四話
だいぶお待たせしました。
ようやく四話を投稿できました。にじファンの騒動やらいろいろあって、少し長引いてましたからね。
それでは、どうぞ!
図書室第一資料室に静寂が走りこむ。聞こえてくるのは、そわそわしながらパタパタと紅茶の準備をする芳佳の足音と、先に一樹が準備しておいた紅茶を、今回の依頼人がゆっくりと優雅にすするその音だけ。そして、不意に今回の依頼人が口を開いた。
「私が花園絵里香、今回の依頼人です。どうしても、相談所の皆様に解決していただきたくて………」
「そうですか………そして、その内容とは………?」
相談所の皆様、と言うフレーズに後ろで少しだけムッとした表情をする芳佳。どうやら、自分の相談所の一員として見られているらしい。そのことに訂正を入れようと「あのですね」と言いかけるが、言う寸前に一樹が彼女の口に小さめのマフィンをぶち込み、彼女の言葉を黙らせる。芳佳は瞬間驚いた表情をするが、次見た時にはマフィンを両手でもってとても幸せそうな表情でマフィンをかじっていた。
(リスみたいなやっちゃな。こいつ)
そんなことを考えながら、「失礼」と絵里香と、彼女と共に来ていた玲次に一言告げると、再び彼女の話を聞くスタイルに入る。そして、彼女が話し出すかと思いきや、隣に立っていた玲次が話し始める。
「実はな、今絵里香はストーカーにくらってるんや」
「ストーカー、ですか?」
はい、と言ってからしゅんとなって小さくうなずく絵里香。そんな彼女を見て、一樹は表情に出さないもののつらそうな表情になり、さらなる情報を聞き出そうと玲次に問いかける。
「そのことを自覚したのは?」
「だいたい一週間くらい前や。そのころから、ワイに連絡してきよってなぁ。ここ最近は一緒に帰ってるんやけど、その間もずっとつけてきよるらしいんや」
ふむ、と一考するような表情を浮かべる一樹。そんな彼の隣に、先ほどまで彼が強引に差し出したマフィンを平らげた芳佳が座り、小さなメモ帳を開いて書き込んでく。
そのメモ帳を一樹がちらりと見ると、そこには今までの会話の内容が事細かにメモられていた。どうやら、自覚していないものの、しっかりここの仕事を手伝っているようだった。
「つかぬ事をお聞きしますが、寺原先輩と花園先輩はどのようなご関係で………?」
「一応、幼なじみっちゅう関係や。でも、仲良すぎるから、たまに付き合ってんやないかって聞かれる時もあるな」
ほえ~、と納得するような芳佳。それに対して、一樹は軽く頷くだけで特に反応しない。その反応に対して玲次は「ツッコミ無しかい」と一言言ってから用意されたマフィンを一口で頬張ると、そのまま紅茶で流し込む。その行儀の悪さに絵里香が注意するが、「えぇやん別に」と言いながら二個目を頬張る。どんだけの大食漢なんだと考えながら一樹は横にいる芳佳にクーラーボックスにあるマフィンを取るように頼む。その頼みに「私も数えられてるんですね」と少し落胆したような表情を浮かべながらも、どこか楽しそうな表情でクーラーボックスからマフィンを取り出す。
「それで、僕はどうすればいいんですか?」
「希望としては、絵里香に付きまとってるストーカーを辞めさせて欲しい。それでも無理なら、警察沙汰にしてもかまわへん」
「警察沙汰にするのは個人的に嫌いなのですが………花園先輩のご意見を聞いてからでよろしいでしょうか?」
構わへん。そう玲次がいうのをしっかりと聞き届けてから、一樹は絵里香の方を向く。すると当の本人は、やはりかなり迷っている様子だった。それもそのはずである。彼女、花園絵里香は春ヶ丘高校の生徒会副会長であり、企業としても名高い花園グループのご令嬢。そんな彼女がストーカーの被害に遭っている、なんて、警察沙汰にしてから万が一バレてしまったら大変なことになる。そのことを危惧しているのだろう。
しかし、彼女は何か決意したような表情を浮かべると、そのまましっかりと一樹の方を向いて、新入生歓迎会の時に見せた凛々しい表情をここでも見せ、頭を下げた。
「崎原さん、篠宮さん。どうかこの件、よろしくお願いします。でも、なるべく警察沙汰にして欲しくはありません。万が一と言うこともありますし」
「分かりました。全力を尽くします」
ここに、一樹が受けた第一の依頼が、成立した。以下が、成立した内容である。
『1,依頼目標
春ヶ丘高校生徒会副会長である花園絵里香に付きまとうストーカーの撃退
2,条件
警察沙汰にしないこと。内容を先生に漏洩しないこと。
3,達成報酬
今度、花園家で行われる立食パーティーへの参加』
