その13 母と子
桑田がいる倉庫。桑田が一人左腕を押さえ苦しんでいた。
「関根さんが言ってた時間だ。ロクさんには動くなって言われたけど・・・」
桑田はよろよろと立ち上がり、倉庫の入口の様子を伺った。
「銃声は聞こえない。ポリスの兵ばかり。大丈夫・・・」
桑田は倉庫を出ると、廊下を一人で医務室に向かった。
車庫前の廊下。バズーと石森が構え向かいあっている。互いにやや顔が腫れ、息が荒くなっている。
「名前・・・何って言うんだっけ?」と石森。
「ああ?バズーだ!」とバズー。
「ふざけた名前だな・・・だが始末したら、俺の背中にお前の名前を入れてやるよ・・・ありがたいと思え。」
「ああ、なんなら俺が入れてやるよ・・・てめぇの尻になっ!」
「ふふふ・・・小僧が・・・」
「ふふふ・・・」
今度は、互いに蹴り合いを始める。互いのキックを紙一重でかわしたりガードする両者。
ポリス地下3階SC整備室。タケシとヒデらはポリスの屋根付きのSCを見つけると、SCにキーが付いてるのを確認する。
「こいつ動きます!」とヒデ。
すると、隣の整備室からタケシの兵が一人入って来る。
「隣にも、ジープタイプが・・・実弾もそのままです。」
「ヒデ、2台に分かれよう!ヒデはこいつに、俺は奥ので上がる!」
「こんなポンコツでですか!?地上のストラトスは?」
「残念ながらもうない・・・恐らくこっちの方が楽に逃げれるよ。」
「はあ・・・?」
タケシは早坂を連れ、奥の整備室に入って行く。
「こっちも行くぞ!」
ヒデは他の兵2人をSCに乗せてSC用シャフトに入った。
P6指令室。松井が何かに気づいた。
「司令!14車両用エレベーターが作動!敵の逃走してる付近です。手動で地下から動いているようです。」
「現在、使用は全て停止してるよな?」弘士が叫ぶ。
「下からの手動と思われます!」
「敵逃亡の可能性あり!松井!14エレベーター地上部分に地上部隊を至急集めろ!」弘士が急ぎ指示を飛ばす。
「はい!」
倉庫内でタケシと兵一人がポリスのジープ型SCのエンジンを掛けようとしている。
「俺らみたいに、エンジン掛けたら爆発しないよな?」
タケシは恐る恐る車両の下部を見回った。
「よし!エレベーターを呼び出せ!」
すると、突然倉庫のドアが開き2人はSCの影に身を潜め銃を構える。しかし、入ってきたのは関根とそれに連れられた直美だった。
「直美・・・」
タケシは2人を見ると、SCの影から出てきた。直美もタケシに気づく。
「タケシ・・・」驚く直美。
「やはりここで保護されていたか?しかし・・・」
タケシは関根の方を睨む。
「なぜ、こいつをお前が・・・?」
「顔見知り?そうよね狭い基地ですものね?」皮肉そうな関根。
「説明しろ!瑠南花!」
「約束よね?私たち親子を解放するって・・・?」
「えっ!?」直美は関根の顔を見上げる。
「親子だと・・・?馬鹿な・・・」とタケシ。
バズーと石森。2人は細い廊下で寝そべり絡み合っていた。上になった方が殴り、更に逆転しては、上が下を殴る。
「しぶといんだよガキが!」関根がバズーの顔に拳を当てる。
「ああっ?もう根を上げたかじじぃ!」殴られても口が減らないバズー。
「誰がじじぃだぁ!!」
石森がバズーの上になり、上からパンチを繰り出す。バズーは何発ものパンチを食らいガードが緩んできた。それと同時に石森の上からのパンチが徐々にバズーに当たり始める。石森も必死になり、繰り出すパンチが大振りになる。バズーはまともにパンチを食らい、意識がなくなりそうになっていた。石森も最後だとばかり、拳を大きく振り上げた瞬間だった。バズーは態勢を返し、石森の肩から首にかけて自分の両足を絡めた。
「くっ・・・」
