不幸の……いえ幸せでしたが?
転移先は何やら薄暗い部屋だった。
こういうときランダムってのがきつい
「……」
「彼螺様?」
「ん?どうした?」
「いえ…急に黙ってしまわれたので……ちょっと不安に…」
消えそうな声でそんなかわいいことを言いつつ抱きついている体をさらに密着させてくる……
…………はっ!あぶねぇ!!暴走するところだった!!
なんでこんなにかわいいこと言うんだよぉ!
落ち着け、一旦落ち着け?
ただ抱き締め返そう。
あれ?違う?
ええい、それくらいは勘弁してくれ!
一秒にも満たないくらいで脳内論議の結果
メリアを抱き締めていた。
これはしかたがない
というかしたくてしょうがない
「彼螺様……」
「大丈夫、別に何かあった訳じゃないから」
「ならよいのですが」
「というかそもそもここはどこだ?」
「わかりません、彼螺様のピースはランダム転移ですから、街のしかも人がいない場所、としか」
「そうだもんなぁ……」
レグナという武具屋の店主に俺のチート、アウトブレイクとやらを見せたくなく多少設定してピースを使ったのだ。
「まあとにかく、作っちゃうか、それとも、ここから出てみる…か………いや、先に作っちゃうか、確か、メリアもほしいんだっけ?」
「いえ、一種の冗談です!彼螺様の武器をとるようなことなんて出来ないですから」
「遠慮なんかしなくてもいいのに、じゃあ俺が作ってあげるってことならいいかな?」
「言い分けないじゃないですか!そうしたら彼螺様の武器はどうするのですか!」
「メリアが戦場にでるんなら何の装備もなく行くのは流石に駄目だからね」
「いやでも!彼螺様が戦うのに必要じゃないですか!」
「必要っちゃ必要だけど、最悪なくても頑張ればいいだけだよ?」
「ってことで!……ハァッ!!……」
薄暗い部屋の中、彼螺が持っていた棒状の鉄塊は俺が思い描く長棍になってゆく。
ちょっと凝った風にしてあるのは無骨なやつをメリアに持たせたくないからという俺の配慮?だからな!
ちゃんと色も変えてあるぞ!!
「彼螺様!!」
「もうなにいってもダメだぞー、もうポイントないからな!」
「な、なら!それを彼螺様が使ってください!」
「俺、長棍使えないしなぁー」
「むうっ!!」
「そういえばジジ神をぼこぼこにしたときのあれもこれみたいな形状だったよねー?」
「え!?ええ、まあそうですが……」
「あのときのメリアの扱い方もすごかったもんねー?」
「で、ですが、それとこれとは……」
意地でも受け取ろうとしないメリアに俺は持っていた長棍を押し付ける。
「だーもう!はい!これはもうメリアのだからな!」
「うぅーーー!!」
「あ!そうそう、もうひとつ渡さないといけないものが……」
「もうひとつ?」
「ほんとはこんなものも作っといたんだよね」
俺はメリアの首に手を回しそれをメリアの首から垂らした。
そう、ネックレスだ
こちらは先程の長棍よりだいぶ凝っております!
「……」
「ごめんな、こんなもんでさ」
「……えっ?」
「今回のが終わったらもっといいの用意するから…さ」
「…………」
なぜ黙っているのだろうか
……まさか
「い、嫌だった!?ごめん!捨てていいから!!」
「……………ぇ…」
ほんとになんで黙って……ん?
「……ふぇ……ぇぇ……」
「ちょっえっ!?泣くほど!?そんなに嫌だったの!!?ごめっ!今外すからって!!んんっ!!?」
なぜここでキス!!?
歯が当たってちょっと痛い
「ぱぅ…どうした……」
「…彼螺様……大好き……ありがとう…ございます……」
どうやら喜んでもらえたらしい。
喜びすぎて感極まって泣いたのなら少し……いやだいぶ嬉しいな
「で?アタシんちの倉庫でいつまでイチャイチャしているつもりなのかな?」
「……もうちょっとこのままでいさせてくれるとすごく助かるのだが」
無粋なこと言うやつだな
というかここお前んところの倉庫かよ
「……レグナ、流石に空気を読んであげようぜ」
お前もいたのか…
そしてお前らしくないことを言ってんな……
……え?なに?お前らはお前らで何かあったの?
