業火の渦
戦が始まり王宮広場の民衆から歓声があがるなかセシリアと族長達は、冷静にその戦いを分析する
人間の魔法はアダマンタイトの盾を貫通せず安心したが、当初一人10発も打てないと思われた魔法攻撃だったが、既に数十発放たれ止まる気配さえなく連射されている
ケンタウロス族の大弓から放たれた矢が数本敵に突き刺さっているが、怯む事無く魔法を放っている
「矢に毒を塗らねば効果が薄いウマー」
「屈強な戦士ならまだしも魔法使いが矢をものともせずとは敵ながら賞賛しざるを得ないウッシ」
「あやつらは魔法剣士かも知れぬりゅ」
-----
戦闘地域とは別の場所で周囲を警戒していた古田達に、獣の唸り声と金属音と共にサイレンサー付き機関銃の銃声が微かに耳に入ってきた
「隊長、なにごとでしょうか?」
「普通じゃない事は明らかだ、戦闘が行われている方へ急いで向かうぞ」
「急いでも10キロ以上離れてますよ・・・走るんですか?」
「愚痴なんぞ言わずに体動かせ、他の連中にも聞こえてるだろうから合流するぞ」
-----
アダマンタイトの盾に身を隠し連射される魔法に怯む事無く一歩一歩間合いを詰めるが後ろのミノタウロスやケンタウロスが次々と倒れていく
仲間が魔法に撃たれながらも大弓から矢を放ち続けるアルト=ケンタウロスに左翼から巣穴に飛び込むライカンスロープの姿が映り弓を弾く手を止め戦局を見守る
巣穴に突撃し近接戦に持ち込んだライカンスロープ達だが至近距離からの魔法攻撃と魔法の杖の先端に付いている刃に心臓を貫かれ勇敢なライカンスロープ達は全滅してしまった
現状で打つ手がないと判断したアルト=ケンタウロスは正面部隊に撤収命令を下しゆっくりと後退すると後方から百騎のケンタウロスが猛然と突進してきた
先頭のケンタウロスに跨るアルベルト=リリスから走りながらの指示が飛ぶ
「アルト=ケンタウロスよ、貴様は負傷者を連れ地下迷宮へ戻れ、後はこのアルベルト=リリスに任せろ!」
百騎のケンタウロスの背には、大楯を構えたドワーフ族やスリングを振り回すゴブリン族とリリス族、ラミア族を乗せそのスピードを落とす事無く巣穴に突撃していった
先頭集団の大楯を構えたドワーフ族を乗せたケンタウロス達は、次々と魔法に倒される仲間を気にすることなくまっすぐ巣穴に向かい。
その後ろからゴブリン族がスリングから投石を行うと左右に散開しその開けた場所へリリス族、ラミア族を乗せたケンタウロス達が突っ込み
その馬上のリリス族から一斉にファイアーボールの魔法が放たれると巣穴は業火の渦に包まれた。
ゴブリン族が投石した石は通常の石ではなく火災石であった為、その業火の威力は凄まじい物であり
その業火の巣穴の中にラミア族は突っ込み自らの身を焼きながらも人間に巻き付きながらその毒牙でとどめを刺した
強力な敵にとどめを刺した二人の英雄は、その敵と共に業火に焼かれたまま息を引き取った
アルト=ケンタウロスによる電光石火の特攻で難敵を仕留めた
-----
王宮広場
アルベルト=リリス達の勝利を目の前にした民衆だが歓声を挙げる者など一人もおらず、ほとんどの者が下を向き恐怖におののいて震えていた
たった二人の魔法使い相手に100人以上の戦士が犠牲になり、とどめを刺したラミア族も火だるまになりながら二人の魔法使いに巻き付き共に焼かれ炭と化していた
「なんとか仕留めましたがこのままでは我が一族は為す術がないウッシ」
「アダマンタイトを貫かぬならば我が一族の鱗も貫かれはせんが、威力が高いので骨を砕かれりゅな」
「火や毒は有効であると言うのは収穫であったジャ」
「妾達も戦に加わりましょう。この戦果ではアルベルトお義兄さまも文句は言わないはず」
「各種族長、即時召集可能な精鋭を集め今すぐ上がります。残った者には二次部隊の編成を指示し出入口への待機を命令して下さい」
-----
アルベルトは毅然と負傷者の治療と死体の運搬を指揮しながらも、結果的には勝利した戦いで目の前の被害の大きさに後悔の念にかられていた。
セシリアを臆病者と糾弾し民衆を煽りその声に後押しされた形で進軍し最小限の犠牲で勝利の凱旋をするつもりであったが、たった二人の魔法使い相手に100名以上の死者とその数倍の怪我人を出してしまった
「民衆にどの面さげて戻ればいいのやら・・・」