グレムリン
日中なら窓の外に、真っ青な海が広がる在日海兵隊師団長の執務室の扉が急に開いた。
「失礼します。師団長! ギャリソン艦長より海兵隊の出撃依頼が届いております。」
「まぁ落ち着け、何時何人欲しいと言ってるんだ?」
「はい、直ぐにこれるだけオスプレイで空母へ来いと。」
「適当にもほどがある・・・馬鹿な奴だ。我々はコンビニじゃないんだぞ」
「はい。」
「まぁいい、即応部隊を出して、第一陣は3時間後には飛ぶぞ」
「了解しました。」
「しかし、空母へ寄る必要はない、C-130で千歳、状況が良ければ丘珠まで飛ばすとギャリソンへ伝えてくれ」
「了解しました。」
「何故オスプレイに拘るのか? C-130の方が多くの兵隊を早く出せるんだがな・・・これだから素人は困るわい」
「・・・」
「第二陣は、緊急招集を発令、オスプレイを用意して何時でも出撃可能な態勢で待機させておけ、第二陣は燃料が持つなら直接マコマナイへ降ろすぞ」
「了解しました。」
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真駒内上空で可変翼を降下モードにしながら、3機目のオスプレイが降下を始めていたが、変形翼が中途半端な角度で失速していた。
「き、機長、右翼が垂直になりません!」
「なに! 変形翼を元に戻して降下を中断しろ」
「もう駄目です。翼の制御が不能で態勢を立て直せません」
「ど、どうしたんだ? バードストライクなのか?」
「バードストライクではないようですが、変形翼制御が突然切れました!」
「変形翼以外は制御が効くんだな」
「はい」
「クソッ! それはなんとか軟着陸させるぞ! 落下のエネルギーを少しでも縦方向へ向けて地面を滑らせろ!」
機長の的確な判断により、オスプレイ3番機がゆっくりと墜落し地面を滑りフェンスに激突して停止した。
「か、格納庫にいる連中は・・・だ。大丈夫か・・・」
「機長こそ大丈夫ですか?」
「俺は大丈夫だ」
「機長! それ!」
「ん?・・・どうした?」
墜落の衝撃でめくり上がったコックピットから、血だらけの小動物のような何かが姿を見せていた。
「な、なんだこいつは・・・」
機長が力任せに、コックピットの覆板をめくると、そこにびっしりと小動物が詰まっていた。
「こ、これは・・・原因はこいつらか・・・至急空母へ連絡しろ、グレムリンが出たと」
「は、はい・・・グレムリンと報告していいんですか?」
「じゃなんと例えろと言うんだ! 俺にはグレムリン以外思いつかん。グレムリンらしき怪物とでも報告しとけ」
「す、すいません。直ちに報告します。」
「あと、無線連絡後、格納庫の奴らを直ぐに外へ出すんだ。」
「それが・・・扉が潰れてしまい、いま、自衛隊が外から扉を開ける作業を始めてるようです。」
「そうか・・・」
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大慌てで装備と兵員を積み込みヘリとオスプレイを発艦させた空母では、束の間の落ち着きを見せていた。
艦橋で、ギャリソンがコーヒーを口にすると、士官が慌てた様子で中に入り、一呼吸して敬礼すると悪い報告を口にした。
「艦長、真駒内上空で、オスプレイ3番機が墜落しました。ただ幸いにも死傷者は出ておりません。現在、自衛隊による救助活動が行われています。」
「原因は何だ?」
「・・・無線ではグレムリンが出たと・・・」
「何馬鹿なことを言ってるんだ、魔法で頭をやられたんじゃないのか?」
続いて士官と汚れた作業服の整備士が、艦橋のドアを乱暴に開け敬礼する事も無く叫ぶ
「艦長!」
「今、最前線の報告を受けている所だが、それより重要な事か?」
「はい、艦内の計器類が軒並み異常状態になっており、至る所で警報が鳴り始めました。」
「どこか故障は発生しているのか?」
「今のところ、機関室や操舵系統などは正常で、直接的な問題は確認出来ておりません」
「私から報告いたします。艦内で小型の未確認生物が確認されており、ケーブル類が引き千切られております。」
「どんな生物なのか解るか?」
「写真を撮りました、これです。」
整備兵が手に持っていたスマホを、ギャリソンへ渡す
「これは・・・グレムリンじゃないか・・・」
「総員で艦内のグレムリンを掃討しろ!」
報告に来た整備兵が、報告が終わっても何か言いたそうな顔で突っ立っていた。
「何か言いたいことでもあるのか? この異常事態だ、間違っても良いから言ってみろ」
「はい、艦内に錆が出ているのです・・・」
「は? この最新鋭艦でまだ錆は出ないだろ」
「多分ですが、こいつらが錆の原因かと・・・ケーブルが切られている近辺に錆が浮いているんです。」
「艦の制御に関わるじゃないか・・・」
「艦長、他の航空機も危険ではないでしょうか?」
「そうだな・・・ 当面飛行は全面停止だ」
予想外のトラブル報告が続いた後、最後の決定的な報告が入る
「艦長!」
「今度は何だ? 敬礼はいらん報告しろ」
「計器類異常が原因で、原子炉が2基とも緊急停止しました。」
「・・・なんだと」
「あくまでも、計器類の異常であり原子炉に問題は起きておりません。」
沈黙し目頭を押さえて苦悩してたギャリソンが、顔を上げ部下達に命令を下した。
「横須賀に状況を報告し、救援を求めろ、アワードには直ち戦闘を中止し、千歳まで撤収するように指示、作戦は中止する。大統領へは私から説明する。」
「海兵隊の方はどうしましょうか?」
「この状況じゃ、奴らは邪魔なだけだ・・・オキナワへ戻って貰え」
「艦長、海兵隊の第一陣は。空母ではなくC-130で千歳に向かっております。」
「じゃ、放っておけ・・・」
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セシリア達と矢部と園田は、テレビアカヒの小さな会議室で膝を突き合わせながら、日本とカバラ皇国の今後の関係について話し始めた。
会議室の外は、SPと自衛官により封鎖されている。
矢部は、この場の話し合いの内容が全て反映されるとは言えないが、と前置きしたあと、園田が具体的な内容を話し始めた。
「議会の承認などはありませんが、前々から矢部総理に個人的な案として、お話していた内容です。」
園田は一度矢部の表情を伺うと、矢部も頷く
「最初に言っておきますが、カバラ皇国の国体を、日本によって作りかえなければ和平などありえません。」
セシリアは黙って聞いている。
「カバラ皇国は、日本の手で政治体制を変え、法律を作り、日本の経済に組み込みます。そしてカバラ皇国独自外交も制限します。まずは、この原則をセシリア陛下に同意して頂きたい」