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始まりの話

ある古い古い歴史を持った街に「首無し騎士」という題名のお伽噺がありました。


主人公は街を守る騎士の一人で、とても強く、どんな悪事も見逃しませんでした。

ある日、騎士は一匹の魔物を拾いました。魔物はまだ幼く、人間を襲う様子もありませんでした。

そこで騎士はその魔物を領主様には内緒で育てることにしたのです。

魔物は「コウ」と名付けられ、街の人々にも愛される存在に成長していきました。

コウの噂を聞いた領主は、突然騎士に一番危険な場所へ向かうようにと命令しました。

騎士は命令には逆らえず、コウに一つだけお願い事をしてそこへ向かいました。


『どうか私の代わりに街の人たちを守っておくれ』


コウは約束しました。騎士が戻ってくるまでこの街の人を守ると。

でも、そんな彼に悲劇が訪れました。


騎士が危険な場所から英雄と評されながら街へ戻ってくると、そこにコウの姿はありませんでした。

コウの姿を探す騎士に、コウと仲が良かった少女が真実を聞かせてくれました。

コウは領主に脅され、街の人に騙されて、処刑されたのだと。

騎士は怒りました。怒りのままに街を壊しました。裏切られたと感じ、この街の全てを恨みました。領主は恐ろしくなり、騎士の首を部下に切り落とさせました。

それでもなお動き、領主の首を切り落としても怒りが収まっていない騎士の前に、コウと仲の良かった少女が近寄りました。

少女は泣きながらこう言いました。


『コウは、私の代わりに犠牲になったの。だから、今度は代わりに私がコウのために犠牲になります』


そう言って、少女は首の無くなった騎士と共にこの街から出て行きました。


表の話はここで終わっているけれど、本来この話には続きがある。

こうして街に平和が訪れたのと同時に、残った人々は首なし騎士が住む城へ花嫁を差し出すようになったのです。少女がいなくなることで、騎士の怒りが街に来ることを恐れたのです。


首なし騎士は毎年決まった週の夜中にこの街を徘徊する。その際に、少女と同じ様な乙女を花嫁として差し出すのだ。いわゆる生贄である。



そしてこの風習は今でも残っている。




「ねーさーん?起きてますかー?」


トントンと木製の扉を叩き、大声で部屋の主である自分の姉を呼ぶ。少し物音がした後ゆっくりと扉が開き、薄い金色の髪をふわりと揺らしながら、儚げな姿の姉は妖精のような柔らかい笑みを浮かべる。

そして私を一度抱きしめると、小さな声で朝の挨拶を交わし、身支度を始める。

柔らかい髪を櫛で丁寧に梳き、瞳の色と同じ深い緑の色のリボンで結ぶ。姉に似あう水色のワンピースをタンスから取り出し、寝間着から着替えさせる。

そうすれば、妖精がさらに美しくなり、女神の姉がそこには居た。


「いつもありがとうね、マニちゃん」


「私が好きでやってるんだからいいのいいの!さぁ朝ご飯あるから食べてきて」


「うん。お店の準備、お願いね」


「うん!」


朝食が置いてある台所へ向かう姉を見送ると、部屋を出て別の木製の扉を開ける。目の前のカウンターを横切り、天井からぶら下がる様々な草や花、棚にある沢山の乾燥させた植物の根や骨や謎の液体が入ったガラスの瓶一つ一つを、自分の目と鼻で確認していく。


ここは家族で経営している街の薬屋の一つ。家族で経営しているとはいっても、実質私一人で経営している感じだ。両親は結婚30年祝いに世界一周旅行へ数年前から旅に出たっきり帰ってこない。私の大好きな姉は昔から病弱で、今も一つ大きな病気を患いながらお店の手伝いをしてくれている。

