その6 少年兵
トンネル内のバズー班。トンネルの先から、エンジン音と微かな光が見えてくる。その光でバズー班は全員、暗視スコープを外した。
「一単ライト・・・バイク隊だ!!」キーンが叫ぶ。
「展開しろ!ここで殺るぞ!」バズーが指示する。
「こっちは隠れる場所がない。銃弾も避けれないぞ!」ライが銃を構えながら叫ぶ。
「それは向こうとて同じだ!」とバズー。
「バズー!?天井をバズーカで撃ち抜け!」とキーン。
「最悪全員生き埋めじゃないか・・・?」バズーは湾曲の天井を見つめた。
「生身でバイクと戦えるかよ!?」とキーン。
「なら、直接攻撃でバイクを・・・」
バズーはライトが見えてくるトンネルの先に、バズーカを構えた。
「天井崩れても知らないからな・・・」
バズーが発射したバズーカの砲弾が、トンネルを進んできたジプシャン軍のバイク隊を砲撃した。木端微塵に吹き飛ぶバイク隊。視界が見えなくなるほど埃と砂が舞い飛ぶ。その中爆発したバイクの炎だけがトンネル内を照らし始めた。しかし後続のバイク部隊のライトが遥か向こうに見えて来る。
「くっ、まだ来るぞ!」キーンは苦い顔をする。
「これ以上バズーカを使ったら、本当にここの天井が抜けるぞ。」
埃と砂が収まってくると、さっきのバズーの攻撃でバイク隊が攻撃された天井部分の一部が崩れかかっていたのが爆破の炎で見えて来る。
「あれは・・・?」
バズーはさっきの爆発で爆破された箇所の横に、別の通路が出来ているのに気づいた。
「あそこに通路がある!あそこに避難するぞ!」
「あんな所に通路か?」とライ。
「急げ!キーン後方を頼む!」
「任せろ!」
バズー班の12名は、キーンだけを大きい通路に残すと、その脇に続く細い通路へと入ってくる。キーンはその通路に体を半身になり隠れ、バイク1台1台を自分のライフルで狙撃し始めた。
志村口入口手前、ダブル班。
「バイク隊だ!数は15台!」
後方にいた同じ班の兵が叫んだ。
「ここでバイク隊を迎い撃つ。」とダブル。
「瓦礫から・・・頭出すなよ・・・」瀕死のモスキートが叫ぶ。
「モスキート・・・」
ダブルは、モスキートの声でモスキートの傷の具合を知った。ダブル班は、瓦礫の建物に背中を付けると、拳銃や機関銃を構えだした。
「いいか!瓦礫から出るな!後ろから狙撃されるぞ!」
迫り来るジプシャンのバイク隊。ダブル班はある程度の覚悟を決めた瞬間であった。
すると1台のバイクが炎上するのが見えた。ライダーは放り出され、荒野へと叩き付けられる。
「何だ!?」ダブルは驚いた。
炎上したのは1台ではなかった。1台また1台とライダーたちが振り落とされていく。
「味方か?P4・・・?」
「こんな派手な演出は・・・奴だよ・・・」ニヤリと笑うモスキート。
「あいつ・・・いつもいい所を・・・」
そこに現れたのは、敵のバイクに跨るキキとホーリーであった。そこへ、ダブルの元へ無線が入る。
『あらあら、小さい班長さん。苦戦中ね?ちゃんと隠れないと頭狙われるわよ?』
「ホーリー・・・どこでバイクを・・・?」
『途中で、敵から奪ったのよ。昼間暑いしね!』
「あんまり近寄るな!狙撃されるぞ!」
『ああ、あれならうちの隊員が“なんとかする”って言ってたわ。』
「ロクの野郎・・・」
瓦礫の間を走って狙撃兵のいると思われる、4階建ての廃墟に身を隠しながら近づくロクがいた。立ち止まりインカムで無線を飛ばすロク。
「ホーリー?聞こえるか?もっと建物に寄れないか?」
『私に囮になれって言うの?無理よ!これ以上は・・・』
「4階のどこかのはず・・・敵が見えないんだ・・・」
『ロ、ロクか・・・?』
モスキートが突然無線に割り込んで来た。
