リリス族の少女
薄暗く蒸し暑い空母の最深部で、荒谷達は見えない敵と戦っていた。
油圧が低下するとその元をたどり、火花が立てばその裏側を覗いた。
固い構造物に被害はないが、それを結合するパッキンや電力や通信をつかさどるケーブルは引き千切られていた。
「人間や動物が嫌がる事は等しくカバラ皇国の連中も嫌がる。原子炉周辺を燻蒸し続ければ近寄らんだろう」
との荒谷の助言を実行すると、原子炉関係での被害は激減した。
「アラタニさんのおかげで最悪の事態は避けられそうですね。」
「しかし、いつまでこんな事続けるんだ、誰か止めてくれないのか? ・・・あっ! いいのが近くに居たわ」
「え? どうしましたアラタニさん」
「近くの自衛隊の輸送艦までヘリを飛ばしてくれ!」
米軍のヘリに乗り荒谷は、カバラ皇国軍の捕虜が収容されている。輸送艦おおすみへと向かった。
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荒谷はおおすみに着艦すると、そのまま艦長の元へ小走りに向かい事情を説明し許可を貰った。
「ここからが大仕事だな・・・」
荒谷は片足を無くし車椅子に乗ったリリス族の少女の元へ駆け寄り
「日本とカバラ皇国の戦争は終わった。しかし、グレムリンがそれを知らずに暴れているので説得してくれないか?」
「・・・」
荒谷の目を覗き込むように見つめる少女は
「はい。いいですよ。」
「ず、ずいぶんとあっさり協力してくれるんだな」
「貴方は嘘をついてないので、協力しますよ。」
「ありがとう」
「それより、何故グレムリンごときに強力な自衛隊がてこずるのですか? 奴らは機械に悪戯する事しか出来ないでしょう」
「その悪戯に困っているんだ、大きな船が爆発しそうなんだよ」
「そうですか、私はクラーラ=リリスです、それじゃ説得に行きましょう」
クラーラ=リリスは荒谷に車椅子を押され、ヘリでロナルド・レーガンへと向かった。
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ヘリがロナルド・レーガンの飛行甲板へ降り立つやいなや、アワード少佐が駆け寄って来た。
「アラタニさん! 排水ポンプが故障し、炉心温度が上昇しています。早く止めて下さい。」
「クラーラ頼むわ!」
「捕まえたグレムリンが居れば連れて来て下さい。そうすれば話が早いです。」
アワード少佐は、その話を聞くなり大声で
「捕まえたグレムリン全部連れて来い!」
と叫びながら艦橋へと駈けて行った。
暫くするとアワード少佐が、数人の兵士に道具箱のような物を持たせて飛行甲板に上がって来た。
「開けて下さい」
道具箱を開けると敵意むき出しのグレムリンが、はじけるように出て来て暴れ始めるが、クラーラ=リリスを見ると落ち着き、その前に整列した。
「自衛隊の皆さんに、グレムリンへ攻撃しないように伝えて下さい。これから全員にここへ来るようにこの子達を伝えに出します。」
「自衛隊・・・じゃないが、解った全艦放送で伝える」
アワード少佐が全艦放送でグレムリンへの攻撃を止めさせ、捕まっていたグレムリンが艦内のグレムリンに飛行甲板へ来るように伝えに向かった。
その後、クラーラ=リリスも艦内放送を使い、グレムリンに飛行甲板にくるように繰り返し話し掛けた。
・・・
原子炉の一時冷却系で電力供給が再開、予備ポンプも動き出しロナルド・レーガンのメルトダウンの危機は去った。
「クラーラちゃんありがとうな、本当に助かったわ」
「荒谷さん、戦争が終わったのであれば当然の事ですよ。自衛隊の人達は、捕虜となった私達を鎖に繋ぐ事もなく、美味しい食事も用意してくれて、片足を失った私に、このような便利な椅子まで支給してくれました・・・」
「まぁお互い大きな犠牲を強いられたが、これからは友好的に付き合っていけるさ」
「平和を愛するセシリア陛下なら、日本の皆さんと協力して行けますよ」
「そうだな、東京を一瞬で沈黙させ、アメリカの最新空母を無力化したんだから、お嬢ちゃん達と同盟組んだら自衛隊は世界最強だな、日米同盟はもういらんな」
「アメリカ軍人である私の前でその話は聞き捨てならないな」
「いやいや、アメリカさんとは二度と戦争しないなら安心してくれ」
昨日まで命を懸けて争っていた日米とカバラ皇国で交わされる軽口は、平和の象徴のような光景であるが、そこへ最悪の報告が入る
艦橋から大声で
「大変だ! 北朝鮮が東京に向けミサイルの発射をした! 指揮系統の混乱してる自衛隊では・・・」