私は、小さな頃から本が好きで、持ち前の知識と両親のスパルタのおかげで一通りの薬が作れるから、その能力をフルに使ってお店をなんとか経営している感じである。

看板娘である姉と薬師である妹。街一番の美女の姉と薬品の影響で体が変わった不細工な妹。色んな意味で有名な薬屋だ。


薬の材料がいつも通りの状態であるのを確認すると、街路に出る扉を開き、目立つところに薬屋のマークの看板を立てかける。

これがいつもの私の一日の始まり。ただ、今日だけはいつもと違っていた。

慌ただしく走ってくる音が遠くから聞こえ、こちらに向かって汗だくで走ってくる男が一人。

姉さんと私の幼馴染の男だ。


「おーい!姉さんはいるかー!?」


「今姉さんは朝食食べてるところだから、邪魔しないであげて」


「き、緊急事態だってのに呑気に飯なんて食ってるんじゃねぇよ!」


そう言って、彼はドタバタと店の中を通り、裏の住処へと走っていった。

いったい何があったというのだろうか。とりあえず彼の後を追って姉さんの元へ行く。

台所へ向かう扉を開けると、椅子に座る姉さんの手には紙が握り締められ、二人揃って青ざめた顔でその紙を覗き込んでいた。

入ってきた私に気づいて、姉さんが青ざめた顔のまま私に抱きついてきた。


「姉さん?」


「マニちゃんわたし…わたしっ」


驚いている私に、姉さんは俯いたまま手に持っていた紙を渡してきた。

それを受け取り中身を読んでいく内に顔から血の気が無くなっていき、床に力なく座り込んだ。


「姉さんが…今年の花嫁…?」


首なし騎士の花嫁は毎年領主が指定するんだけれど、誰が選ばれるのかは直前まで家族にしか知らされない。今両親がいないため、幼馴染の両親に重要な書類が行くようになっているから幼馴染の家に届いたのだろう。

今まで他人事だったことがいきなり訪れたことに私の思考は考える事を放棄した。いや、放棄したかった。


「…マニちゃん、泣かないで」


「ねぇさん…っねぇ、なんでねぇさんなの?ようやく幸せになれるのに、なんで、ねぇさんが」


訳も分からず言葉を吐き出す私を姉さんは強く抱きしめる。姉さんは先月幼馴染に告白されて婚約したばかりだ。来月には結婚式が行われる予定だというのに、この仕打ちは酷い。

姉さんの病気を治す薬もようやく見つかったというのに。あんまりだ。


「大丈夫よ、まだ時間はあるもの」


「でもっ」


「いつもどおりにしましょ?ね?」


そう言って微笑んだ姉さんは、私より辛くて泣きたいはずなのに泣いていなかった。

私は姉さんの手を払ってその場から走った。店へ戻り、愛用の手提げ鞄にありったけの薬品を詰めると外へと飛び出す。後ろから姉さんと幼馴染の声が聞こえてくるけれど、涙を見られないように私は前を向いて街の外へ飛び出した。



私が姉さんにしてあげられることは薬を作ることしかなかった。



姉さんの病気を治す薬を作るための材料は現状一つだけ足りなかった。

急な崖に夜に咲くと言われる花の根が必要で、今まで取りに行っても生えていないことが多かった。

夜は魔物が出てくる可能性があるから一人で来ることはなかったのだけれど、そんな事言っていられない状況だ。

走って体力が尽きたら少し休んでまた走って、繰り返し走り続けると次第に日が傾き、目的地が目の前に来ていた。

顔に滴る汗を服で拭い、息を切らしながら目の前の上が見えないほどの壁の様な崖を見上げる。

日が落ちて、少し暗い状況で必死に目当ての花を探す。


「……あったぁ!!」


花は手では届かないが登れば届く場所に生えていた。

覚悟を決め、袖を二の腕までまくりあげて崖を登り始める。スカートが岩に引っかかってしまうこともあったけれど、なんとか花までたどり着くと、片手で花の根を堀り、一輪の花を鞄へ押し込む。

