その18 ベイビーフェイス
P6指令室。既に死龍や山中、富久のP5勢、そして桑田の姿もある。それに対するように弘士、曽根がいた。
「テスト走行だったが、ロクがP5方向へ行こうと・・・?」と曽根。
「すいません・・・」桑田は司令らに一礼した。
「司令、2人を責めないで欲しい。ロクが来なければ我々は全滅していた・・・」
「しかし、規則を破ってだな・・・」と曽根。
「あの包囲網を死傷者ゼロ・・・奇跡に近い事です!しかも相手はあのタケシですよ!」山中もロクたちを庇った。
「死龍、まあ責めたくても当の本人があれじゃな・・・」と弘士。
「私の判断が招いた事だ。ロクに非はない・・・」再び頭を下げる死龍。
「それは結果論であって・・・」とやはり曽根。
「事情は分かった。桑田は下がっていいぞ!」
「はい・・・それでロクさんは?」
「地下6の集中治療室にいる。」
「危ないのか?」と死龍。
「出血が多く、意識も戻らない・・・」
「そんな・・・ロクさん!」桑田は自分の顔を手で覆い泣き始めた。
「何かの歯車が狂い始めているな・・・」弘士が静かに呟いた。
地下6階ポリス専用医療室。ロクが酸素マスクを口に付けたまま、ベットで寝ている。その様子をバズー、キーン、ダブルの3人が窓越しに見つめていた。
「桑田も乗っていたってどういう事だ?」バズーは窓を叩いた。
「相変わらずあいつは詰めが甘いよな!」とダブル。
「お前が言うなよ。戦場に彼女同伴してたお前が!」とキーン。
ダブルはガラス越しにロクを見ていたが、ロクの部屋の隣に聖がいるのを確認すると、軽く笑顔で挨拶した。すると聖もダブルたちの姿に気づきベットから大きく手を振った。
「おいおい、不謹慎だな・・・」とキーン。
「ロクは死なないよ・・・」
「だから、どういう事だ!?なんで桑田が?」バズーは再び窓ガラスを叩いた。
「ああ、上はテスト走行って言ってるが・・・」とキーン。
「死龍のお出迎えにしては出来すぎだな?」とダブル。
「死龍は予定がなかったのか?」とキーン。
「そうらしいな・・・P5もヤバいという事だ・・・」
北ゲート近くの虹の三角を入れている大型格納庫内。2番機が格納庫内で整備している。それを見つめる高橋技師長。
「技師長大変です!」
松井が格納庫の外から走ってくる。
「どうした?」
「1番機、3番機とも大型格納庫用の扉が開きません。人は降ろせるんですが、物資が不可能です!」
「手動に切り替えても無理か?」と高橋。
「はい!」
「だいぶ被弾した様子だったからな・・・仕方ない。前の扉部分を切り取っても開けるぞ。1番機には新型太陽光システムも積んでるのだからな!」
「了解!」
「今夜も徹夜になりそうだな・・・」眠い目で虹の三角を見つめる高橋。
地下3階のジプシー専用医療室。関根のところに桑田、死龍の姿があった。
「それでロクさんは?」関根に詰め寄る桑田。
「ここでの手は尽くした。銃弾は腸を貫いていて・・・」と関根。
「・・・」
「意識が戻らないって!?」
「出血が多くてな・・・」
「大丈夫だ。桑田・・・ロクがあんなもんで死ぬような奴じゃない・・・」桑田を慰める死龍。
「で・・・死龍?お前はどこを?」
関根は血だらけの死龍の制服を見て言った。
「わ、私は平気だ・・・これは口の中を切っただけだ!」なぜか慌てる死龍。
「それにしても・・・久しぶりよね?おかえりって言った方がいい?死龍?」
「その節は・・・」
「マスク姿も様になってきたようね?・・・さて、あんただけなら地下6に入れる。ロクのところにでも行ってやりなさい!」
「私もジプシー出なんですが・・・地下6に入れるのですか?」
「裏技があるの・・・桑田、案内しなさい!」
「は、はい・・・」何かを準備し始める桑田。
桑田は死龍を案内するべく、医療室を出て行く。
「どういう事だ?桑田?」
「ええ・・・ミュウ検査と言えば、特別に入れるんです。地下6階に・・・」
「わ、私をミュウ扱いにするのか?」
「上で陽性が出て、下で陰性なんてよくある事ですよ。」
