不幸なまでの羞恥心
残りたそうにしていたレグナという鍛冶師兼店主を店の奥に追い払い、ふうっと一息吐いた。
機密事項だからな
「…まあ、いつまでもうだうだしてる暇はないからな」
「それはそうと、彼螺様はなぜ種類がある方がいいと?」
「いや、ほら、チートに頼ろうかなってね」
「不可能を可能にする力…というやつですね」
「そう、あれで俺の武器を作るんだよ」
「そんなことまでできるのか?」
「まあ、少し消費が激しくなるけどな」
「だいたいどれぐらい使うのですか?」
「うーん20くらいじゃないか?」
「その能力の基準がわからんな」
「まあ、気にすんなよ」
「20も使うのなら彼螺様のしかできなさそうですね……」
「メリアも欲しかったの?」
「……彼螺様が作ってくれたものが欲しかっただなんて言えないです……」
「よし作ろう」
「おい!?自分のはどうするんだよ!!」
「任せろ、何とかする」
「ちょ!おまっ!?」
俺は三本の鉄の棒を纏めた。
そしてそれを握り……
「ハァッ!!」
気合いをいれた……
ような声を出して思いっきり圧縮した。
するとどうでしょう
三本あった三種の鉄の棒が一本に!
それなりに太くなってるけど
「ええぇええええ!!錬金術ぅううう!!?」
突如店に響いた声は先ほどまでこの場所にいた少女の声だった……
「レグナ!?」
「っておい!!何でいるんだよ!!?アンタ!」
「気になっちゃったんだから仕方がないじゃない!!」
「さっきと言ってることちげぇ!!」
「アタシだけのけ者にされるのは我慢なりませんから!!」
「んな!あんたの事情なんか知るか!!」
「教えてくれたっていいじゃないですかぁああああ!!」
肩を掴まれ、ぐわんぐわんされる。
「お断りだああああ!!」
……俺もテンションがおかしいらしい。
「二人とも少し落ち着け!それに彼螺にはメリアさんという、彼女がいるのだから、そんなにくっつくのは……」
…………
俺は肩をつまれてる手を離させると……
「……ブファ!なんだ!?嫉妬か!?嫉妬してんのか!?アハハハハハハガァッ!!」
「彼螺様?浮気ですか?そうなんですか!?」
「なんで!?」
「嫉妬させるようななにかをしたんですか!?そうなんですか!!?」
レグナにやられたことをメリアにもやられる
襟をつかんでぐわんぐわんだ
一方、リィジは頭に手をあててやれやれといった表情をしていた。
「まったく、言わんこっちゃない」
さっきのは嫉妬ではなく俺の身を案じてのことだったのか……
というかメリアが怖い
「怖い!怖いよ!!俺がメリア以外になびくわけ無いだろ!!?」
「本当ですか!?」
「本当だよ!」
「でも未来のことなんてわかんないじゃないですか!!」
「信用無いな!!俺!!てか未来のこと切り出されたらどうしようもなくない!!?」
「じゃあ浮気しちゃう可能性もあるってことじゃないですか!!」
「しないよ!!というか俺詰んでんじゃん!!どうしろと!!?」
「わたくしを安心させてください!!」
……そういうことかい
メリアは未来を見ていない
完璧に今を生きている。
このいつまでこの世界にいられるかわからない状態で今を生きているのだ。
だからこそこの世界につれてきてくれた俺がメリア以外の人とくっついて嫉妬したり、いくら力があるとはいえ俺だけで戦場に行って自分だけ城で待っているという状況が嫌だったのか。
まったく、ほんとに俺にはもったいないくらいできたかわいい彼女ですよ!!
それだったら俺がとる行動は一つしかないじゃないか。
俺は襟をつかむメリアの手を取り両手でしっかりと握った。
「メリア、俺にはメリアしかいないしメリア以外となんてないと思っている、それでも、メリアが気にするのならメリアに生涯の忠誠を誓ってもいい、なんなら奴隷にしても構わない
だから、ずっと一緒にいさせてください
俺は君が大好きで……いや
……愛しています、メリア」
普通に言うと悶える台詞がすらすらと出てきた。
恐らくあとで悶えるのだろう
だが今は、言葉だけではダメだ。
それじゃあまだ足りない
そこで俺は掴んでいる両手を離してメリアの身体に手を回す……
前に抱きつかれる。
「わたくしも!わたくしもずっとずっと一緒にいたいです!!」
言葉だけでよかったらしい。
そう思うと胸の奥から込み上げてくるものがあった。
これは喜びだろうか?それともこれこそが愛情なのだろうか……
否、これは……
羞恥心だ
早い、早すぎるよ!!
はぁああぁぁぁぁああ!