取れたことにホッと安心して気が抜けてしまった途端、足の支えにしていた岩が砕けた。

バランスを失った足は空中へ飛び、スローモーションの様に後ろへ落ちていく。

鞄の蓋が開き、中から姉さんの薬の材料達が飛んでいく。瓶に入った薬品たちは割れてしまっては取り返しがつかない。一瞬で手繰り寄せ自分の身体をクッション替わりに私は地面に落ちた。



1時間ぐらい気を失っていたんだろうか。空は完全に暗くなっていて月が浮かんでいた。

ふらふらする身体をゆっくり起こし、薬が全て割れていないことを確認して、急いで薬を作り始める。


「…っ、腕が……」


かなりの高さを落ちたせいか、左腕の骨が折れていた。それでも痛みを抑えながら花の根を切り、すり潰し薬品たちに混ぜていく。痛みから目から涙が出てくるけれどそんなこと気にしている場合ではなかった。


「早く…っ!」


早く薬を作って姉さんに渡さなければならなかった。

全ての作業を終え、完成した薬を鞄に大切に入れると痛む身体を無視して行きの道を走り出した。

途中、馬屋に寄り馬を借りて走る。お金が無いから行きは乗らなかったけれど、なりふり構っていられない状況なのだ。

必死で馬を走らせ、街に戻ってくる頃には既に夜中になっていた。馬を街の外に繋ぎ、自分の家へ走っていると街の男数名に姉さんが無理やり連れて行かれそうになっている状況だった。

横では幼馴染が地面に押し付けられ、身動きがとれないように押さえつけられている。


「姉さん!!」


「…っマニちゃん!」


咄嗟に姉さんを掴んでいる男たちへ向けて鞄の中に入っていた、柑橘水が入った瓶を開けてぶん投げる。

幼馴染を押さえつけている男たちにはマタタビが入った瓶をぶん投げてやる。

二つの瓶が男たちに降りかかり、片方は目を押さえながら苦しみだし、もう片方は突如現れた野良猫たちに体中を舐められ悶え苦しみ始めた。

その隙に二人の手を掴んで路地に駆け込む。路地に入れば身を隠せる場所なんて沢山あるのだ。

後ろから追いかけてくる沢山の人の声に、私は必死で二人の手を引っ張って廃屋の中に飛び込んだ。


扉を閉め、部屋の中にあった木箱や本棚を扉の前に置いていく。最後に頑丈に周りの窓も古ぼけた家具でバリケードを作ると、ようやく一息つけるようになった。

ふと後ろを振り返れば、震えながら私を見つめる姉さんと目を見開いて私を見る幼馴染がいた。


「ま、マニちゃん今までどこに?それにその傷どうしたの!?」


「姉さんしーっ!声小さくしないとバレちゃう」


慌てて口を閉じる姉さん。少しの間他の人の声が聞こえない事を確認して、私が「大丈夫みたい」と言えば、勢いよく両肩を掴まれる。


「いきなり飛び出してどこへ行ってたの!しかも、左腕血が出てるじゃないっ…」


「姉さんの薬を、作りたかったの」


そう言いながら鞄の中から完成した薬の入った瓶を姉さんに手渡す。驚いて瓶と私の顔を何度も見比べた姉さんは、理解した瞬間私の頬を叩いた。

初めての衝撃に私は半分放心状態で叩かれた頬に触れる。触れながら姉さんの顔を見上げれば、姉さんは涙を流しながら唇を噛み締めていた。


「なんでマニちゃんは自分の事を考えないの?!昔からそう!わたしの為になんでも我慢して、自分の体さえも犠牲にしてわたしを治そうと必死になって!わたし以上に体が限界なのは自分でもわかってるんでしょう!?」


「ねぇ…さん?」


「生まれた時はわたしよりも可愛らしかったのに、今じゃもう別人のようになって…っ!好きな人でさえわたしに譲って…っ!最後の最後までなんでわたしを優先するの…っ!」


最後はもう涙声で分からないぐらい、姉さんは泣いていた。横で呆然と聞いていた幼馴染が姉さんを抱きしめながら、信じられないような目で私を見る。知らない事を聞かされて戸惑っているのだろう。

