その10 死龍VS死神
ジプシャン軍バイク隊の攻撃を受けていたのは、1番機だけではなかった。死龍の乗る2番機、富久の乗る3番機も同じ攻撃を受けていた。
「敵は右からだけの攻撃です!」
「8、12、24タイヤ大破!」
「機銃!何してるの!上から狙い撃て!」死龍が叫ぶ。
「敵の数が多すぎます!機銃間に合わず・・・」
「くそっ!ここを頼む!」
死龍は意を決して席を立った。
「死龍さん、どちらへ?」
「上の機銃にまわる!」
死龍がコクピットの後部の通路へと移動しようとした瞬間だった。大きな爆音がし、コクピットは大きく揺れた。立っていたものは転倒し、座っていたものでさえ、椅子から擦り落ちた。死龍もコクピットの後ろで大きく転倒した。
「うっ・・・」
死龍は顔から床に叩きつけられていた。オペレーターの一人が死龍に近づく。
「だ、大丈夫ですか!?死龍さん!?誰か救護兵を!」
死龍は口から血を流していた。慌てて口に手を当てる死龍。
「私に構うな!口の中を切っただけだ!ここを頼むぞ・・・」
「は、はい!」
オペはすぐ持ち場に戻る。死龍は一人立ち上がると、再び咳き込んだ。手には大量の血が付いていた。血は軍服にも付着し、慌てて拭き取った。死龍は急に蒼い顔になり、呼吸も乱れた。
「こんな時に・・・」
口元の血を吹き去った死龍は、上部の機銃座席へと急ぎ歩き始めた。
死龍は機銃を扱う若い兵の所に着く。
「何をしてる!?変われ!」
死龍は自ら機銃のハンドルを握ると、右方向からのバイクを銃撃し始めた。
「まるで蟻だな・・・ふふふ、この位の数で、私には丁度いい感じか?」
死龍の機銃は的確にバイク隊を銃撃していく。
大広のバイク本隊。大広のもとにある部下が報告に来ていた。
「死龍がですか?本当ですか!?」と大広。
「はい。2番機の前部機銃に居るのを確認!仮面の女の目撃を確認しております!」
「間違いないのですね?あの女が出てくるとは・・・何を運んでいるのですか?2番機に攻撃を集中させなさい!」
「了解!」
「死龍がわざわざ・・・妙ですね?左右の隊の全てを2番に当てて下さい!」
2番機の死龍の機銃。バイク隊の攻撃は2番機に集中していた。
「なぜだ?2番機だけに?1番と3番の間に入れろ!」
死龍は機銃を撃ちながら無線を飛ばした。
「ジプシーだけは無事届けなければ・・・もうすぐ前線を突破する各機耐えろよ!」
『死龍さん!左より死神の本隊接近!大群です!』
「死神め!!自ら来たか・・・」
そこに現れたのが大広率いるバイク隊本隊の80台。
大広は自らバイクに乗り3機の虹の三角に近づく。
「死龍の首・・・頂きますよ。右に攻撃を集中して下さい!奴を横転させます。これでようやく寛子様に四天王の首、届けれますね?」
2番機の死龍の機銃。死龍はまだ遠い死神の隊へ機銃を撃ち込む。死龍の機銃で4、5台のバイクが転倒撃破される。
「死神がぁ・・・右からの攻撃だけを仕掛けてくる!2番機のダメージは?」
『タイヤ14本!まだまだ!最高速度で走れます!』
「上等だ!前線は突破したはずだ?」
『こちら山中!死神は我々が引き付けます。死龍さんの2番機は、先にここを脱出して下さい。』
「しかし・・・」
『人命には変えられません!』
「わ、わかった・・・3番機、我に続け!」
山中の1番機が大広のバイク隊の前に出てくる。
「我々を行かせないつもりですか?美しき友情ですね?しかしここは通させません・・・」
大広隊は1番機を無視して逃げる2番機、3番機を追いかけて行く。
