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三話

はい、こちらでは本当にお久しぶりです。早乙女です。


一か月と少しの間、長らくお待たせしました。大学のパソコンからの更新ですwww



というわけで、第三話です。今回は、最初の依頼人とその知り合い、そして待望(?)主人公1、崎原一樹の古くからの友人(悪友)の登場です。


それでは、どうぞ!

 一樹は長テーブルの向かい側に座っている彼女―――芳佳のために紅茶をつくる。少し前に暖めておいたティーカップに、急な来客用に造っておいたダージリンを注ぐ。フワッとカップから湯気がこぼれ、彼の鼻孔を優しい香りでくすぐった。その香りにちょっと笑みを零してから、彼は芳佳の前にそのカップをソーサー付きで持って行く。


「ダージリンだからミルクは無しだけど、良い?」

「あ、うん、大丈夫だよ」

「砂糖は?」

「二杯でお願い」


 そんな短い問答を行って、一樹は手際よく砂糖をカップに入れて優しく混ぜ、今一度彼女の前に持って行く。


「ほい、俺特製ダージリン」

「ありがと」


 再び短い会話。芳佳は彼にお礼を言ってから、ゆっくりとカップに口を付け、中をすする。すすってから、彼女の表情が驚いたような表情に変化する。まるで、そのお茶を飲んで、その味にビックリするような、そんな表情だった。


「これ、美味しい」

「そいつはどうも。作った甲斐があった」


 そんな風に良いながら、一樹は笑った。その彼を見て、芳佳は驚く。それもそのはずである。教室での彼と、この資料室での彼。まるで別人のような表情―――別人のような笑顔をしていたからである。

 そのままじっと一樹を見続ける芳佳。その視線にようやく気がついたのか、一瞬だけ一樹は芳佳と視線を合わせてから、ちょっとだけ頬を赤らめてそのまま顔をそらす。


「何見てんだよ」

「え、だって、教室の崎原君となんか違うなぁ、って思って」


 「本当に同じ人?」という芳佳の質問に対して、「同一人物だよ」とぶっきらぼうに返してそのまま目の前にある自分のダージリンに口を付ける。彼女から見た教室での彼の表情は、どことなく痛々しく、無理して表情を作っているように見えてしまった。


「まぁ、どっちが表かって言うと、こっちにいるときが表だな。無理に表情作らなくて良いし、一番自然な表情が出来るのが、資料室(ここ)だから」


 彼の言葉は、自分が心を閉ざしてしまったことを暗に示しているように聞こえた。しかし、今の彼の表情は教室にいるときの彼とは異なり、非常に晴れやかな表情だ。つまり、彼は一番落ち着ける場所でないと、素の自分が出せない、と言うことの現れだ。


「あれ、でも、今朝私と話した時って………?」

「あぁ、なんか、お前と話してる時も素の自分が出せるんだよな」


 なんでかな?と疑問に思いながらもちょっと笑顔を浮かべている一樹。その彼の俯いて考える顔に、ちょっとだけ芳佳はドキッとしていた。


「まぁ、答えが欲しいなら………お前といるのが面白いから、かな?」

「え、ちょっ………!?」


 そんな答えを不意に言われて、ビックリして更に顔を赤くする芳佳。それを見た一樹は「暑いのか?」とかちょっと違うことを良いながら窓を開ける。

 その後は、意外と普通の会話だった。中学の頃のことや、今までのこと。その会話の間、二人の表情は終始笑顔だった事に、実は二人とも気がついていないだろう。




―――翌日、昼休み。


 本の貸し出しで少し慌ただしくなる図書室。その奥にある資料室で、今日も一樹は昼ご飯を食べていた。ちなみに今日の弁当は、いつもの買い弁ではなく、久しぶりである彼手製の弁当である。何となく全体の栄養バランスを考えて作られたそれは、意外にもしっかりとバランスの取れた内容になっている。

 いただきます、と既にクセのようになっている言葉を一人口にしながら、彼は唐揚げに箸を付け、口の中に放り込む。冷凍食品を解凍してちょっと味付けしたそれは、自分自身味にうるさいと思っている彼を満足できるくらいの味で、ちょっとだけ嬉しかったりする。

