その4 決意の出撃
P6指令室。
「ん?西ゲートから?・・・ん?ジャガー出てます!」
「あの馬鹿たれが・・・」
桑田はひとり小声で呟いた。
「どうしてロクが出撃してんだ?く・わ・た?」司令が桑田に静かに問う。
「あ、あれ~ど、どうしてでしょうね?あははは・・・今呼び出しますよ!」動揺した桑田が急いで無線を飛ばそうとした。
「何してんだ!?奴は重症だろ?早く呼び戻せ!」と曽根。
「こちら指令室桑田。黒豹聞こえるか?」
『はい、こちら黒豹山口!指令室どうぞ!』と山口。
「あ、あんたじゃないのよ!すぐ無線切って!・・・黒豹ヘッド聞こえて!」
『こちら黒豹ヘッド・・・どうぞ!』と今度はロク。
「何してんですか?司令怒ってるじゃないですか!?」
桑田は小声でロクに話しかける。
『ああ、この子のテスト走行、テスト走行・・・』小声になるロクの無線。
「テストって・・・戦闘配備中ですよ・・・司令怒ってるし・・・」自然と桑田の無線も小声となった。
『山口を見つけたらすぐ戻る。武器も大して積んでないしな・・・』
「なんて司令に言い訳するんですか?」
『だからテスト走行、テスト走行・・・ちょっとだけだよ・・・じゃあ切るぞ!』
ロクは一方的に無線を切った。
「あっ切った・・・あ・い・つぅー!」
「どうした桑田?ロクは?」と弘士。
「な、なんかテスト走行に、行くって言ってますね・・・はい・・・」
「ロクは撃たれたと聞く。もう車に乗れるのか?」と心配する久弥。
「先生の話では、今は麻酔が効いてるんですが、麻酔が切れると徐々に激痛に襲われるようで・・・」
「奴の事だ、出来の悪い山口でも救いに行ったんだろ?」
「恐らく・・・ほんと自分の仲間の事になると見えなくなるんだから・・・」呆れ声の桑田。
ヒデの乗ったストラトス。タケシと石森のストラトすもすぐ側を走っている。なぜかこの3台だけは、仲間の後方3キロの位置にいた。
「こいつ・・・思った以上のパワーだ・・・嶋はこんなモンスターマシーンを操っていたのか・・・」
ヒデは新しいストラトスを、ひとつひとつ確認しながら運転をしている。するとヒデの車内に無線が入る。
『どうだヒデ?』とタケシの声。
「はい、思った以上のパワーです!正直驚きました!いけそうです!」
『戦前のマシーンだが、それなりの改造をしている。早さとパワーを兼ね備えるSCはこいつ以外にない!』声に迷いがないタケシ。
「確かに・・・こいつ凄いです。乗って初めて実感しました・・・」
『派手に行くぞヒデ、新生ストラトスの初陣だ!』
「ははっ!」
ロクのジャガーカストリー。ロクは夜明け前の荒野を走っている。すると前方に、上空部分のみ朝日の光に映し出された巨大な砂煙を発見する。
「こいつか?かなり上空まで上がっている・・・敵のサンドシップにしては大き過ぎるだろ・・・なんだ?」
ロクは突然顔をしかめ腹部を押さえた。
「くそ・・・こんな時に・・・」額に汗かくロク。
それは今からたった30分前の事だった。関根がいるジプシー専用の医務室にいた。
「馬鹿を言わないでロク!」と関根。
「馬鹿を承知で言ってます!!」
2人はそう言うと睨みあった。
「あなたは、重態なの!鍛えてなければ普通は歩く事も出来ないのよ!」
「わかってます!」
「わかってない!今はまだ麻酔が効いてる。でももう麻酔も切れ、激痛が走るわ!」
「だから、その痛み止めの注射を・・・」
「わかってない!命に関わるのよ!今は安静に・・・」
「ここがなくなったら3万人のジプシーたちは路頭に迷う・・・命すら危ない・・・それを見過ごせません!」
「あんたね・・・・・・もう!言ったら聞かないもんね・・・昔から・・・」
