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四天王  作者: 原善
第三章 死龍覚醒
56/209

その6 667・・・ダブル

 ロクは、日没までまだ時間がある西側の山脈を塀の上から見ていた。すると真下の住居街を20名程の若い兵が、訓練で走らせているのを見かける。兵といっても、8歳から10歳くらいの幼い兵士だった。その兵の後ろに三輪バイクに乗った60歳くらいの男が、若い兵らに声を上げて走らせていた。


「教官!!高森教官!!」

 その男はロクの声に気づいたのか、塀の上を見上げる。

「おお、ロクか!?みんな止まれ!!ここで休憩だ!!」


 男は若い兵らに走るのを止めさせ、自らバイクを降りた。すると男は足を引き摺りながらロクのいた塀の下まで詰め寄った。

「ロク、少しいいか?」

「はぁ・・・?」



 高森はロクを横に若い兵の前にいた。兵らは体育座りをし皆ロクを見ている。4、5人の女子も混ざっている。

「みんな!こいつが誰か知ってるか?第6ポリス偵察隊隊長でポリスのエースドライバー、疾風のロクだ!」

「おおっー!!」


 20名の兵がどよめいた。ロクは高森の耳に小声で囁く。

「いつの頃の話ですか・・・?」

「そうか?まあいい・・・いいか!こいつはポリス最速のSC乗りだ!こいつの前を走る奴は誰もいないんだぞ!」

「おおっー!!」


 若い訓練兵たちがまたどよめく。兵たちの目は澄んで輝いていた。すると、最前列にいた男の子が口を開いた。

「教官!?この方は四天王なんですか?」


 皆の目線がロクに注目する。ロクは困った顔をしてこう答えた。

「違います!!」

「ええっー!!」

 落胆する兵たち。


「あの、高森教官・・・」

 ロクは困った顔をしながら高森に助けを求めた。

「おいおい、あんまり先輩をいじめんなよ。こいつはSCだけじゃないんだ・・・そうだなロク?」

「は、はい。ちなみに住居内での発砲は始末書ですので、駄目ですよ教官・・・」細い目で高森を見るロク。高森がロクにさせたい事を先に読んでしまった。

「よ、よくわかったな!いいか!このロクは第6ポリス一番の拳銃の腕前で・・・」

「・・・おおーっ!!」

「おいおい・・・」

 自慢気な高森に対して、ロクは終始困った顔をしていた。



 高森とロクは塀に背もたれ地べたに座っていた。20名程の兵たちは各々の訓練用のライフルや剣で近くで遊んでいる。高森はヨレヨレの制帽を脱ぎ右手で握り締めていた。髪の毛は薄く。横と後ろに少し残っている程度であった。持っていた水筒を口を付けると、ロクに手渡す。ロクも一口その水筒に口を付ける。

「そうか・・・キキらが死んでもう3年が経つか?」

「はい・・・」

「御用聞きのキキとは、あの頃よく言ったもんだな?」

「はあ・・・」

「支援専門屋にしてはよくやったな。ダブルの恋人だったと死んでから聞かされた・・・俺の育てた中ではいい生徒だったぞ!素直で良い子だった・・・俺はてっきりお前と付き合っていると勘ぐっていたがな?なんせいつもお前といる彼女の姿しか、記憶になかったからのう・・・」