 彼は弁当を一気に平らげると、彼はいつも昇降口のところに置かれている『目録箱』と記された箱の後ろについた南京錠を開け、そこから折りたたまれて入っている紙切れを広げ、それを一目見てからそれらを自分が思った順番に並べていく、と言う作業を繰り返していく。

 その単純作業の中、彼の動きが一度停止した。彼の手には今、とある一枚の紙切れ。その紙切れには、彼が今回見てきた紙切れとは全く違う内容が書かれていた。


「今回は………これだな」


 そう言って、一人不敵な笑みを浮かべる一樹。そして、その紙切れを今まで並べた順番を崩すかのように一番上に乗せる。それを全てホチキスで留めると、自分のポケットにしまって資料室を出て行く。

 すると、正面には本の整理をしていたらしい木原がいる。彼の登場を見て驚いたのか、木原は「どうしたの?」と聞くが、その声を半ば無視するかのように木原に向かって何かを要求するかのような仕草をする。


「全校生徒の名簿、くれますか?」


 彼の唐突で静かな要求に木原はかなり驚く。しかし、彼女は何かを思い出したかのような表情をしてから、ちょっと考え込む仕草をして、まっすぐに一樹の目を見る。


「………あら、あなたも(えり)ちゃんと同じ事するのね」

「姉に、頼まれましたから」


 彼の目は真剣そのもの。そう、去年の『彼女』の目と同じだった。

 木原がこの学校に赴任して二年目。彼女は「相談所という名の何でも屋を作りたい」と言いだし、何をやらかしたのかは分からないが教師陣を説得してその『相談所』を作り上げた。そして、彼女はこの学校の生徒会長にまでのし上がり、この学校を一気に改革し………今の姿がある。

 昔はバラバラだったこの学校を、たった二年でほぼ完璧な団結力を形成させた『伝説の生徒会長』。その後継者が、彼。そう納得できる証拠を、木原は今手に入れた。

 ふぅと小さくため息をすると、「借りは大きいわよ?」とちょっといたずらっぽい表情をすると、ポケットに手を入れてそこから小さめのメモを取り出し、それを一樹に手渡す。

 それを一樹は開く。そこには、一年から三年までの全クラスの名前と『バーコード』が入っていた。


「これ、図書室用の?」

「コピー版ね。原本はあっちに締まってあるから、それを渡しておくわ」


 無くしたりしたら承知しないわよ?と超重量のプレッシャーを彼に掛けながら、木原は言う。彼女の言葉に大きく頷いてから、彼は図書室を後にした。




―――春ヶ丘高校旧館


 旧館とはいえど、こちらがメインに使用されているので、本棟と言った方が適切だろう。その本棟の二階の廊下を、彼は歩いていた。教室のネームプレートには、二年の文字が記されている。一年生である彼がいるのは、少々場違いと言う場所である。しかし、彼はそんな視線なんて知らないというような表情で目的地を目指す。

 そんな中、彼はとある教室の前で停止する。彼は上を向いて教室が正しいか確認した後、扉に手を掛け入っていく。

 その教室のプレートには『2-C』と刻まれている。


「失礼します。花園(はなぞの)絵里香(えりか)さんはいらっしゃいますか?」


 入って一声。その声に驚いた教室内の生徒の視線は彼に集中する。

 そんな中、一人の男子生徒が一樹に近付いていく。茶色っぽい髪に整った容姿、更に長身痩躯のイケメンをそのまま具現化させたような男子生徒。着ている制服はちょっと崩してあるものの、校則の範囲内で収めている。彼は一樹をその長身で見下すような視線を送る。


「絵里香ならちょう用で席外してるで。何の用や?」

「………あなたは?」

「2-Cクラス委員長、寺原(てらはら)玲次(れいじ)や。アンタほど何者や?」

「相談所、二代目主任の崎原一樹。一年生」

「へぇ、アンタが」


 そう言って、一樹を品定めするような視線を送る。その視線に負けじと、一樹は瞬間眼を飛ばす。その視線にたじろいだのか、瑛士はちょっと後ずさる。しかし、それに負けずに彼はゆっくりと前進し、一樹を廊下に押し出す。