関根はロクの真顔を見て諦めた。
「すいません・・・」
「傷口が開いたらすぐ戻るのよ。それと・・・」
関根は後ろにあった戸棚から注射器を3本取り出すと、ロクの前に置いた。
「麻酔が切れたら、傷口に直接打ちなさい。ほんと、あんたみたいな無謀な男初めてよ!」
「恩にきります!」
「効果があるまで10分掛かるのよ。量も間違えないで!それと司令には私が渡したって言わないでよ!」
「はい、ありがとうございます・・・では・・・」
ロクは逃げるように医務室を出て行く。
ロクは注射器を取り出し、注射器の1本を口に咥えた。そして制服を上に捲くり上げ、包帯の上から直接患部に注射器を突き刺した。
P6指令室。まだ待機中か松井が隣の席の桑田に小声で話しかける。
「よく、あの曽根のオヤジが私たちを戻したわね?」
「そうね・・・」ボンヤリモニターを見つめる桑田。
「あら?またロクさんの事考えていたでしょ?」
「うん・・・そ、そ、そんな事ないわよ!あんな勝手な人!」松井の言葉に急に怒り出す桑田。
「でもロクさん大丈夫なのかな?」
「あの人なら心配ないわよ・・・ただで死ぬ人じゃないわ。」
「たいした信頼よね、あなたたち・・・」半分呆れ顔の松井。
「あなただってどうなの?」
「どうって?・・・私は一方的な片思いだもの・・・」急に赤い顔をして照れる松井。
「ちゃんとキーンさんに気持ち伝えた?」
「私、なつみみたいに積極的に出来ないわよ。で、手紙渡したの?」
「まだ読んでないって・・・」
「意外と無神経ね、あの人・・・」
「でもね、あの人は・・・あの人はね。私に生きるって悲しいことばかりじゃないって事を初めて教えてくれた人なの・・・」
その時、柳沢が叫んだ。
「レーダー圏内に敵サンドシップ捕らえました!」
「方位は?」と弘士。
「北北西約10キロ、SCは約30台。サンドシップと同行してます。」
「我妻?第1次戦闘配置。街の避難は終わってるな?」
「はい!」
「SCの数が少ない・・・」
「別働隊がいるな。柳沢よく探せよ!」と久弥。
「はい!」
「風神隊は西方面に待機!」と桑田。
「了解!・・・風神隊、発進して下さい。」と松井。
『風神出る!』
「気をつけて下さい・・・」と松井。
『おお!』
「山猫出ます!」
「アシカム出ます!」指令室が騒がしくなる。
北ゲートから次々と出て行くSC部隊。各隊は各四方に分かれて走って行く。
「各車いいか?戦いは艦隊戦が中心となる、我々は敵SCの壊滅だ。いいな!」 とダブル。
その頃、ジプシャン軍の最新鋭艦にロクのジャガーカストリーが近づく。
『敵SC接近!雷獣と思われます。』
「タケシ様は?」と鈴木艦長。
「後方3キロに位置!」
「報告だ!?」
「はい!」
「SC隊は艦の後方へ下げさせろ!」
「しかし・・・」
「タケシ様以外のSCが敵う相手ではない。いくら雷獣とはいえ、この船は襲っては来ない。」
「はい!SC隊後退してください。」
ロクのジャガーカストリー。
「SCが下がった?妙だ?」
P6指令室。
「黒豹!敵サンドシップと接触!」と柳沢。
「誰がテスト走行だって!?く・わ・た・・・ロクを呼び戻せ!」
「は、はい!もう!何がテストよ!あいつったら!」
ロクは敵サンドシップから砲撃されていた。
「雷獣!足が速く・・・機銃が・・・」
「機銃は何をしている!?敵は1台だぞ!」
『そいつは俺の獲物だ!』とタケシの無線が割り込む。
「タケシ様!?」
後方から来たのはストラトスの3台だった。
ロクのジャガーカストリー。
「ストラトスか!?タケシ!?しかも3台?1台は潰したはずなのに・・・」苦痛の顔のロク。
タケシのストラトス。
「少し遊んでもらうぞ・・・雷獣よ!」