なぁうあぁあああ!!
いまの俺の顔は
子ずれの親子に見られたら「あー!お母さん!あそこに頭がトマトになってる人がいるー!」「えっ?あらあら!青春ねぇ!!」
等と言われるくらいに真っ赤になっていることだろう
唯一の救いは抱きついているお陰でメリアに顔を見られていないことぐらいだ。
「……すっごく格好良かったしそれに恥ずかしがる彼螺様も可愛い……」
見てなくてもわかるものはあるのだ。
彼女の場合はこれだっただけで。
……バレてたぁ……
ああ、羞恥心とともに夏の水溜まりのように蒸発して消えて無くなりたい……
ああ!でも蒸発したらまた雨になってまた水溜まりに戻る!
やっぱり俺は消えれ無いのかよぉ……
唸りながら視線をあちこちやっているとある状況が目に映る。
「チッ!……くたばれリア充……」
そう舌打ちと悪態を交互にしながらも周りにはそれを悟らせていないリィジとたぶん俺のさっきの言葉にぽーっとなったがその視線がこちらではなくリィジの方を向いているレグナ
もうお前らにこの羞恥心を用いて八つ当たりでもしてやろうか……
いまだにまだ消えてなくなりたいぐらい恥ずかしいが今はこの話題に触れなければいいだけ!!
「という──」
「恥ずかしさを紛らすために話をかけようとするところも大好きです!」
「ガフッ!!」
は、話を変えさせないだ、と!?
先ほどの恥ずかしさに今の心境を読まれ話を変えようとする俺の言葉を潰し、その心境をも周りにもばらすという羞恥をもプラスされて俺は泣きそうになっていた。
やめてぇええええ
「離してメリア!俺もうここにはいられない!!今すぐ海に沈んでくるからぁああ!!」
少し力をいれて振りほどこうとするが抱きついているのメリアに俺が力を強く入れられるわけもなく全然振りほどくことは叶わない。
「離してくれよぉ……」
「わたくし達はずっと一緒ですから!!」
「いまそれを言うのはずるいよぉ…メリアぁ……」
この直立の動けない状態で隠れることもできず逃げることもできない
……あ、
…逃げれるかも
「ここの街のどこでもいいか…」
「ピース使ってもわたくしは離れませんよ?」
……
「……やっぱ離してぇ!!その辺の雑魚モンスターにでも殺されてくるからぁ!!!」
「いや、お前ならその辺にいるモンスターにいくら攻撃されても死なないぞ?」
「ガファ!!」
マジかよぉ…死ねないのかよぉ
あと、リィジ、お前あとで覚えておけよ……
「それ以前にわたくしは離しませんから!!」
「メリアもなんでそんな強情なのさ!?」
「彼螺様が大好きだからです!!」
「ううぅ…それ言われるときつい……」
「おいリア充、お前当初の目的忘れてないか?」
「え?……あ」
このどうあがいても逃げられない状態にげんなりしていたが、リィジの一言に当初の目的を思い出させられる
「そう……そうだよ!俺は武器を作ろうとしてたんだ!!」
「マジで忘れてたのかよ……」
「こんなところでいじられている場合ではないんだよ!!だがいじるのではなくてイチャイチャするのなら大歓迎だけど!!」
「もういいからさっさと作れ!」
「そうよ!!さっさと作りなさいよ!!」
「あんたはどっか行け、これ以上見せるとめんどくさそうだ」
「彼螺様、なのでしたらそれこそピースを使って場所を変えてはいかがでしょう?」
「それだ!さすが俺の彼女!
可愛くて、スタイル良くて、さらに頭までいいなんてどれだけ完璧な彼女なんだ!!じゃあさっそく!リィジ、そいつはまかせた!」
ヨイショすると嬉しそうに俺の胸板に顔を擦り寄せてくるメリアに先程まで感じていた羞恥心はいつのまにか、愛しさに変換されたようだ
「ええ!?ちょ!俺もつれてくんじゃないの!?」
「んなめんどくさいことするか!」
「へ、陛下!あいつのピースは!?ピースはなんです!!?」
「えっ、えーっと彼螺のピースは『いらんこというなよ?』…悪いレグナ、教えられない…」
「ええ!?」
「近場で誰もいない所ならどこでもいいからいってみたいなぁ!」
彼螺のピースであるランダム転移は詠文を紡ぎ終わったと同時に発動しこの場所から彼螺とメリアを何処かへ転移させた。
だが、ピースの能力を知らないものにとっては転移ではなく消えたように見えたようで……
「まっ!!陛下!?なんでこの人たちを消したのですか!?」
「なんでそうなる!?」
消滅というピースを持っているリィジが濡れ衣を被せられるのだった。