俺は、寺原先輩と花園先輩が資料室を後にした後、ようやく一息ついてコーヒーメーカーからコーヒーを注いで砂糖を入れずに一口すする。そして、コーヒーカップを置いてから再び依頼内容に目を通す。そんなことをしていると、俺の正面に芳佳が座り、テーブルの上に置いた依頼内容の紙をとると、非常に心配そうな表情になって俺のことを見た。
「ねぇ、崎原君。本当にこれ、やるの?」
何をいまさら。受けてしまったものなのだからやらないとダメだろ、普通。
「それに、これは俺最初の依頼だしな。しっかり解決したいんだ」
その熱意だけ、それだけを純粋に彼女に伝えたつもりで、今の言葉を選んで使った。すると彼女は、少しだけ考えたような表情を浮かべてから今度は深く「う~ん」と悩むように考え、「しょうがないな~」と言いながらふぅと息を吐いた。と言うか、何がしょうがないんだ。元は俺が受けた依頼だっつうの。
「それは良いとして。今回、私も協力させてください」
「………はい?」
俺は一瞬、言葉を失った。彼女は今、なんと言ったのか?俺の耳が正常ならば、彼女は確かに「手伝わせてください」と言わなかったか?確かにそう言ったはずである。
「それ、本気か?」
俺は再度聞き直した。その言葉は本心からなのか、と言う意味も込めて。すると彼女は、「もちろん。話の顛末聞いちゃったし、ここで手伝わなかったりしたら崎原君にも悪いしね」とか言いながらにっこり笑顔を浮かべて俺の方を見る。俺はその笑顔に負けてしまったのか、はぁとため息を一つ付いてから大きくのびをして、彼女の方をしっかりと見据えた。
「よし、んじゃ頼むぞ。篠宮」
「うん、任せて崎原君」
そう言いながら、俺は彼女に向けて右拳を突き出す。突然なにかと驚いた彼女だったが、その意図を受け取ると、同じように右拳を突き出して俺たちは拳をコツンとぶつけ合う。
ここに、ようやくながら相談所の正式メンバーが決定したのだった。彼女は、少しだけ苦々しい表情でそのことを受け止めていたようにも見えたが。
その後、俺たちは今後の活動について話し合おうと思ったが、運悪く下校時刻になってしまい断念。依頼についての話し合いは明日明後日の週末を使うと言うことで、現在なぜか篠宮と二人で下校中である。ちなみに先程コンビニに寄ったついでに、俺はカロリーメイトを買い、篠宮はガリガリ君コーラ味をかじりながら歩いていた。
今話しているのは、明日どこで話し合うか、ということである。普通ならどこかの喫茶店でいいのだが、もしも誰かに聞かれるとまずい、という理由で俺が却下した。この街にある喫茶店は、学校の近くにある『ハーメルン』という店しかなく、そこはよくうちの学生が入ってくることで知られているため、もしもストーカーの犯人が来てしまって話を聞かれるといろいろと面倒なことになる。そんな理由で却下したのだが………。
「じゃあさ、崎原君の家でいいんじゃない?」
「………は?」
そんなことを篠宮が言い放ったのだから、こちらも驚きだ。なにせいきなり「異性の家でいいんじゃない?」とか普通まだ会って間もない女子が言うセリフではない。まぁ、『そういう付き合い』の経験が多い女子ならそれもありそうだが、彼女いわく彼氏ができたことはないらしい(彼女が自分で言っていた)。
「おいおい、それはいろいろと問題がありそうなんだが………?」
「あれ、崎原君はそんなことしない人だと思ったんだけど?」
どうやら、俺は女子に対して人畜無害な人間だと思われているようだ。確かに、俺は女子一人家に入れても問題を起こさない自信はあるし(改めて思うが、どんな自信だ)、確か今日明日の二日間、姉は友人の家に泊まるとか言っていて帰ってこないはずである。あいつがいると、こういう状況に陥った時にかなり面倒なことになる。
えぇい、ままよ。この際、どうにでもなってしまえ。
「オッケ。んじゃ、明日の昼過ぎにハーメルン前に集合な。それから、うちに案内する」
「うん、それじゃ、よろしくね~」
そういって、ちょうど分かれ道に差し掛かって俺達は別れる。というか、分岐点がちょうどこのワイ字路っていうのも、何かありそうな予感だった。
というか、確かにこの後あったんだがな。
「よっす、一樹」
「………大介、お前なんてところにいるんだよ」
俺に声をかけてきたのは大介だった。声をかけてきたまではよかったのだが、こいつがいる場所が問題だったのだ。
こいつがいるのは、俺の家にある柿の木の上。まず、なぜ柿の木があるのかという疑問はこの際置いておいて、なぜ鍵をかけておいたはずの門を開けて入ってこれた?
