その5 221・・・バズー
街に3人の悪ガキが現れた。長い棒を持った者が2人、大きな体の奴が1人。3人はジプシーがいじめられてると聞くと、授業をそっち退けで訓練校を飛び出して行った。仲間は1人、また1人と増えていく。ロクにとっては毎日が楽しかった。しかし、7歳を過ぎたバズーや仲間たちは、戦場に借り出される事が多く、会えない日も出てきた。
そんな時だった。仲間の1人が戦場で戦死したのだ。その日、その者を墓地に埋めた。みんな泣いていた。墓地で泣いていたみんなを教官の高森は殴り付けた。
「プロジェクトソルジャーは人の前で泣くな!」
幼い隊員たちは、悲しみと痛さで更に大声で泣いた。ロクはこの日、初めて死というものを知った。
「それで奴ら、基地の中で吹っ飛ばしてやったんだ!」とバズー。
「聞いてくれロク!こいつ、基地内でバズーカ使いやがるし・・・大体崩れかかった建物の中で火器使うか?」とキーン。
「キーンだって、銃済むとこを剣で切りまくるし・・・ダブル呆れてたぜ!」
「そうか、たまに使わないとな。刀も錆びる。銃弾だって節約、節約。そうだろロク?」
「あ、ああ・・・そうだな・・・」
作り笑いのロクを察したのか、キーンがロクに声を掛ける。
「ロク?疲れてんだろ?早く休めよ?」
「報告があるなら、俺らがしておく!ありがたいと思え!」とバズー。
「ああ、頼む・・・」
ロクは1人整備室を後にする。重い足取りで長い廊下を自分の部屋へと歩き出して行く。
バズーはその頃、みんなのリーダーだった。バズーは3歳の頃に、両親を亡くしP6に連れて来られた。当時はマサと自分で呼んでたらしい。体が大きい事もあり、格闘技を中心に訓練を叩きこまれた。また、拳銃よりも、大型の武器を早くから持たされ訓練に励んでいた。バズーカを持つことが多かった彼を人は“バズー”と呼ばれるようになる。
「なんか南ブロックにジプシーの女の子をいじめる奴がいるらしい。」
「行こう!」
「長い棒を用意しろ!」
「今度こそブッ飛ばしてやる。」
そう言うと、10名程が集まり街になだれ込む。そんな毎日だった。ある日、ロクはバズーからある言葉を聞く。
「今日、戦場で敵の兵を殺した!」
仲間たちは、どう殺したのか、なんの武器を使ったのかとバズーに詰め寄った。バズーは自慢げに皆の前で話す。しかしロクだけはその話に耳を貸さなかった。
「そんな事をしたら、またこっちが殺されるじゃないか?」
幼いロクが叫んだ。
「敵を殺して、何が悪いんだ!」
「221は、048の仇を取ったんだぞ!」
「仲間を殺した奴だ!死んで当然だ!」
反発する仲間たち。ロクを殴り付ける者までいた。
「やめろ!」
止めたのはバズーだった。
「こいつの言う通りかもしれない・・・」
バズーの言葉で誰もがロクを殴るのをやめていた。ロクの言葉を重く受け止めたのはバズーだった。それからバズーはロクの言葉をよく聞くようになる。小さいながら戦士たちは少しづつ大きくなっていった。しかしその成長と共に、幼い兵たちも一人一人と戦場に散っていく。
ロクは自分の部屋に戻って来た。部屋に入ると脇、腰、足と拳銃を抜き取り、壁のフック部分に掛け始めた。薄暗い部屋をよく見ると、壁には50近い拳銃が綺麗に並べられて飾られていた。ロクはその開いている隙間に六丁の拳銃を一丁づつ置き始めた。
「また、生きて帰っちまった・・・」
ロクはひとり呟くと、上段の左から拳銃をひとつひとつ触り始めた。
「ブルース・・・残・・・拓・・・駒ちゃん・・・レッド・・・バル・・・ゴンちゃん・・・マッド・・・空・・・マウス・・・」
ロクは声を震えながら拳銃を触り、その手は2段目に移った。一人一人の名を呼ぶたびに、その者らの顔がオーバーラップする。
「ハチ・・・みっちゃん・・・ジョグ・・・北斗・・・クック・・・ゾノ・・・DC・・・χ(カイ)・・・P子・・・コウタ・・・」
