その13 野生のマーガレット
「しゅりゅう?花の中で一番大地に根強い凛とした花って何って花だよ?」
「何よそれ?いつから花好きになったのよ?」
ロクの唐突な質問に驚く手榴。そこに居たのは10才のロクと、12才の手榴だった。2人はSCの格納庫にいた。
「技師長に作ってもらった銃なんだけど、握りの部分になんか絵を入れたくてさ・・・」
「分からないわ・・・今調べてみるね!」
「頼む!」
手榴は、急いでパソコンをいじり始めた。ロクは初めて自分だけの拳銃を作ってもらいご機嫌だった。子供用に反動を軽くし、重量も極力軽くしたオリジナルの拳銃・・・それが今の“ワイルドマーガレット”だった。
「因みにしゅりゅうって何の柄だよ?拳銃?」パソコンをいじる手榴の拳銃を上から覗き込むロク。
「私?私は赤サソリ・・・」拳銃をロクに手渡す手榴。
「虫嫌いじゃなかった・・・?」グロテスクな絵に渋い顔のロク。
「赤サソリ・・・喰うって意味よ・・・」ニヤリと笑う手榴。
「げっ!・・・いい趣味~」
「ふふっ・・・色々検索したけどね・・・マーガレットって花が大地に根強いらしいわよ・・・画像は・・・ここのデータベースに残っているかしら?」画像を検索する死龍。
「マーガレットか~?いい名前だ・・・じゃあ野生のマーガレットから・・・“ワイルドマーガレット”・・・うん、そうしよう!それってどんな花だよ?」
「花の柄?ふふふ、まるで女の子ね?」
2人はSCの格納庫のパソコンをいつまでも見つめていた。
「あいつ、昔から花が好きで拳銃に花の絵を入れてたのロクくらいだったよ。もう死滅して見れないからって・・・」
「それでマーガレットを・・・初耳です!花か・・・?」関心する桑田。
「いつの間にか、持たなくなったからもう使わないと思っていたけどね・・・そうか桑田が持っていたか?」
「どうして!?・・・それでどうしてあいつは死龍さんを撃ったんですか!?」
桑田はコクピットで急に大声を上げた。桑田の声に何人かの兵が死龍と桑田を振り返った。
「それは・・・今から5年前・・・」
ジプシャン軍古川基地。ヒデと丸田が装甲車を整備していた。
「ヒデ、嶋のストラトスになんの細工したんだよ?」
「ふふふ、次期にわかるよ・・・」
「そう言えば、さっきここの兵が噂していたんだが・・・朝方雷獣が北に向かったらしいぞ。400キロ出していたらしいからな。奴しかいないだろ?」
「今の俺たちには、もう関係ないだろ?」黙々と作業を続けるヒデ。
「お前が撃ったんだろ?その雷獣を?」
「ああ、14の時だったな・・・俺が逃げた時、追いかけて来たのがアイツと同期の手榴という女だった。」
「その辺までは聞いた・・・」
「追ってきた手榴を人質に取り、奴と対峙した・・・」
ある荒野、ヒデが手榴を羽交い絞めにして拳銃を手榴のコメカミに付きつけていた。
「撃ちなさい!ロク!」
ヒデの目線の先には、拳銃を構えたロクが立っていた。
「銃を置け!6つ全部だ!」
「私は構わない!撃ちなさい!ロク!」
ロクはヒデの要求を聞くこともなく、更にヒデに狙いを付ける。
「ヒデ!ロクの腕は知ってるでしょ?」
「ふふふ、奴は撃てないさ!」ロクを見つめるヒデ。
「無駄よ!投降しなさい!」
「嫌だな!」
ヒデは手榴の影に隠れ、人質を小刻みに揺らしロクの狙いを邪魔していた。
「銃を置け!ロク!俺は本気だ!」
「銃を捨てるな!私に構わず任務を遂行しなさいロク!」羽交い締めされてもロクを説得する手榴。