バズーは、徐々に足で石森を締め始め、最後に石森の頭の上下を掴むと左右に力任せに引く。“ゴキっ”という音がすると石森はそのまま動かなくなった。バズーもそのまま果ててぐったりした。
「はぁ、はぁ。こ、こいつ・・・つ、強えぇ・・・」
バズーは起き上がると、バズーカと拳銃を拾い再びタケシを追い始めた。
ポリス地下3階車両倉庫。
「直美は、大場の娘じゃないのか?姉貴に人質に取られた娘って・・・まさか直美が・・!?」と困惑のタケシ。
「そうよ・・・この子よ。」と関根。
「えっ!?」
直美は関根の顔を再び見上げた。
「あなたが・・・私の・・・?」戸惑う直美。
関根は改めて直美の顔を見つめる。
「びっくりしたわ、大場がこの街に来て、あなたを連れて私の医務室に検査に来たんだもの・・・」
「えっ?」
「慌てて部下に対応させたの。大場と顔を合わせないようにね・・・その時、私はすぐわかったわ・・・あなたが私の娘だと・・・」
「父は、母は死んだって・・・」
「そう言うでしょうね・・・」
「・・・」タケシは二人の会話を黙って聞いていた。
「ちゃんと説明して!」直美は関根に詰め寄る。
「あなたが3歳の時、ジプシャンに襲われ、あなたを奪われたの。あなたを殺さない条件に、私はここにスパイとして潜入させられたの。」
「どうして?」
「医師免許を持っていた・・・ジプシャンはそこに目を付け、ポリスに送り込んだの。大場は知っていた・・・ただあの人が、あなたを育てていたとは思わなかったわ・・・」
「まさか・・・父を殺したのは・・・?」
「そうよ・・・私よ・・・」
「えっ?」
「・・・」直美もタケシも驚く。
タケシ軍襲撃の日。ポリス住居街。大場が暗殺された時。
「久しぶりね・・・大場・・・」と銃を構える関根。
「瑠南花か・・・?」
大場は関根が銃を持ったのを見て後退りする。
「上の女の子は・・・直美ね?」
「スパイ活動をしているとは聞いていたが・・・まさかP6だったとはな・・・?」
「ジプシャンの策士としては、情報不足ね。」
「俺を殺しに来たか?」
「ジプシャンは脱走兵は銃殺。その家族も・・・」
「なら、直美も殺すか?」
「死ぬのはあなた一人よ、ジプシャンの裏切り者!なぜジプシャンを逃げたの?直美まで危険にさらすなんて!」
「仕方なかったんだ・・・このままでは直美が・・・」
関根は銃を構え直す。
「言い訳はいいわ・・・あなたを殺せば、私と直美は解放される。総帥はそう約束した。」
「直美とここで暮らせばいい・・・」
「なに!?」
「もう、人質ではない。直美に全てを話し、2人でここでやり直すんだ!」
「馬鹿を言うな。他のスパイに私が狙われる・・・P6だけで何名のスパイが居ると思っているのよ!」
「直美に全てを話し、ポリスに事情を話せ。ポリスは守ってくれる・・・」
「ポリスは無力よ・・・ここでは子供一人守れない・・・例え地下の隔離房でもね・・・」
「いつまで、ジプシャンにいい様に使われるつもりだ!目を覚ますんだ!瑠南花!」
「黙れ!裏切り者が!」
関根は大場に発砲した。大場は階段を転げ落ちていく・・・
「お前が大場を・・・」
その時、タケシが関根に銃口を向けた。
「なに!?」
関根も瞬時にタケシに銃口を向ける。しかし、早坂に察知され逆に発砲されてしまう。関根は、拳銃を握っていた右手の甲を撃たれてしまった。
「くっ!!」
右手を押さえ、跪く関根。そこにタケシが関根の側にやって来る。
「逃がすと言う・・・約束だぞ・・・」と関根。
「大場は我が師でな・・・」
「何だと!」
「しかも、脱走兵!直美はその脱走兵の家族だ!話は別だな・・・」
タケシは直美に銃口を向けた。
「あぁ・・・」尻込みする直美。
「ゲスがっ・・・」と関根。