偵察
薄暗い地下迷宮の一層に、太陽の光が線となってこぼれ出した。「希望」というものをもし絵に描くのなら、こんなふうになるのではないかと思われるほど、光は薄暗い地下迷宮をまっすぐにつきぬけていった。
小型の鉱石採掘用ゴーレムにより、1000m以上掘られた地上への出入口の前で、セシリアは肩にペットのコニーを乗せスプライト族達を前に神妙な表情で話始めた
「スプライト族の皆さま、危険な任務で申し訳ございませんが、外の世界の偵察をお願いします。外部との接触はさけて危険な場合は躊躇なく戻るようにして下さい。一時間程度周辺の観察のみで良いです」
「陛下、心配ご無用にゃ、危なかったらすぐ戻ってくるにゃ」
「そうして下さい、戻って来る事を最優先にしてくださいね。あとコニーもよろしくお願いします」
「キューキュー」とコニーも頭を下げお願いしているようであった
「かしこまりだにゃ、行ってまいりますにゃ!」
ライラを先頭に蝶々程の大きさのスプライト族とコニーは、ゴーレムが掘削した1000m以上の細く長いトンネルの中を飛んで行った
一流のテイマーでもあるセシリアはコニーの視覚聴覚嗅覚を同調させ外の世界を観察していた
コニーから伝わってくるその世界は・・・・
細長いトンネルを抜けるとそこは深い森の中であった。
豊かな木々の香りと野鳥のさえずりを風が運ぶ、森林はどこまでもどこまでも続き、豊饒というよりも無造作に、枝々は幾重にも折り重なり、法則もなく長く長く伸びていた。
空からは暖かな木漏れ日が差し込み、元の世界と変わらぬ草の匂いと、虫や小鳥のさえずり時折心地良い風が吹く
・・・セシリアは安堵と希望を感じた
スプライト達も久しぶりの陽射しを楽しみながら、草木や花とそこに群がっている虫などを眺めている
コニーは上え上えと羽ばたいて木々を抜けると視界が一気に開けた
背後には2000m級の山々が連なり、眼下には広大な畑に様々な作物が植えられているようだ
あまり大きな街は見当たらないが背後の山々から平地へ街道が繋がっており馬車のような乗り物が物凄い速さで駆け抜けている
カーカーカーー!カーカーカー!
急にコニーの視界が地面に向かいその地面がどんどん近づいて、背後から黒い鳥が鋭い口ばしを向けてコニーに迫っている
そこでコニーの視覚は、何も映すことがなくなった
「鳥の群れに襲われたのね、コニー大丈夫かしら・・・」
聴覚嗅覚は感じることが出来るので、生きていることだけは間違いないようだ
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宮脇哲太郎は、夕張岳の麓で、雪解け後の命の芽生えを感じながら観察をしていた
カーカーカーー!カーカーカー!
「ん?!梟がカラスに襲われているな可哀想に・・・・」
梟がカラスに襲われ宮脇のそばに落下してきた
襲っていたカラスは、宮脇を見ると梟を追いかけるのを、諦めどこかへ飛んでいった
普段は、自然の弱肉強食の関係に干渉する気がない宮脇であるが
「目の前で倒れられたら、ほっとく訳に行かないじゃないか・・・・」
カラスに足をやられたようで、出血がひどく骨折もしているようだ
幸いにも翼などは無傷なので、足の傷口をヨードチンキで消毒しガーゼを巻いておく
「このまま放置する訳にも行かないか・・・」
宮脇は、首に巻いていたタオルで梟をグルグル巻きにして、リックサックの中に入れ研究室へ戻ることにした
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コニーが、連れ去られるのを見守るしか出来なかったライラだが、予定通り他のスプライト族を引き連れ地下迷宮へ戻り、帰りを待っていたセシリア達へ報告する。
「陛下申し訳ないにゃ、コニーが黒鳥に襲われ人に連れ去られたにゃ」
「ライラ、コニーのことは心配いらないわ、捕らわれてしまいましたが、生きているようです。視界は塞がれてますが聴覚嗅覚は正常よ」
「それなら安心だにゃ」
「コニーのことよりも、これから種族長会議で、見て来た事を全て報告してください」
「かしこまりだにゃ」