「それで、絵里香に何の用や?」

「彼女が、相談所(ウチ)宛てに依頼を出してきたから、その詳細を聞きに来ただけだけど?」


 既に上級生に囲まれているにもかかわらず、一樹は身じろぎ一つせずに玲次を見る。その視線―――既に挑発の視線にもとれるその視線に対して、彼の取り巻きとも言える上級生が一声に怒号を放つ。しかし、その怒号にすら全く反応しようとしない一樹は、なおも瑛士に食い下がる。


「で、いつ頃花園先輩は帰ってくる?」

「生徒会の仕事やから、また放課後、こっちから出向いたるわ」

「そいつはありがたい。では、放課後にまた」


 そう言いながら、彼はその人混みから出て行く。しかし、その時に事件は起こった。


「てめぇ、玲次に調子乗った口の利き方してんじゃねぇぞ!」


 どうやら彼の発言が少し気に障ったようで、一樹が少し離れた時を狙って彼の取り巻きの一人(明らかに不良生徒と分かる外見)が殴りかかってくる。一樹は完全に後ろを向いており、反応は出来ないだろう。そう皆が思っていた。

 しかし、その考えは180°否定される。いや、否定された。


-パシ-


「へ?」


 間の抜けた言葉を吐いたのは不良生徒。彼の無造作に放った右正拳は、空を切らずに一樹に当たっている。しかし、直撃ではなく、なんと後ろ向きのまま受け止められていたのだ。


「威力はまぁまぁ。でも、殺気を出し過ぎ。それじゃ、簡単に受け止められますよ?」

「なんだとぉ!?」


 強引に振り払い、再び一樹に攻撃を開始する。しかし、それは全く当たらない。ただ一樹は、最小限の動きだけでそれらを回避し、彼と遊んでいるかのような表情をしている。


「まったく、これじゃ面白くもない」

「ふざ………けるなよ!?」


 再び放たれる右拳。しかし、それは当たらず再び空を切った。その瞬間、一樹は彼の耳元の一瞬で寄り、小さな声で呟く。

 まさにその言葉は、彼を地獄へ送る、最後の先刻だった。


「それじゃ、これでゲームセット。また遊んでね?」

「ごふっ!」


 ドゴン、と言うような音が聞こえてきそうな一撃。それを一樹はその細い右腕で不良生徒の腹部に向かって一発放つ。その一撃をまともに、しかも適性距離で受けてしまった生徒は一瞬で悶絶、その場に倒れ込む。


「全く、学校の中での荒事は嫌なんだ。これ以上、俺にケンカふっかけないでくれよ?」


 そう言い残して、彼は自分の教室に去っていく。その階には、衝撃で苦しむ不良生徒と、今の一瞬の出来事にただ驚くしかできない生徒だけが取り残されていった。




―――放課後


 一人資料室に籠もっていた一樹。その目的はもちろん、昼に言ったあの約束を果たしてもらうためである。

 来客用のカップに湯を注いで温めている間、彼女からもらった依頼の紙を見る。依頼書、と言うか、いつも設置している目安箱の横にくっつけているルーズリーフに書かれた内容にもう一度目を通しながら、一樹は大きくノビをして………自分の真後ろに向かって裏拳を放った!


