これからの関係
「日本により政治体制を変え、日本が法律を作り、日本の経済に組み込みます。そしてカバラ皇国独自外交も制限します。まずは、この原則をセシリア陛下に同意して頂きたい」
セシリアは、園田の眼を注視しながら
「カバラ皇国の臣民が、食に困る事無く安全に暮らせるならば、構いませんが、臣民が地下から出れないのは困ります。」
「札幌を直ちに返還して貰えれば、国有地の夕張岳から芦別岳までを租借いたします。もちろん、我が国の原則に同意して頂けば、早急に食料などの経済的な支援の実施と、その後のカバラ皇国の自立まで支援します。」
セシリアは何か考えたように
「それならば、受け入れられそうです・・・」
「しかし、これでは占領政策じゃないですか・・・逆に時代遅れじゃないですか?」
と、宮脇は園田に迫るように言った。
「確かにそうです。国際的な批判も起こるでしょう。特に、いつもの近隣諸国は、過去の話を絡めて盛大にキャンペーンを張るでしょう。」
「それは、聞き流せばいいでしょう・・・カバラ皇国が、全て受け入れるかどうかです。万が一、カバラ皇国が他国に助けを求めたら大変な事になりますよ」
「しかし、我々も多くの被害を出しております。これからカバラ皇国を全面的に支援する為にも、多くの国民の理解が必要です・・・これしか双方が納得できる妥協案はありません。」
「戦後アメリカが日本にした事を、日本がカバラ皇国にしようって事ですか?」
「宮脇さんそうです。ベースは戦後アメリカが行った。対日政策を模倣します。これはお互いに悪い事じゃないと思うのです。」
「カバラ皇国は、戦争で日本に負けた訳じゃないんですよ・・・でも・・・、・・・これが・・・一番良い方法かも知れない・・・」
ぶつぶつと呟いたあと宮脇がセシリアに向かって
「もし日本を信用するなら、これからのカバラ皇国を日本に任せて良いと日本人の私は思うが、セシリア自身はどう考える?」
セシリアには迷う表情など、まったくない真っ直ぐな目で宮脇を見つめ
「妾の優先は争いを止めることです。それが叶い臣民が平和に暮らしていけるのであれば、日本の支配を受け入れます。日本がカバラ皇国を一方的に搾取するような国でないと信じております。」
宮脇が続けて
「それでカバラ皇国の国民は納得するのか? 特にあの戦国武将のような気質の族長達は受け入れるのか?」
「・・・解りません。ただ、彼らの戦士としての尊厳を傷つけなければ、最終的に受け入れてくれると信じてます。」
セシリアの言葉を聞いた矢部が
「尊厳か・・・日本は敗戦で一度捨ててしまった。そういったことを、十分に注意してこれからお互い考え、条件をひとつひとつ合意して行けば良い、まずは争いを止めようではないか。」
隣でイライラしながらも、黙って聞いていた満子も口を開いた。
「矢部ちゃんケチ臭い事ばかり言わんで、もっとセシリアちゃんを助けてあげるんじゃ」
「満子さんは厳しいですな、個人的に思う所ありますけど、国と国の交渉ですから・・・財源も限りがあるんですよ。」
宮脇は意外な事を言う。
「満子さん、実はカバラ皇国は相当お金持ちなんですよ」
「宮脇くんそうなのか? わしには貧乏にしか見えんよ」
「王宮には相当の金があります。私は価値は解りませんが世界中の金の10%程度の量はあると思いますよ。それに魔宝石や四層から産出する鉱石類も価値は高いです。」
「それは良い情報ですな、財源があるなら・・・。しかし一気に使われると世界経済がパニックになりますので、公表は控えて下さい。」
「矢部ちゃん、目が悪徳商人みないになっておるぞ」
「満子さん、それは言い過ぎです」
「「「ワハハハハ」」」
お互いの国のあり方を話し合い、緊張した場が笑い声で一瞬和んだ。
しかし、その雰囲気を崩すように矢部が
「セシリア陛下、言い難い事だが隠しても良い事はないので、今言っておくがよろしいか?」
「はい、あとあと解る事なら早く聞いておいた方がいいです。」
セシリアは神妙な表情で矢部の言葉を待った。
矢部は一呼吸おいてから
「・・・これから日本と国交を結ぶ過程で、セシリア陛下や族長などの責任追及と言う事もありえるが、それでも良いか?」
「妾や族長達であればその覚悟は出来ております。」
「そうか・・・我が国にもたくさんの被害者がいる。今日だって、医療器械が動かなければ生きていけない人もたくさんいるんだ。多くは都外の病院へと移送したが、残された人もいた。その人たちはたぶん・・・」
そんな矢部の言葉を聞くと、セシリアの表情は急に曇る。
「そうですか・・・何と言えばいいか・・・妾達も必死で・・・」
「解っておる。しかし、残された家族達が簡単に貴方達を許すとは思えないんだ。」
「・・・その人達の気持ちは全て受け入れます。」
「そうか・・・わしも最悪の状態は避けるように努力するが、覚悟はしておいてくれ」
宮脇が勘ぐるような顔をして
「園田さんは、最初から、この結末の為に動いていたんですか?」
園田は少し考えたあと
「最初からと言うのは語弊がありますが、構造が不明で広大な地下都市を占領する事は非常に困難なので、札幌が占領されてからは、平和的な占領政策がどうやって取れるか考えておりました。しかしEMP攻撃までは・・・想定外でした。」
「それなら、もっと早くこの提案をしていたら、お互いの被害はなかったんじゃないですか?」
「ですから政府としての見解じゃないんです。実際にこのような重大事項を決めるには、各省庁間の根回しや調整、その報告を受けた大臣達の会議、そして何か不一致があれば最初に戻る・・・の繰り返しです。」
「誰も決められないって事か・・・」
「今、私が話した内容も、あくまでも私案にしか過ぎません。内閣の老害達には理解出来ないんですよ・・・」
「それじゃ・・・今の内容は覆るって言うのか?」
と、宮脇が怪訝な表情で園田に聞いた。
「断言は出来ませんが、国のトップ同士の話し合い結果なので、無下にはされないでしょう。今日のお話をベースに、各省庁が動き出すことは間違いありません。」
重苦しい雰囲気を書き消すように、コンコンと会議室のドアがノックされた
「失礼します。矢部総理、アメリカ大統領から衛星電話が入っておりますがどうしましょうか?」
「やっと来たか、直接私が話そう」
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千歳駐屯地の司令部で地下で、戦闘が止んだ映像を見ていた荒谷の所へアワード少佐が部下と共にやってきた。
「アワードさん色々と大変でしたね、でも米軍がオスプレイの墜落位で撤収までするとは思ってなかったです。」
「アラタニさん我が軍が撤収したのはそれが原因ではありません。隠す必要も無いので教えますが、ロナルド・レーガンの原子炉が停止しました。」
「なんだと!いったいどうやって・・・魔法か?」
「・・・多分帰還兵に紛れてグレムリンが艦内に侵入し内部的な被害が出た為、安全装置が稼働し原子炉が緊急停止いたしましたので、汚染の心配はありませんが、現在もグレムリンによる破壊活動が続いております。」
「そうか、少し安心したが、それで何故ここに?」
「実は、カバラ皇国との戦闘経験や接触の経験の多いアラタニさんにご助力の依頼にやってきました」
「米軍さんの命令で動く事は出来ん、俺だって軍人なんだ命令系統ってもんがある」
「このままではいつ原子力施設に直接的な被害が出るか解りません。至急の対応が必要です。」
「脅しか? さっきと逆じゃねーか」
「これでイーブンですよ、アラタニさん」