戦場の神
カバラ皇国軍は、小隊組み出撃させていたが各小隊へは、具体的な指示は出ておらず、各自遊撃するだけであった。
平岸駅からリリス族三名、ケンタウロス三名、ミノタウロス族四名が小隊を組んで地上へ出撃し、大きな家の中で待ち伏せする事にしていた。
暫く家の中で身を潜めていると、
「もう直ぐ戦車が近くに来るぞ・・・三台だ」
赤い屋根の大きな家の中で、空中の鳶と視界を共有しているリリスが小声で呟く
二人のミノタウロスが身を乗り外へ出ようとすると、ケンタウロスが制し
「まて、通り過ぎてから、一番後方の戦車を狙うウマー」
「まず私が、風魔法で埃を舞い上げ視界を制限します。」
「埃の舞い上がるなか、一斉に突撃するウマー」
「ちなみに、ドアは後ろが開くタイプだ」
「そのドアを開ければいいウッシな」
「俺は前のガラスを斧で砕いてやるウッシ」
リリス族はケンタウロス族に跨り、ミノタウロス族は巨大な斧を握りしめ、密かに襲撃の機会を伺っていた。
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三車両一組で市内を巡回している装甲車内でも、データリンクによって、戦闘指揮所と同じ情報を見る事が出来る。
もちろん、車内と言う限定的な空間である為、表示される情報は、市内全域の状態と、車両周辺を拡大した情報を表示していた。
この先で待ち伏せしている亜人達は、車両周辺の情報を表示しているモニターには、座標を示すP42のセルに10と数字が表示されて、その点をクリックすると数分前の映像が流れた。
「右側の赤い屋根の豪邸に10匹ほど隠れていますね。種族は混成のようですが、ミノタウロスが複数いるので斧に注意が必要です。」
「よし、催涙弾であぶり出してやれ!」
ドン! ドン! ドン! ドン!
走行しつつ4連発煙弾発射機から、催涙弾を民家へ撃ち込み接近すると、亜人達がのたうちまわりながら、庭先に出て来る。
すると装甲車は躊躇する事無く、民家の壁越しに機銃掃射を行った。
ドドドドドドドドドドット! ドドドドドドドドドドット!
予想外の先制攻撃に、亜人達は為す術もなく銃弾の餌食となった。
立っている亜人がはいない、車両部隊は亜人の生死は確認はせず、火災が発生してない事だけを注意して見たあと、次の目標へと向かった。
「次は、R38に8匹いるようです。マンションの屋上です。」
「よし山本、出番だ!」
「了解!」
山本は装甲車から身を乗り出し、小銃に06式小銃てき弾を装着しマンションの屋上へ向け擲弾を連続で発射すると、放物線を描きマンション屋上で炸裂した。
「・・・落ちてこねーな」
「殲滅が目的じゃない! 次行くぞ!」
こうして、身を潜めているカバラ皇国軍を次々と先手を取って攻撃を繰り返した。
すると移動中に、モニターの赤い点が車両を囲むように近づいて来るのが解る。
「隊長、我々を囲もうとしてますよ。一旦撤退しますか?」
「駄目だ! 駐屯地には歩兵がいるんだ。近づけると犠牲が出てしまう可能性がある。俺たち車両部隊で食い止めるぞ!」
「了解しました。少し広い場所へおびき出しますね。」
「そうしてくれ」
装甲車は墓石を倒しながら平岸霊園に入り、無線で応援依頼も出した。
「静かに眠っているご先祖様には申し訳ないが、ここで一戦かますぞ!」
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背にドラコニュートを乗せ、アダマンタイトの大楯を持って全力で疾走するケンタウロス騎馬隊は、10騎で装甲車を追い詰めていた。
「他の連中は、どうなっているウマー」
小隊長風のケンタウロスは、上空の鳶と視覚共有しているリリスへ確認した。
「丘の上からミノタウロスが30、澄川方面からライカンスロープが50、崖下からゴブリンとラミアが20、我々に続いてケンタウロス騎馬隊が30騎が向かっております、それと墓地にアラクネが30待ち構えております」
「よし! それだけいれば何とかなるぞ! 敵の援軍が来る前に叩くウマー」
平岸霊園へ逃げ込んだ装甲車を囲む形で、カバラ皇国軍の陣形が整った。
伝令を使いアラクネの攻撃開始を合図に、一斉に突撃する作戦とした。
装甲車は、ハイエナに追い詰められたライオンのように、墓地の中心付近に、身を寄せるように3台が集まり、3方向へ砲身を向けている。
地中に潜っていたアラクネから、一斉に糸が放出され装甲車を糸で覆うと、四方八方から亜人達が突撃を開始した。
糸が絡まり動きの悪い砲身から、弾丸が横殴りの雨のように撃たれるがアダマンタイトの大楯で防ぎ、装甲車を取り囲もうとした時、一人のエルフが微かに砲弾が飛来してくる音を聞き取った。
「上空から飛翔体!」
「なんだと!」
ドン! ドン! ドン! ドン! ドン!
恵庭から飛来した120mm重迫撃砲の弾丸が、正確に装甲車を避け、囲んでいたカバラ皇国軍の頭上に降り注いだ。
炸裂する榴弾は、爆風と共にその破片が広範囲に飛び散り、亜人達を八つ裂きにする。
身を伏せてやり過ごしてた亜人も、アラクネの糸を振りほどいた装甲車が、墓地を縦横無尽に走りながら、無慈悲に機銃を浴びせられ犬のように撃ち殺され、最後は死体が折り重なっている所へ、念の為、手榴弾を投げ込みその場を後にした。
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平岸霊園を後にした車両部隊の車内では、
「しかし・・・これはもう戦闘じゃありません。一方的な虐殺じゃないですか」
「は? もし砲撃支援がなければ、全滅とは言わんが一台位は捕りつかれて、車内で焼き殺されていただろう。」
「そうですか・・・」
「ああ、我々は戦場の神が付いていただけの事だ。数では劣ってたんだからな」
追い詰められた車両部隊にとって、迫撃砲はまさに戦場の神であった。
同じ頃、豊平川を挟んで対峙していた両軍にも動きが起きていた。