「おぅわ!」


 後ろにいた人は半身を翻してその裏拳を回避し、何歩か後ずさり………その場に尻餅をつく。それを確認してから一樹はイスから立ち上がり、臨戦態勢を取って………後悔した。その理由が、今自分が裏拳を放った相手のせいなのだ。


「おいおい一樹。あって早々裏拳たぁ、どんな挨拶だ?」

「てめぇが音もなくこの部屋に忍び込んでくるからだろうが。一階にあるから入りやすいとはいえ、住居不法侵入だぞ?」

「そいつは失礼しましたよ、っと」


 そんな風に軽い口調で言いながら、彼は一樹と対面になるような場所に座る。軽く立たせている金髪に、首には十字架のネックレスが着けられている長身の男子。一見すれば不良だが、その視線はどことなく優しく見える。そんな彼―――千石(せんごく)大介(だいすけ)は、対面してルーズリーフを見つめている一樹に対して困ったような表情を浮かべる。


「なぁ、一樹………?」

「デートプランの作成なら、やらんぞ?」


 言葉を先取りされた大介は「だぁぁぁ!マジかよぉ」とか言いながら大きく仰け反る。そんな姿になっている大介を、一樹はまるでいつものことかの様に表情を全く変えず、先に作っておいた自分用のアールグレイを一口飲む。そう、彼にとって、大介の『デートプラン作成』という依頼は、至極当たり前のことなのだ。

 一樹と大介の関係は、どこにでもありそうな『幼なじみ』と言う関係。更に言うなれば、『親友』とか『悪友』という区分けもあるだろう。そんな関係なのだ。幼稚園年少から始まり、小学校、中学校と同じ学校で同じクラス。十三年間同じクラスで過ごし、高校になって親との話し合いを経て、一樹は地元の春ヶ丘、一方の大介は隣町にある私立高校『私立稜蘭(りょうらん)高校』へ進学し、それぞれの道を進んでいる。

 ルーズリーフを見ている一樹をちらっと見てから、大介は持ってきたカバンの中から英語のテキストとノートを取り出して勉強を開始する。どうやら、こっちが本命の目的のようだ。


「お前、相変わらず英語出来ねぇのな」

「うっせぇ。英語なんて、日本人の言語じゃないし」


 笑いながらも大介はずんずん問題を解いていく。一樹が「出来ない」とはいえど、大介の英語の実力は英検二級クラスだ。しかし、一樹は準一級クラスの英語力を持っている。一樹と大介の間で言う「英語が出来ない」というのは、準一級を目安にしたものだ。故に、大介のことを「出来ない」という。本来ならとても英語が得意と言えばいいのだが、彼らの間ではこんな感じなのである。

 そんな他愛のない会話をしながら、一樹はふと思い出したような表情になると、一心不乱に英語のテキストの問題を崩している大介に対して、少し残念なお知らせをした。


「なぁ、大介」

「ん、なんだ?」

「今日の放課後、つまり今だが、依頼人が来る予定なんだ。今ここで部外者のお前がいるのは、いささか危ないと思うのだが?」


 いかにも正論をぶつけられた大介は、しばし呆然としてからそそくさと勉強道具を自分の白いエナメルバッグの中に詰め込み、近くの窓枠に足をかける。そして、ふと一樹のほうに向きなおると、まるで「頑張れよ」とでもいうかのように親指をぐっと立て、そこから立ち去る。

 瞬間、静かになる第一資料室。しかし、そんな中一樹はもう一度紅茶の準備をしだし、二度目の来客を待った。

 その時、不意に資料室の扉が開く。扉を隠すよう置かれている本棚の陰から出てきたのは、篠宮芳佳だった。しかし、その表情はどこかそわそわというか、少し緊張しているような表情にも見える。


「どうした?」

「あの、外に先輩が来てるんだけど?花園先輩と、寺原先輩、って言ったかな?」


 さっそく来たか、そう一樹は心の中でつぶやくと、自分が座る場所とは反対の椅子をすぐに座れるように引いておくと、真剣な面持ちで彼女に伝えた。


「とりあえず、俺の初仕事だ。ちょっと手伝ってくれるか?」

「………はい?」

いかがでしょうか?


次回から、今回出てきた最初の依頼人である花園先輩からの依頼をこなしていきます。やる気満々の一樹と、巻き込まれた感じの芳佳、そして部外者と言われた大介(彼も後々絡んできます)は、最初の依頼をどうこなしていくのでしょうか?必見です!


感想や、「こんな以来、事件を彼らにやらせてみたい」という意見がありましたら、どしどしよろしくお願いします!


それでは、また次回で!

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