「そ、そういう事か・・・?」
「ロクさんの様子を見てきて下さい。」
「分かった・・・それで桑田!?」
「は、はい。」
「ロクに恋しては駄目だ!」
「ど、どうしてですか!?」
突然の死龍の言葉に戸惑う桑田。そして珍しく剥きなった。
「規則もある。それだけではないが・・・」
「はい?」
「お前が知ってるロクは、ロクじゃない・・・お前は本当のロクの姿を知らない・・・」
「ど、どういう事ですか?」
「ロクを苦しめる事になる・・・」
「見守るだけもですか?」
「そうだ!」
「・・・」桑田は唇を噛み締め、悔しそうに下を向く。
P6指令室。曽根と司令
「高橋の連絡ですと、虹はかなり大破しており、物資を降ろすのに時間が掛かるとの事!」と曽根。
「ロクの意識は?」
「まだ連絡はありません。」
「先日の、ミュウの子を流産した件は?」
「ダブルの話では、一緒にキャンプをした男だと。」
「ロクの話だとその中にヒデがいたらしい・・・ロクはそのミュウが彼ではないかと言っている。」
「サンドウルフのヒデか?ヒデがここを・・・?」と曽根。
「まずは、ミュウ確保だ!街の外に放置してはならん!虹は高橋に任せよう!」
「それと、前司令が今夜、一度こちらに来られると連絡がありました。」と我妻。
「死龍にも逢いたいのだろ?まあそれはいい。」
「明日にはP5のジプシーはP7に移すのですか?」
「その予定だ。遺伝子検査等はP5で済ましているらしい。問題はないが・・・再度P6でも検査する。出来ればレヴィアに新型の武器もP7に持っていって貰いたいんだが・・・」
P6地下6階ポリス専用医療室。3人がロクを見守る中、死龍が入って来る。敬礼する3人。死龍も敬礼を返す。
「みんな元気そうだな?」
「まあ・・・一人を除いては・・・」キーンが窓ガラスのロクを見た。
「死龍こそ怪我してんじゃないか?」
キーンは死龍の血だらけの制服を見て驚いた。
「ああ、これか?まあ気にするな!口を切っただけだ!」
「どうやってここへ?今、許可出ないはずです。」とバズー。
「また大きくなったなバズー!関根さんから裏技を教えてもらったよ。」
「ミュウ検査か・・・?」
「そういう事だ。ロクはどうなんだ?」
「まだ意識が戻らず・・・」とキーン。
「あいつ、自分で傷口を縫ったらしいです。しかもその辺の錆びた針金で・・・」
「らしいな・・・?タケシと交戦したまでは確認してるんだが、その後何気なく合流して、先にP6に行ってしまったんで何とも言えない・・・」
「なぜ死龍さん自らP6へ?」
「どいつもこいつも・・・同じ質問ばかりだ。そんなに里帰りしちゃいけないのか?」
「いや・・・自ら来るなんて初めてでしたから・・・」
「確かに・・・6年も離れると恋しくもなるよ・・・」
「危ないのか?P5は?」とバズーが問う。
「そうね。危ないわ。それでP5は玉砕覚悟で討って出る。最後の挨拶ってとこだ。」
「そうか・・・」
「キキの話聞いたわ。いい戦士だったのに残念ね。」
「もう3年も前の話だ。忘れてたぜ。」
「まあ、あんたは心配してないわよ。」
「あれでダブルは、ある意味“覚醒”したからな~」とバズーはダブルを見てニヤついていた。
「一理ある!」とキーン。
「おいおい。お前らな・・・」迷惑そうなダブル。
「うふふ・・・ここはいつも楽しそうね・・・」笑う死龍。
「ロクからよく聞く。P5では鬼の四天王だと?」
「あら、そんなに厳しくないわよ。」
「どうだか・・・」とダブル。
「取り合えず、その検査とやらをして来るわ。関根さんの立場もあるらしいから・・・」と死龍。
「そうだな・・・」
P6南ゲート近くの塀の上。いつもロクが居る場所に桑田がいた。陽は沈んだ直後らしく空は紫色に変わろうとしていた。桑田はその夕焼けを見て一人涙を流している。
「ロクさん・・・死なないで下さい・・・」
桑田が下を向きながら泣いていると、後方から男の声が聞こえる。
「どうした?なつみ?」
「ロクさん!?」
桑田が振り返ると、そこには優しく微笑むロクの姿があった。