敵の目をそらす
セシリアは地上へ向かいながら、族長達と作戦を練る
「我々が敵の位置を把握し敵は我々の位置が解らない状態を最大限に活かして攻撃したいですが、各魔法はどうしますか?」
「状況によりますが、森の中では遠距離からの魔法攻撃は難しいです」
「我々ラミア族の毒牙が有効と言う事は先ほどの戦で証明されているジャ」
「しかしどうやって近づくのアル」
「残っている敵はおぬしらより早く駆けてるぞ」
「敵はこちらに向かっておるジャ、待ち伏せジャ」
「一直線に向かっている訳じゃないにゃ」
「・・・そうジャが」
「それでは我らハルピュイア族が上から落とすでザンス」
「それで行きましょう」
「他種族は分散して敵の目をそらしましょう」
地上へ出るとアルベルトが無傷の者を揃え部隊を編成し参謀らしき者達と軍議を開いているようだった
「セシリア・・・何をしにきた」
「お義兄さま、これからの戦は妾達に任せて頂けませんか?」
「たった30人程度ではないか、何も出来やせぬ」
「お義兄さま、30人程度と申しますが、みな族長とその直下の臣下の精鋭です」
「貴様らは俺たちの戦を見てなかったのか?全滅するぞ」
「見ておりましたゆえ妾達で戦うのです。お義兄さまの部隊ではいたずらに被害を増やすだけです」
「同じ間違いはせぬ、貴様らも見ておっただろ最後はちゃんと仕留めた。」
暫く言い争っていたが、西側の二組をセシリア達が東側の二組がアルト=ケンタウロスが再編成した部隊が仕掛け、後から来る部隊をアルベルトが編成し出入口付近で本陣を張る事でお互い妥協した。
「それではお義兄さま後続の部隊をお願いします」
「セシリアお前も無理はするな、危なくなったら本陣へ戻ってこい」
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尾根の向こう側から聞こえた、雄たけびと銃声を聞いてから、森の中を罠等に気を使いながら本田と酒井は一時間も走り続けていた。
「本田さん方向はあってますかね?」
「だいたいは合っているだろう、もう10キロは無いと思う」
「一度休ませてください」
「見晴らしのいい場所が見つかるまで待ってくれ、酒井今は足を止めるな」
「了解!」
突然、88式鉄帽にカンカン! と言う金属音と軽い衝撃を感じとっさに伏せるとその傍らに弓矢が落ちていた。
本田と酒井は無言で目を合わせると短機関銃に銃刀を取り付け辺りを警戒する。矢が飛んで来た方向をナイトビジョン越しに注視するが何も見当たらない。
「俺らの足止めが目的だろうから警戒して進むぞ」
周囲を警戒しながら進み始めると前方の草木が揺れた。
「前方に何かいるぞ」
ナイトビジョンのズーム機能を最大にすると体を覆い尽くす程の大きな盾と剣を持った。化け物のような姿が映り酒井が唖然としていると、酒井の腕に矢が突き刺さり激痛が走り反射的に矢の方向に銃口を向け乱射した。
「落ち着け酒井!」
本田が周囲の警戒を怠らず酒井へ近づくと、風切り音と共に斧が飛んできた、身を屈め斧を避けると後ろから周辺が火に包まれ木々が黒こげになった。
「訳が解らんが、敵に囲まれているのだけは確かだな・・・」
酒井が腕に刺さっている矢に手を掛け抜こうとすると
「酒井、矢はまだ抜くな出血で動けなくなるぞ」
二人は背中を合わせ大木の下で周囲を警戒し正面の大楯を持った化け物に銃弾を浴びせるが盾を貫通しない。
更に後ろから鱗に覆われた化け物が銃弾を避けるよう左右に体を振りながら近づいてくるが短機関銃を乱射する事で接近を阻止出来ている
前後の脅威に最大限の注意を払っていると、また周辺が火に包まれそれと同時に無数の矢と斧が降り注ぐが二人は混乱する事無く冷静に大木を盾に防いでいると、その大木が揺れ何かが降ってきた
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二回目のファイアーボールを合図に大木の上のハルピュイア四匹は、ラミア族とゴブリン族から手を放す
「頑張ってらっしゃいザンス」
ハルピュイア族に落とされたラミア族とゴブリン族は枝をクッションに幹を伝い地上へ降りて行く
落下の勢いをそれほど落とす事無くラミア族二匹はそれぞれ人間に巻き付き毒牙を向けるが、両手で喉元抑えられ激しい抵抗を受け地面を転げまわった
「獲物は頂くアル」
人間とトゥーレ=ラミアが格闘している上からエーリッキ=ゴブリンが飛び
降り人間の喉を小刀で掻き切った。同時に隣の人間も同じように喉を掻き切られ絶命していた。
戦を終えセシリア達は敵の遺体の傍らに集合していた。
セシリアは銃で撃たれたボレリウス=ドラコニュートに治癒魔法を施しながら次の準備をしていた
「アッサールは二体の遺体と装備一式を地下迷宮へ運んで下さい」
「承知いたすウマー」
アッサール=ケンタウロスは遺体を背に乗せ装備を手に持ち地下迷宮都市への出入口である本陣方向へ駆けていった。
「ボレリウスもう大丈夫ですか?」
「ああ、かなり痛かったがもう平気だりゅ」
「それでは残った全員で谷の方にいる敵に向かいますよ」