その質問をすると、大介はなぜか得意げな表情を見せながら柿の木から降りてきて、びしっと柿の木の近くにある壁を指さす。
「門乗り越えられると思ったんだけど、意外と無理だったから外の壁を乗り越えた」
「んじゃ、とりあえず警察に連絡っと………あ、もしもし警察ですか?不法侵入者がいるんですけど………」
「ちょいちょいちょい待てぃ!!」
「大丈夫だ、冗談だって」
いぶかしげに俺を見る大介。その証拠に、俺の携帯画面を見せて通話履歴を見せると、そこには何も表示されていない。もちろん、消したっていうパターンも無きにしも非ずだが、俺は基本的に着信履歴やら通話履歴は、一週間は残しておくタイプなので、ここになかったら通話してないということになる。
「ほらな?」
「ほらな、じゃねぇって。お前がそういうことやると冗談に聞こえねぇって」
「そうか?つまり、渾身の演技だったって誉めてるのか。サンキューな」
「お前、俺のこと困らせたいだけだろ」
「もちろん」
「もちろんなのかよ!?」
そんな会話をしながら、俺は落胆する大介をしり目に門のカギを開け、落胆している大介を軽く引きずりながら家の中に連れ込む。どうせこいつは、俺に用があったんだ。家の中に入れといて問題ない。
「で、何の用なんだお前は?」
「その前に、何か食うモン準備してくれ」
俺はその言葉に反応して、キッチンから愛用のマイ包丁を持ってくる。一応、昨日研いだはずなので、かなり切れ味がよくなっているはずである。
「あの、一樹さん?あなたいったい何しようと………?」
何って、食べるものがほしいんだろ?だったら、お前の肉でもいいかなぁ、って。
「何か食べるものを準備してください。お願いします」
そういいながら土下座する大介。こいつにはきっと、恥という感覚が備わっていないんだろう。まぁ、それが面白いから俺はいじるんだがな。
そんな土下座し続ける大介をほっといて、俺は再びキッチンに撤収。今日の晩飯の準備をし始める。ちなみに今日の晩飯の予定はカニ玉に海鮮チャーハンだ。北海道にいる親戚が、いらんほど旬の魚やカニやらなんやらを送ってきたので、新鮮なうちに食べてしまおうという考えで、今日のメニューが決定した。
カニ玉を作りながら同時進行でチャーハンを作っていると、どうやら落ち着いた大介が椅子に座りながら俺に言った。
「なぁ、お前んとこの副会長、ストーカーにあってるんだって?」
「………何で知ってるんだ?」
おれは出来上がったチャーハンを二等分にして皿に盛り付けてからカウンターテーブルにスライドさせる。そのチャーハンをすぐさま食べようとする大介の手をピシャリと叩いてから、もう一度なぜ知っているか聞いた。すると大介は「こっちの学校でうわさになってんだよ」と言いながら、ようやく出来上がったチャーハンとカニ玉を食べながらそんな風に言う。それに対して、一樹もまたチャーハンとカニ玉をちまちまと食べながら彼の話を聞いていた。
「もうそんなところにまで広がってるのか。こりゃ、早めにけりつけないとな」
「でも、どうすんだ?ストーカーくらってんのは天下の花園グループのご令嬢。もしも追いかけてんのがヤバいグループとかの奴らだったら?」
「そん時は、お前の力か、お前の親父さんの力でも借りるさ」
「なるほど、そこまで検討済みなのね」
「ったりめーよ。先輩には、なるべく警察沙汰にはしないでくれって言われてっけど、そんなのは保障できないしな」
そんな会話をしながら、二人はほぼ同時にすべて食べ終える。タッチの差で先に食べ終えた一樹が洗い物をし、そのすきに大介は帰宅したようで、大分家の中が静かになっていた。しかし、一樹がふと後ろを見ると、そこには大介からの置手紙のみ置かれていた。
「手伝ってくれんなら素直に言ってくれりゃいいのに」
その手紙を見た一樹は、少しだけ笑顔を浮かべながら再び再び洗いものに戻って行った。
いかがでしたか?
次回より本格的に任務開始です。
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