私は苦笑しながら叩かれた頬を撫でて二人の姿を見つめる。


「姉さんは知ってたんだ…私が姉さんが好きになった人を好きになってたこと…」


「当たり前じゃない…っ。わたしは、マニちゃんのお姉ちゃんよ?」


「そうだね。姉さんはいつも早く気づいてたもんね」


そう、私は姉さんの婚約者が好きだった。たぶん、姉さんが彼に恋をする前から。

でも彼は姉さんのことが好きだと知って、諦めた。そうした方がいいと思った。

その時既に私の体は薬品の副作用などで体が変わっていたからだ。それがまさか姉さんに見抜かれていたとは思いもしなかったけれど。


「後悔はないのよ。私はもうあの頃既に身体がボロボロで、長くは生きられないだろうなーとは思ってたから。それなら告白なんてせずに黙って一人で死んだほうがいいじゃない」


「お前…」


「あぁ、今はもう好きって感情は無いから安心して?アンタと姉さんのイチャイチャぶりを見てて色んな意味でうんざりしたから」


「酷い言われようだな俺」


「今じゃもう馬鹿兄ぐらいにしか思ってないわよ…だからこそ、二人には幸せになって、欲しかった、のにっ」


堪えきれない涙が流れ始めたその時、廃屋の扉がドンッと叩かれる音が聞こえた。「ここにいるんじゃないのか!?」という声も聞こえてくる。

一瞬で緊迫した空気が流れ、姉さんと幼馴染を窓からも扉からも離れた隅に押し込め、私は入口付近の床下の板を外し始める。


「一体何を」


「ここの板、外せるようになっててここから街の地下道に抜けれるわ」


一人分が通れるくらいの板を外し、下へ続く道がちゃんとある事を確認すると戸惑う二人を順番に押し込んでいく。

外からはドンドン壁や扉が崩れる音が聞こえてくる。


「私が引き付けるから、二人はそのまま逃げて」


「マニちゃん!?」


「大丈夫、私これでも体力には自信があるの。二人共、無事に幸せになってね。愛してるわ」


扉が破られるのと同時に、私は鞄の中に両手を入れ、様々な色の液体が入った試験管を4本ずつ取り出す。そして斧を持って入ってくる男たちに容赦なく試験管の中身を投げかけた。

様々な異臭を放つ液体をもろに食らった男たちは悶絶して次々と倒れていく。追加で試験管を取り出し、襲いかかってくる街の人間たちにも投げつける。

私は出来るだけ私に視線が行くように倒れた男たちを踏んで廃屋を飛び出した。


「二人は逃がしたわ!居場所が知りたければ私を捕まえなさい!」


そう大声で叫び、出来るだけ廃屋から人を離す。そうすれば安心して二人は逃げることが出来るだろう。

地下道を通って街の外へ出さえすれば、私が置いてきた馬が目につくだろう。それで逃げればもう後はどうにでもなる。

私の役目はできる限り時間を稼ぐ事だ。

鞄の中からアルコールの入った大きめの瓶を取り出し、火をつけたライターと共に廃屋へ投げ込む。

パリンッとガラスが割れた音が聞こえたと同時に、廃屋から一気に火の手が上がる。

これでここから逃げたという証拠隠滅も出来るだろう。


『なんでここまで逆らう!街の人間全てが首なし騎士に殺されてもいいのか!』


「殺されたっていいわよ!!姉さんを見捨て、私を貶し、父さん母さんでさえ仲間はずれにして、昔の風習に固執し続けるアンタたちなんて死ねばいい!!本当のことさえ知らないでしょうね、この掟がただの領主の一族の嫁選びだって事。今まで選ばれてきた花嫁たちが禁所へボロボロになった状態で捨てられてた事なんて!」