「四天王が逃げの姿勢ですか?余程守りたいのですね?いいですか?2番だけに攻撃を集中して下さい!」
大広隊は総力を上げ、2番機に攻撃を集中した。
「右にダメージを追ってます。右に集中して下さい!」
2番機の格納庫にいたジプシーたちは、激しい爆音に肩を寄せ合い震えていた。
「死神が・・・」
死龍も必死で機銃で応戦する。
『敵は右に攻撃を集中しつつ・・・』
「機銃応戦が追いつけない・・・」
『48、52大破!これ以上は右に傾きます!』
『10キロ速度を落とします!』
「なんとしても走り続けろ!止まるなよ!一歩でもP6に近づくわよ!」
大広のバイク。
「だいぶ傾きましたね。もう少しです!所詮、体のでかい鯨ですね?群がる鮫には勝てんでしょう?」
虹の三角2番機コクピット。既に走行すら不能となってきた室内には敗戦ムードが漂っていた。
「死龍さん!このままP5に引き返しましょう?」
『敵のど真ん中に戻るのか?駄目だ!』無線の死龍。
「ではP5に援軍を!?」
『もう少しだ!走れ!!』
死龍の機銃。
「白兵戦の準備だ!最悪、3番機に乗り換える!」
『この戦場でですか?無茶ですよ!』
「死にたくなかったらやるんだ!」
『り、了解!』
無線を切る死龍。 ひとり無心で機銃で応戦する死龍。
「ここで死ねるか!?奴と約束したんだ・・・こんな所で死ねるか!」
死龍はP6からP5へ移動の日を思い出していた。死龍は当時まだ手榴。左目を中心に左側頭部に掛けてまだ包帯をしていた。街は東から日が昇って来たばかりだった。死龍の前には1機の虹の三角が停車している。まさにその停車中の虹の三角に死龍は乗り込もうとしていた。
「どうして四天王にこだわる!?」
声を掛けたのはまだ少年のロクだった。ロクは右腕を三角巾で吊っている状態で、死龍を見送りに来ていた。死龍はロクの方に振り返る。
「こだわるわよ。四天王よ!ガキの頃からの目標なの!訓練生になってから誰もが目指した地位でしょ?」
死龍はやや強い口調でロクに答えた。
「俺のせいか・・・?」
死龍は無言で首を横に振った。
「P5の四天王の枠が出来た。ただそれだけよ。ここに居たってあんたら3期生にいつか抜かれるし・・・ロクのせいじゃない。」
「仲間じゃないか?」
「その言葉が一番辛いわね・・・P5も仲間よ・・・だから行くのよ
・・・」
2人の言葉をさえぎるように虹の三角のエンジンが始動する。
「行くわよ。ロク!」死龍が虹に乗り込もうとしていた。
「生きろよ手榴。他の1期生の分まで!」
「生きるわ。当たり前でしょ。私を誰だと思ってるの?」
「手榴・・・」
死龍はロクに笑顔で答えた。死龍は虹の三角に乗車する。ロクは寂しい顔で死龍を見送っていた。
「奴に生きると言った!ここで・・・こんな所で死ねるか!」
その時、再び巨大な爆音が響いた。死龍の乗る虹の三角は大きく揺れ、傾きも更に大きくなる。
『更に速度落とします!このままだと本機は転倒します!』
『敵本隊接近!』
『正面を塞ぐようです!このままでは・・・』
「これまでか!?1と3番機に援護を!各員白兵戦だ!ジプシーにも銃を渡せ!」
2番機は速度を落とし、停止寸前だった。戦場で補給車の停止はほぼ死を意味する。死龍やクルーの皆は分かっていた。そこに1番機と3番機が2番機を挟むように停止してきた。
「こうなったら一人でも多くを道連れにしてやる。第五ポリスの意地見せろ!!」
3機は完全に荒野の真ん中で停止してしまった。
「これでも昔は手榴弾の手榴と呼ばれてたのよ・・・」
死龍は胸の手榴弾を外し見つめていた。