「……というか見てるとイライラしてヤバイから……」
あ、うん、なにもなかったな
というかさっさとどっか行け、俺はこの時間を少しでも長く感じていたいんだよ
「……ん?」
リィジはある一点を見て、それと、俺の顔を見比べてくる。
え?なに?
どこみてんの?
そして、リィジが呟いた言葉を今度は聞こえなかった。
でもなんか悟られた気がする。
え?バレた?
なにをかは突っ込まないでください。
「はぁ、仕方がない、メリア、行こうか?」
「はい!!」
さらに元気になったメリアとその倉庫を出るとそこは見たことがある場所だった。
見たことがある場所?いやいや、それどころかついさっきいた場所ですよ。
そう、今いた倉庫はレグナの武具屋の店頭の真隣に存在していたのだ。
転移先がまさか隣の部屋だなんて思わないよね。普通
「で?彼螺、武器はできたのか?」
「ああ、もちろん!立派な長棍だろ?」
「ほんとにな、ほんとに立派な長棍だよ!」
「アタシにも見してくれ!!」
「だっろー!?」
「なぁ!見してくれって!!」
「だが!やっぱりお前のはどうするんだよ!!」
「いいんだってーなんとかならぁー」
「ちょ!おいっ!?アタシを無視しないでよ!!」
「あとお前…あのネックレス……」
「似合ってるだろ!?」
「お?おう……じゃなくて!それには…『なんにもねぇよ?』え?いやいやだって『……ねえよ?』……いや……『よし、こっちこい』えっ!?えっ!?」
「……無視しないでぇ…」
あっけにとられてるメリアと無視をし続けられて泣きそうになっているレグナに少々ここに待っていただき、さっきいた倉庫にリィジを連れていく。
「あ、ちょっと待っててね?メリア、少しこいつと「お話」をしなきゃいけないんだっ!」
「え?え?え?」
「……早くこいよ」
つい声にドスがかかってしまった。
仕方がないよね!
……メリアの前で暴露しそうになったんだから
十分後
「よーし、確認しまーす
これを口走ったらどうなる?」
「地獄を見ます!!」
「ぶっぶー
地獄を見るで済ますわけねえじゃん」
「はっはい!!」
「わかったならよし!以後「気をつける」ように!」
「わかりました!!」
そして俺たちは倉庫を出る。
「どうかなされたのですか?彼螺様?」
「なんでもないよ?大丈夫!なんでもないから!」
「……むぅ」
「まあいいじゃん?気にしないで」
「そうおっしゃるならば……」
「そうそう!」
メリアのピースを指輪に使われたら一発でバレるけどね。
流石にそんなことはしないだろう……しないよね?
「そういえば彼螺、お前は……」
「ん?もうそろかな?」
省略しすぎたか
付け加えるならばこうなる……だろう
そういえば彼螺、お前はいつ頃でるのだ?
ん?もうそろそろ出ようかな?
ってところなのかな?
「いや、本当に二人だけでいくのかと……」
違ったようだ。
というか……
「しつこいな、いいんだよ、だって楽しそうだろ?」
「……あ!そういえば城に使えそうなのがあるぞ!!」
「使えなかったらどうする?貸しにでもする?」
「えっ?彼螺への貸し?……え?悪夢?」
「よーしじゃあ早速行こーかー」
「ちょっまって!!マジで待って!!」
「メリアのお手を拝借ー」
「はい?」
「じゃあな!変な店主!!」
「へっ!変な!!?」
「はっ!?なんで俺は手じゃなくて首なの!?なんで俺首を鷲掴みにされてるの!?俺国王だぞ!!?」
「黙ってろ!俺に国王だの王様だのは知るかってんだ!」
「アタシもつれていっ『却下』なんでよ!!」
「お前さぁー、こいつ仮にも国王だよ?そして俺、親戚だよ?流石に無礼すぎじゃないかな?」
「……お前が言うな、お前がっ!!つっうう!…」
ボソッと呟いたリィジの鷲掴みしている首に力を込める。
黙ってようか
「いやっ!でもさっき!」
「まあさっきいったけどさ?そこまでとは思わなくてさ?」
「えっええっと」
「というのは嘘だから!明日こいつの発表をお楽しみに!
リィジの城の中ならどこでもいいからいってみたいなぁ!」
「ちょ!?待ちなさいよぉおおおぉぉぉ!!」
レグナの絶叫は店の中だけでなく店の外にまで響いたのだった。
そして、外を歩いていた人々に憐れみの目で見られることになるのはまた別の話