波紋
習志野駐屯地
陸上自衛隊中央即時対応集団特殊作戦群(通称:S部隊)
S部隊は、編成や装備、訓練内容・想定任務、規模及び隊員まで明らかにされていない部隊であり、その存在のみ自衛隊組織図に載っている
秘密裏にアメリカ陸軍の特殊部隊デルタフォースと行動を共にし自衛隊で実践経験がある唯一の部隊である
S部隊隊長荒谷政尾は地下の本部内で夕張警察官死亡事件の情報本部からの報告書を読んでいた
マスコミ発表は熊による警察官の襲撃事件として扱っているが、実際には刃物による殺害で死亡した4名の警察官は全て見事に喉元を一斬りされており高度な訓練を受けた者による殺害と推測され
警察官の拳銃は全弾撃ち尽くされており現場に銃弾は14発のみ発見され他は命中したと想定される
事件直後、山狩りと称して周辺調査を行ったが遺留品などは一切見つける事は出来ていない
「隊長、なんでこの件がうちの部隊に周って来たんですか?テロだとしても警察か公安の案件じゃないんですか?」
「市ヶ谷の情報本部は、他国の工作員の可能性が高いと考えているようだな」
「隊長、仮に中国北朝鮮かロシア当たりの工作員だとして夕張の山中で何してるっていうんですか?」
「それが解らんから、俺らに山に入れと言ってんだろ」
「ちょうどいい訓練だと思えば部隊としては悪い話じゃない」
「またサバイバル訓練ですか・・・毎日虫と蛇捕って食べるはめになるじゃないですか・・・俺には中東での実戦の方がましです・・・」
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「もしもし、宮脇くん五神じゃ」
「五神教授、お久しぶりです。お送りした羽毛は見て頂けましたか?」
「その事で電話したんじゃが、おぬしの言う通り羽軸の偏りは他の鳥類に無いものであったし、細胞にミトコドリアのその痕跡させも見つけられんかった。儂にも信じられんがこの生物は地球上で進化したものじゃない可能性がある」
「五神教授の検査でもそうでしたか・・・」
「宮脇くんこの梟にはGPSを付けて放しただよな、なんとか捕獲できんか?」
「そうなんですが、GPSの反応は消滅してしまいました、ただ消滅した場所は記録されてますので、周辺を調査すれば死体位は見つける事が出来るかもしれません、今週末山に入ってみます」
「宮脇くんよろしく頼むぞ」
「承知いたしました」
「まだ、発表するには調査不足じゃからおぬしも口外せぬほうが身のためじゃぞ」
「はい、異端者扱いされたくないですから五神教授以外には話してませんよ(笑)」
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セシリアはリリス族を集め今後の方針を話し合っていた
今回の事件の影響で森への人間の侵入は増えて行く事が考えられ余計な衝突も防がねばならない事から、空からタカやワシや梟、森の中は鹿や狐をテイムして監視を強化する方針を打ち出し話し合っていた
「陛下、同時にはひとり1匹しか視覚共有出来ませんし疲労を考えると、休憩を挿みながらでも3時間程度が限界です」
セシリアが頷くとサロモンは説明を続ける
「森の広さを考えると50名で8交代つまり400名であれば24時間の監視体制が可能です」
「解りました、連日ですと疲労も溜まりますので、2日に1回の当番として800名体制を組みその順番や連絡体制も構築し森の監視体制を整えて下さい」
「承知いたしました、陛下」
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「セシリアちゃん顔色が悪いようだが大丈夫かい?」
「はい、色々ありまして・・・・」
「そういえばセシリアちゃんはこの国の女王陛下なんだってな、メイドさんに聞いた時はたまげたけど、わしのような平民とばかり一緒でいいんかね?」
「満子さんは私の先生ですから、色んな食べ物も教えて貰い助かってます」
「それならいいんじゃが、前にも聞いたがその時はまだ日本語もカタコトだけじゃったから、良く解らんかったから、セシリアちゃん達やこの国の事を教えてくれんかね?」
セシリアは、ここが地下に作られた都市で太陽が消滅し父や兄達の命と引き換えに都市ごとこの世界に転移してきたこと、この国には1000万人の様々な種族が共に生活し食料が不足していることなどひとつひとつ丁寧に説明し、これからどうしたら良いか皆で話し合っている事を満子に伝えこの世界の事を教えて欲しいと頼んだ
「この世界と言っても、わしは日本の事しか知らんし、古い事は知ってるが最近のことはわしは知らんよ」