そう、真実は首なし騎士を偽った領主が定期的に女漁りをするために作り出した嘘の風習だ。




まだ魔術とか魔物が沢山いた頃には実際に生贄を首なし騎士に捧げていたんだろうけど、いつから領主の遊びになったのか私には分からない。

その真実を知ったきっかけは、薬の材料を取りに行き禁所とされていた山の中に迷い込んでしまった時だ。

薬草を摘み、帰ろうとしたその瞬間、馬に乗って山の中を走ってくる領主とその部下を見てしまった。部下の馬には人の大きさぐらいの袋が積まれていて、気になった私はその後ろを気付かれない様に着いていったのだ。

すると、人工的に掘られた巨大な穴が見えてきて部下が持ってきていた袋を穴の中にほおり投げた。

領主たちがいなくなった事を確認しながら穴へ近づいていくと、穴の中には焼け焦げた跡があり、中に入っていたのは人の腕や足、髪の毛が出ている沢山の袋たちだった。中には肉が削げ落ち、骨になっている物まであった。

酷い腐臭に鼻と口を押さえ、私は目の前の光景が信じられなかった。罪人の処分場なのかと思ったけれど、ここ数年罪人なんて出ていないほど平和だというのに目の前の袋は少なくとも50は超えている。



恐る恐る真新しい袋へ手を伸ばすと、中から出てきたのは去年花嫁として捧げられた女の子だった。

胸元に剣で切られた様な傷痕があり、首には縄で絞められたような痕が残っていた。

理解してしまった。理解できてしまった。これは、この行為は人間が行った事だと。

この事実は姉さんも知っている。ただ、姉さんは私が罪人として捕まるのを恐れて領主に進言しようとはしなかった。私だって、姉さんが花嫁に選ばれなければ一生言うつもりはなかった。自分の身が可愛いのは人間の性だもの。


呆然と私の言葉を聞いている男たちに向けて私は叫ぶ。中には馴染みのお客さんや去年の花嫁の父親だっているのに、私は容赦なく事実を叩きつける。


「私の言うことが信じられないなら禁所の山の滝の麓に行けばいいわよ!そこで自分の娘達が袋に詰められて死んでる姿を見ればいいんだわ!去年の花嫁や一昨年の花嫁役の子の哀れな姿を…っ、身体中に刻まれた痛々しい傷を!」


『う…嘘だっ、そんな訳あるか!オレは実際に騎士を見てる!』


「首がないはずの騎士が何故兜なんて被ってるのよ!!兜なんて被る必要があるわけ!?しかも首なし騎士の首は、領主の所に保管されてるっていうのは街の人間全てが知ってることだわ。兜も一緒にね。これでもなお、姉さんを犠牲にしようとするなら…」


あまりの衝撃に言葉もなく、反論しようにも反論する術もなく、男たちは立ちすくんでいた。

私は覚悟を決め、鞄の中から一つの試験管を取り出す。中に入っているのは少量の鈍い銀色の液体。水銀だ。しかもこれは少し手を加え、毒性が直ぐに出るようにした代物だ。

一人の男が中身に気づき、止めようとしてきたけれどその前に試験管の蓋を外し、一気に水銀を喉に流し込む。後から身体を押さえつけられ、吐き出させようと腹を殴ってくるけれど、口に入れてしまえばもう遅い。


『おいっ!誰か水を持って来い。急いで吐かせるぞ』


『…本当に娘が…』


『嬢ちゃんしっかりしてくれぇ!ここで死ぬんじゃねぇよ』


水銀の毒性で口から血が溢れ出す。全身が熱く感じられ、どんどん身体から感覚が抜けていく。意識も朦朧としていた。

それでもなんとか目を開けていると、突然周りの人が同じ方向を向いた。皆同じ方向を呆然と見つめ、徐々に顔が青ざめている。私は痛みでそれどころではなかったけれど、地面からドンッドンッと何かが歩いてくる振動と鎖を引き摺る様な音が聞こえてきた。


意識が落ちる瞬間、誰かの呟きが聞こえる。






本物の首なし騎士が来た、と。








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