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一話

とりあえず、先刻お知らせした一次創作を投稿します。


感想とか、よろしくお願いします。

 ふと空を見上げた。空を見上げると、そこには昇降口のところから散ってきた桜の花弁が舞い踊り、青い空が淡い桃色に染まった。その空を見上げた彼女は、小さく「早いなぁ」と呟いた。その身に纏った真新しいブレザーと、左側の髪をとめる桜の花弁をモチーフにした綺麗な髪留めが、何よりの証拠である。

 彼女は、一週間前に入学式を終えたこの学校の地形を覚えるために、一人学校内を探検している。しかし、この地域の影響があってか、如何せんこの校舎は広すぎる。そのため、休みを入れつつ歩いて、ようやく中庭にたどり着いた、というところである。

 中庭にあるベンチにいったん腰を下ろしておおきくのびをする。さすがにたくさん歩きすぎたのか、足に疲労がたまっていた。自分の体力のなさにちょっと苦笑してから、彼女はまた空を見上げた。

 空に舞い踊るのは桜の花弁。目の前を埋め尽くす桜色の壁に圧倒されながら、彼女はこの早くも密度の濃い生き方に、久方ぶりに感動していた。

 そんな感動を覚えている時………


-パサ-


 耳を一瞬だけ過ぎった紙が擦れる音。誰もいないはずの空間で、あり得ない音が響く。


-パサ-


 同じ音が再び小さく響く。彼女はその音の正体を確かめるために、音のする方へゆっくり進んでいく。


-パサ-


 だんだんと音がはっきりしてくる。すでに周りには一人もいなく、周囲には木しかない。学校の敷地内とはいえ、こんなところがあるとは思わなかった。

 そして、彼女の目の前に大きな柳の木がゆっくりと現れる。たしか、この学校の校章には柳の葉が使われていると言うことを思い出す。

 そこの木の根本。そこに深く腰掛けるように、一人の少年がいた。真っ黒な闇のような、ちょっと長い黒髪。右側の前髪だけ長くて、それを下ろして右目を隠している。ふと右手でめがねのツルをクイと持ち上げるような仕草をして視点を整える。そして左手には、一冊の文庫本が乗せられている。春の微風(そよかぜ)に本のページがなびき、そのたびに左手で本の端のページを押さえる。そんな優等生のような、ちょっと不思議な彼の姿に、彼女は心奪われていた。

 孤高のような姿、でもどこか、彼の姿には人を惹き付けるような、そんなオーラのようなモノが纏われている。そう、言うなれば、頼れる存在というのだろうか?そんなモノがあるのだ。


「………?」

「あ………ども」


 ふと顔を本から視線をはずした彼少女の視線がぶつかる。少年は彼女のことを不思議そうに見つめ、少女は彼のことをちょっとバツの悪そうに見つめる。

 そんなことがしばし続いて十数秒。少年は座っていた柳の木の根元からフッと腰を浮かし、少しだけずれる。そのずれた幅は、ちょうど女の子が一人座れるような幅が出来ている。つまり、「立ったまま話すのは嫌なので、座って離そう」と言う、口に出さない言葉だった。そのことを理解した少女は、彼の好意に甘えることにして「じゃ、失礼して」と言いながら彼の横に腰を下ろす。

 そのまま続く静寂。少しなら耐えられた彼女だったが、とうとう耐えられなくなったのか、少し周りを見渡してから彼の右手に収められている文庫本に視線を移し、あっと小さく声を上げた。


「宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』………だね」

「………知ってるのか?」


 ついに口を開いた少年は、本に興味を持ってくれた彼女に驚くような表情を浮かべて、彼女の事を見つめる。それに驚いた彼女は、ちょっとだけビックリしながら「うん、私も本好きだし」といって空を見上げる。


「………お前は、話しづらいと思わないのか?」

「え、なんで?別にそんなこと思わないけど?」


 ふと発した彼の問いかけに、彼女は不思議そうな表情を浮かべて答えてから彼を見る。

 まさかそんな答えが返ってくるとは思わなかった。そうともとれる表情を浮かべてから、彼はゆっくりと言葉を紡ぐ。

 自分は中学時代、殆ど一人だった。聞き上手で聞き出し上手だった自分は、よく人の相談に乗っていたけど、それはあくまでも『利用されているだけ』と言うこと。陰口をたたかれるのは当たり前だったし、そのころから無口になっていた自分に友達といえる人は殆どいなかった。だから、自分を見ても誰も話しかけては来なかった。

