2話
「行ってきます。」
見慣れた道だ。
今日から通う青海高校は、自宅から徒歩10分程で着く。
すぐ角を曲がると、幼なじみの北野紗菜が待っていた。
「凪、おはよう。」
「おはよう紗菜。また3年間よろしく。」
「もう何年目だって話だよねー、まさか二人してすべっちゃうとは!」
紗菜が苦笑いをしながら言う。
「それを言われると痛い。」
「ふふ、まあ近いし制服もかわいいし、わたしはいいやー!」
「そうそう、どこで勉強するかより、自分がどれほど頑張るかだよ、高校なんて。」
「お。言いますねー。凪さんはよほど頑張るんですね。」
「…よし、早く行こう。」
「あ、話そらした。」
俺と紗菜は同じ公立高校を受験し、二人とも不合格になった。
そして、滑り止めとして受けていた私立青海高校に入学することになった。
正直、落ちるとは思ってなかった。
模試の判定もよかったし、学校の先生にも大丈夫だろうと言われていた。
何がいけなかったのだろう。
やっぱり緊張か?
会場の雰囲気にのまれたのだろうか。
俺はいつもそうだ、コンクールの時だって…
「…なーぎっ!」
「…ん?」
「高校生活、楽しみだね!」
笑顔で紗菜がそう言った。
「ん、そうだな。」
紗菜はいつもそうだ。
俺がピアノについて考えていると、顔に出ているのか知らないが、紗菜にはそれがわかるようだった。
俺を気遣って、ピアノの話題は一切触れてこない。
俺がピアノをやっていたときは、いろんな話を聞きたがっていたのに。
それが申し訳なくもあり、ありがたくもあったのだ。