「15ですよ・・・付き合うとかでは・・・しかも恋愛沙汰は御法度ですし・・・」

「まあ、そうだろうけどさ。ダブルは良い意味でちゃんと立ち直ったじゃないか?」

「まあ変な意味では、“覚醒”しましたけどね?」

「そう言えば昨日の夜、作戦があったろ?」

「訓練校の生徒にも召集があったのですか?」

「おやじさんの4番艦に20名程乗せたばい。」

「10歳以下の子供まで・・・」

「昔からの事だろ?死んでいくのは幼い兵ばかりだしな・・・」

「今でも死んで行った奴らの顔ばかり思い浮かびます。」

「3期では、もうお前ら4人しか残ってないんだな。ここでは一番古株になったわけだ・・・」

「はあ・・・」

「2期生は全滅・・・1期は手榴だけか・・・」

「ヒデがいますよ!」

「そんな奴もいたな。サンドウルフのヒデ・・・馬鹿な奴じゃったな・・・?」


 高森は薄い髪の毛の頭を掻き始めた。

「先日から、装甲車でここを襲っているのはヒデです。」

「まだ生きていたとは・・・お前がSCでトップを取ってなかったら、間違いなくここのエースになっていたはずだ。それで奴は?」

「また、ここに来るでしょう。」

「あの事件がなければ、いい先輩だったろうにな?」

「はぁ・・・」暗い顔をするロク。

「いいな?お前もダブルみたいに吹っ切れよ!」

「はぁ・・・そうしたいのですが・・・」自信無さげのロク。

「じゃあ俺は行くわ。早くこいつらを一人前にしないとな・・・おいみんな集合だ!訓練所まで走るぞ!それじゃなロク!」

生徒たちが高森のバイクの後を急いで走って追いかけて行く。ロクはその様子をいつまでも見ていた。



 ロクはあの頃を思い出していた。そう、まさに今ここに座っていた所だった。ある男の子が高森教官に殴られていた。男の子のゼッケンは「667」。まだ5歳か6歳くらいであろうか。他の兵らはその光景を黙って見ているだけだった。幼いロク、キーン、バズーの姿もある。


「足が痛くて走れないだと!お前、戦場で同じセリフぬかしてみろ!!」

 その子は高森教官に殴られると、地べたに倒れこんだ。

「いいか!お前は今日は、夕飯抜きだからな!!」


 皆が走って帰り始めたが、男の子だけはヘソを曲げたのか、その場に座り込み立ち上がろうとしない。すると一人の兵がその子の元へ引き返してくる。まだ名前の無いロクだ。ロクは涙を流すその男の子に声を掛けてきた。

「戻るぞ!俺の飯半分わけてやるよ!」笑顔で前歯のないロク。

「うん・・・」

 ロクは男の子に肩を貸すと、2人で歩き始めた。男の子は後のダブル。ロク6歳。ダブル6歳の頃だった。



 ロクの部屋をノックするダブル。

「いないのか?寝てもないのかよ?なんだあいつ・・・どこ行ってんだか!?」

 ロクの部屋は鍵が掛かっておらず、ダブルはロクの部屋に入ってみる。するとダブルは壁に並べられた50近い拳銃を発見する。そして5段目にある1丁の銃を見つけた。

「キキの拳銃か・・・」

 その拳銃は、握り手の部分に「KIKI」と書いてある。ダブル自身もすっかり忘れていた様子だった。ダブルはその銃に近づき、その銃を手にした。

「キキ・・・」

大事そうにキキの拳銃を抱き締めるダブル。



 ダブルは目立つ兵ではなかった。いつも一人で機械を弄っては分解し、バラバラに出来る所まで細かく壊してしまっていた。体が小さいせいか、喧嘩も苦手。皆がポリスの子らと喧嘩に行く際も、一人クラスに残っていた。そんなダブルにも理解者はいた。後のキキ、御用聞きのキキだった。キキとダブルは同い年、互いに少し遅れて訓練校に入ったせいか、2人でいる事が多かった。 ロクと同い年のせいか、ダブルが喧嘩を仕掛けるのはロクや同い年の子ばかりだった。しかし、ダブルの能力が開花したのは10歳を過ぎた頃だった。ロクと同じくSCの運転では、いつしか当時トップだったロクに並んでいたのだ。


 ダブルの開花はそれだけではない。当時、規則を破って最初に彼女を作ったのもダブルと言われている。その彼女がキキであった。


 しかし、キキは3年前に戦場で死んだ。一番の激戦と言われるP4とジプシャンの戦い。P6から応援に来ていたのは、3期生では既に5名しか残ってなかった、ロク、キーン、バズー、ダブル、キキの5人。後方支援中のキキを爆撃弾が襲ったのはその時だった。両足を失ったキキは、ロクの腕に抱きかかえられ、持っていた二丁の銃を、それぞれロクとダブルに託した。そして眠るようにロクの腕で息を引き取った。ダブルはキキの死をロクの口から聞いた。


「お前がいて!なんでキキを守れなかった!?」

 ダブルは込み上げる怒りの全てを、ロクにぶつけるしかなかった。


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