ロクは迷っていた。銃を6つ捨てれば勝ち目はない。こう小刻みに動かれると手榴に当たってしまう可能性もある。選択は2つに1つだった。ロクは手榴に目で合図を送る。そのロクの目線に手榴も気づいた。長年一緒に血まみれの戦場を渡り合った二人しか分からない無言の呼吸だった。手榴はヒデの一瞬の隙を突いて、銃を突きつけられた自分の顔を強引に振り切ろうとした。ロクはその手榴の行動に合わせヒデに拳銃を発射した。しかしヒデもこの行動を読んでいた。その瞬間に手榴の顔を力任せに引き戻し、手榴の顔を自分の盾にしたのだ。ロクの銃弾は手榴の左目辺りを貫通した。ヒデは撃たれた手榴を再び盾にしロクに隙を見せない。
「手榴!」
慌てたのはロクだった。手榴の様子を気になったのか、ヒデを狙った拳銃に隙が生まれる。
「仲間殺しが!」
慌てたのはヒデも同じだった。まさかロクが脱走くらいで銃を撃ってくるとは思わなかったからだ。ヒデは顔から血を流す手榴を羽交い絞めにしながら、ロクに銃口を向け発射した。銃弾はロクの胸辺りを貫通しロクは前のめりに荒野に倒れ込みピクリともしなかった。
「気づいたら手榴も意識はなかった。俺は恐くなってその2人を置き去りにして逃げた・・・」親指を噛むヒデ。
「それが今の雷獣か・・・しかし2人は生きていた・・・」
「ああ、そうだ・・・」
「今となっては後悔するな。相手が雷獣なら・・・トドメを差すんだったな?」
「俺も甘いよな・・・?まあそれから流れるままに生きてきた。こうやってな・・・」
虹の三角1番機コクピット。3機の虹の三角は旧栗駒近辺を南に走っていた。P6までおよそ80キロ。
「ロクは鎖骨を撃たれていただけだったわ・・・」と死龍。
「関根さんが言っていた12歳の怪我って・・・この時の?」と桑田。
「ロクは負傷をしながら私を連れてP6に戻った。私は左目と左耳の聴覚を失っただけで済んだが・・・問題はロクの方だ・・・」
「拳銃の事って!?まさかその日からロクさんは・・・?」
「その通り。奴は人を狙えなくなったのだ・・・」暗い顔の死龍。
「そ、そんな・・・」
悲しみに上を向くことが出来ない桑田。桑田は悲しくなって涙をこぼし始めた。
ジプシャン軍古川基地指令室。
「なぜ報告しなかった!?」
「ただ雷獣かどうかは・・・?」
基地の幹部がタケシに詰め寄られていた。
「定期便の護衛かと思われます!そろそろ敵の三角が通る頃ですので・・・」
「ならばその定期便が、間もなくあのポリス道の岩出山を通るというのか?」
「ポリス道では道も狭く、一番の難所かと・・・」
「嶋!暇潰しにうちの残存部隊でこいつをやるか?」
「もちろんです!雷獣なら兵も喜びます!」
「P5の定期便だ。姉貴にもいい言い訳が出来たじゃないか!」
「すぐに兵たちに伝います!」と嶋。
「誰を敵にしたのか・・・教えてやらないといけないな?雷獣!」不敵に笑うタケシ。
虹の三角1番機コクピット。
「死龍さん!敵です!南東約7キロ、SCが30台。真っ直ぐこちらに向かっています!」あるクルーが叫ぶ。
「伊豆沼基地か?全機戦闘配備!ロクは?」と死龍。
『聞こえてる!どうした?』ロクが無線で答える。
「敵のSCがこちらに向かっている。数30!伊豆沼から出たと思われる!」
『あんな基地にSCがあったとは・・・今まで相手にもしてもらわなかったのにな?』
「なんで、今回はどこもこうなのよ、ジプシャンは?」
『ああ、死龍・・・言い忘れてた、昨日の朝にP6で浜田と手樽の2基地を陥落させた~!』能天気なロク。
「あ、あんたねぇ・・・さ、先に言いなさい!今日のこれってそれが原因じゃない?もう!」怒りに火が付く死龍。
『そうか?すまんすまん!でもあんまり関係なくない?』
「すまんって・・・大有りよ!」
『20以上ある基地の、たかが前線基地2つで、ジプシャンは目くじら立てるかな?』
「あんたって人は・・・眠ってた子を起こしたみたいね・・・」と死龍。
『あらら・・・』
3機の虹の三角前にジプシャン軍の30台のSC部隊が砂塵をあげ立ち塞がってくる。