「モスキート?お前・・・?」ロクはその声に事情を察した。
『俺が・・・囮になる・・・チャンスは一回だぞ・・・』
「やめろ!無茶するな!」
『この出血だ・・・俺はもう・・・いいな。俺の銃は・・・お前に任すぞ・・・』
『やめて!モスキート!ロクは銃を撃てないのよ・・・それなのに・・・私かキキがする!それまで・・・』と無線のホーリー。
『ロク・・・お前なら出来る・・・行くぜ!』
「モスキート!」ロクが叫んだ。
モスキートは倒れていた場所からおもむろに立ち上がり、狙撃兵が居ると思われる建物に向かって銃を構えた。
「うおっー!」
ロクも瓦礫から身を乗り出し建物に向かって拳銃を構えた。すると一発の銃声が聞こえ、モスキートの胸部を貫通する。
「モスキート!」叫ぶダブル。
モスキートは微笑みながらその場へ倒れていく。
「あそこか!?」ロクは廃墟の中に人影を確認する。
狙撃兵もロクの姿に気づき、ライフルのスコープでロクを捕らえた。スコープで除いた狙撃兵が見たものは、不敵に笑うロクの姿だった。その光景に一瞬、引き金を引く動作が遅くなり、先にロクの拳銃音が鳴り響いた。ロクの撃った銃弾は、狙撃兵の狙うライフル銃の筒先を貫通し、狙撃兵の構えるライフルは狙撃兵の顔の近くで暴発した。
「うっ・・・うっ・・・うわっ・・・」
首から血が流れ、顔は傷だらけとなり慌てふためく狙撃兵。狙撃兵はライフルを投げ捨て、首元を押さえその場から逃げ出そうとしていた。
「やったのか?」銃声を聞いたダブルが廃墟を伺った。
『奴の銃を撃ち落とした。残?いるか?建物を押さえろ!』と無線のロク。
『了解した!』と残。
ダブルはロクの無線を聞くと、すぐモスキートのそばへ駆け寄った。
「モスキート!しっかりしろ!?」
「ロクが・・・やったのか?」
「しゃべるな!衛生兵!誰か衛生兵を!?」
「いいんだ・・・ロクはまた・・・銃だけを?」
「ああ、馬鹿な奴だろ?」
「馬鹿だな・・・あんないい腕なのに・・・戦場では最も敵にしたくない奴だな・・・」
「もういい!しゃべるな!」
「お前らと・・・戦えたのは・・・俺の誇りだ・・・」
薄れていくモスキートの意識。ダブルも必死に傷口を押さえ励ましていた。
「死ぬな・・・モスキート!死ぬな!」
「先に・・・みんなのとこで・・・待ってるわ・・・」
モスキートは静かに息を引き取った。
「モスキート!」
残が狙撃兵がいた建物に、恐る恐る近寄る。すると中から首元を押さえた一人の兵隊が慌てて出てきた。
「動くな!」
兵も、残に気づき慌てて腰の拳銃を抜き、残に銃口を向けた。残は容赦なく、この兵を撃ち倒した。
「ふうー。こちら残。狙撃兵を確保。廃墟内は一人と思われる。」
『わかった。今そっちに行く。』とロク。
残は動かなくなった、狙撃兵に近寄ると被っていたロングハットを足で払い退ける。するとそこにいたのは既に虫の息の、自分らよりも若い10歳くらいの少年だった。
「まだ・・・ガキじゃないか?」
残は少年の首にたくさんのネックレスを見つける。それはポリス兵や、プロジェクトソルジャーの名前が刻まれた20本近いドッグ・タグだった。
「こんなにたくさんの兵を、こいつ一人で・・・」
そこにロクがやって来た。
「よお!これを見ろよ!ロク!」
「なんだ・・・子供じゃないか・・・くっ・・・タグがこんなにたくさん・・・」
狙撃兵の少年は、ロクの顔を見るなり怯え始めた。そこにバイクに乗ったキキとホーリーも合流して来る。
「子供・・・?」子供の兵を見て驚くキキ。
「ロク?これを見ろよ!」
残は、虫の息になった少年の首から、1本のドッグ・タグを引き千切るとロクに放り投げた。ロクはそのドッグ・タグの名前を見て驚愕した。
「タ、タンクの・・・タグか?」