリアちゃんの味方になる