ロクの手は3段目に移る。蘇って来る戦士たちの顔は笑顔ばかりだ。
「コロ・・・おーくん・・・アゲハ・・・ナナミ・・・Q・・・ベガ・・・シュート・・・我流・・・風ちゃん・・・瑠璃・・・」
ロクの手は4段目になった。女の子の笑顔も出てくる。
「飛鳥・・・オロチ・・・ロック・・・ニコ・・・マグナム・・・アックス・・・キッド・・・ラッシュ・・・ブイ・・・モスキート・・・」
ロクは最後の5段目になっていた。蘇ってくる彼らの映像は死に際にロクに拳銃を手渡す所だった。
「ライ・・・マッハ・・・キキ・・・ホーリー・・・ドルフィン・・・イブ・・・」
最後の6名はロクの腕の中で死んで行った者らだった。ロクは一人泣いていた。頭を壁に激しく強く打ち付けロクは号泣した・・・何度も何度も壁を叩き、ロクは声にならない雄叫びを上げた。
そこにあったのは、ロクがいたプロジェクトソルジャー3期生の50名中、亡き46名の拳銃がそこにあった。
P5指令室。死龍と司令が話し合っている。
「では、明日は予定通りで・・・」と死龍。
「まあ2日ばかりだ、こっちは任せろ!」と五十嵐。
「はい・・・」
「6年ぶりか?P6は?」
「そうですね?」
「里帰り気分で、もう帰らないなんて言うなよ死龍?」
「そんな薄情な女じゃありませんよ!」
「そうだな。それと新兵器はまだ完成してないが、あとは向こうで組み立ててくれるだろう。」
「今回は500名のジプシーですよ・・・」
「3台に分けて搭乗させるか?」
「虹の三角はそんな柔じゃないですよ。荷物と一緒というのは、反発を買いそうですけど・・・」
「わかった。後はこちらでする。明日早いのだろ?今日はゆっくり休んでくれ。」
「了解!」敬礼をして指令室を立ち去る死龍。
P6指令室。弘士が指令席に腰掛けている。他の兵も皆、笑顔で談笑している。
「ロクは休んだのか?」と弘士。
「こちらに寄るんですか?夜から仲間内で祝勝会でもしようかと・・・なあ我妻?」柳沢が背伸びしてロクを捜す。
「そうですよ。呼んで来ましょうか?」と我妻。
「報告は明日でもいいんだが・・・」
「そういう楽しい事なら・・・俺、呼んで来ますよ。こっちも煮詰まってしまって・・・他の連中もな・・・」
ダブルはいじっていたパソコンの席を離れて、会話に参加してきた。
「寝ているんだったら起こすなよ。今回、一番の功労者だ。好きなだけ寝かしてやれ。」
「わかりました。」
ダブルは指令室を出て行く。
P6地下3階ジプシー専用医務室。
「松井!桑田!もういいわよ。一度休みなさい。もう怪我人も来ないようだし・・・」関根が二人に声を掛ける。
「はい!」
「ロクは戻ってるんでしょ?どうせまたSCをボロボロにしてるんだから、桑田はそっちに回りなさい。」
「はい!失礼します!」部屋を出ていく二人。
P6地下3階整備室。キーンとバズーがバイクを挟んで暗い顔をしていた。
「ロク、何か言ってたか?バイクの事?」
「降りろとよ・・・バイクから・・・」
「だろうな・・・それでお前は・・・?」
「俺にはこれしかないって・・・そう言ったのさ・・・」
「それはそれで、お前らしいな。」
「どうも・・・」
キーンは珍しく照れ笑いを見せた。
「あいつ、昔からさ・・・」遠くを見つめるバズー。
「ん?」
「めちゃくちゃだけど、言うことはまともだったよな?仲間の事を思う際は・・・」
「ああ・・・」
「それでも、自分を貫くか?」
「そうだな。こればっかりはな・・・」
「そうか・・・」
「そうだ。」
「あんま、ロクを悲しませんなよ!」
「お、おお・・・!」空元気のキーン。
「俺は、バイクに乗るお前が好きだけどな。じゃあ、俺寝るわ!」
「ああ・・・」
バズーも整備室を出て行く。バイクを見つめるキーン。
P6は既に夕方近くになっていた。ロクはいつもの南ゲート近くの塀の上に登っていた。