 そのことを少年が言うと、少女は「そんなこと気にしないよ」と空を見上げて呟いた。その言葉を聞いて驚いた少年は、その後の彼女の言葉を待った。


「だって、本が好きな人に、悪い人はいないもん。それに、相談してくれていた人がいたなら、それは頼られてた、って事じゃない?」


 その言葉を聞くと、少年は驚いた表情をしてから、俯きながら小さく笑った。俯いたことを見た少女は、何か焦ったような表情をして何か言おうとするが、それを言う前に少年が口を開く。


「ふふふっ、やっぱお前、面白いわ。気に入ったよ、篠宮(しのみや)芳佳(よしか)

「そりゃどうも………って、何で私の名前を!?」

「だって、俺たち同じクラスだろ?」


 最初話したときよりも幾分か明るいトーンで話す彼。彼の言った言葉に驚いてあわてふためく少女―――芳佳は、彼が何を言っているのか、自分が何を言って良いか分からないような表情である。しかし、その表情を見て少年は面白そうな表情を浮かべてクククと喉で笑う。


「西条中学出身の篠宮芳佳、在籍していた部活は文芸部。何だったらスリーサイズも………」

「言ったら殴るよ?」

「言わない言わない、と言うか知らないし」


 そんなことを言いながら少年に詰め寄る芳佳を、少年は両手を前に出すようにまぁまぁとなだめる。右手を握り拳にしてぷるぷると震える彼女を可愛いと思いながらも、彼は今の言葉をジョークと分からせる。理解した芳佳はまだちょっとふくれっ面になりながらも彼の方を見る。


「と言うか、その情報どこから仕入れたの?もしかして、ストーカー」

「そのもしかしてはないから安心しな。ただ、ちょこっと情報収集能力が人より優れてるだけ」

「それでそんな情報仕入れる?」

「まぁ、俺の興味本位だよ」


 そう言いながら彼は立ち上がる。それを追おうとする芳佳だが、それを遮るように彼女の目の前に一枚の紙切れが差し出される。その紙には、太いマジックで書かれたような文字と素っ気ない文章が、B5用紙に小さく書かれていた。

 この張り紙は、彼女も校内でよく見ていた。この学校に入っている一つ上の先輩に聞いたところ、この張り紙はマイナーチェンジを繰り返しつつも彼女がいた頃から張られていたらしい。その先輩も、一つ上の先輩に聞いたところ、彼女が入学していた頃には張られたいたらしい。それほど古い、とは言っても、最も新しくても四年前からだが、それくらい前から張られていたものらしいのだ。


「何で、この張り紙持ってるの?」

「ん?………だって、これ作ったの、姉ちゃんだから」


 そう言い残して、彼は去っていく。その彼の何か言おうと芳佳は一歩踏み出すが、その瞬間春風が吹いて彼女の視界を遮る。その風がやんだときには、もう少年の姿は消えてしまっていた。


「もう、どうしろッて言うのぉ~?」


 ちょっと困ったように芳佳は言うが、彼女の頬はほんのりと赤く染まっていたことに、彼女は気がついていない。そして今、彼女の視線は、先ほど少年から受け取ったB5用紙にまっすぐと向いていた。


『県立春ヶ丘高校図書室相談所


 お悩み聞いて解決します。基本的に無料ですが、リスクがある場合はその都度料金請求させていただきます。


 回収した料金は、学校をよりよいもととするために使用されます。


 お悩みがある生徒は、三階図書室奥、第一資料室まで。お茶とお菓子を用意してお待ちしております。


 相談室主任 崎原(さきはら)一樹(かずき)


 これが、二人の紡ぐ物語の始まり。本が好きな少女と少年の、優しくてちょっぴり甘い恋の物語の始まりである。


いかがでしたか?


また一話なので、まだまだというものですが、感想とか頂けると嬉しいです。

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