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四天王  作者: 原善
第三章 死龍覚醒
55/209

その5 221・・・バズー

 街に3人の悪ガキが現れた。長い棒を持った者が2人、大きな体の奴が1人。3人はジプシーがいじめられてると聞くと、授業をそっち退けで訓練校を飛び出して行った。仲間は1人、また1人と増えていく。ロクにとっては毎日が楽しかった。しかし、7歳を過ぎたバズーや仲間たちは、戦場に借り出される事が多く、会えない日も出てきた。


 そんな時だった。仲間の1人が戦場で戦死したのだ。その日、その者を墓地に埋めた。みんな泣いていた。墓地で泣いていたみんなを教官の高森は殴り付けた。

「プロジェクトソルジャーは人の前で泣くな!」

 幼い隊員たちは、悲しみと痛さで更に大声で泣いた。ロクはこの日、初めて死というものを知った。



「それで奴ら、基地の中で吹っ飛ばしてやったんだ!」とバズー。

「聞いてくれロク!こいつ、基地内でバズーカ使いやがるし・・・大体崩れかかった建物の中で火器使うか?」とキーン。

「キーンだって、銃済むとこを剣で切りまくるし・・・ダブル呆れてたぜ!」

「そうか、たまに使わないとな。刀も錆びる。銃弾だって節約、節約。そうだろロク?」

「あ、ああ・・・そうだな・・・」


作り笑いのロクを察したのか、キーンがロクに声を掛ける。

「ロク?疲れてんだろ?早く休めよ?」

「報告があるなら、俺らがしておく!ありがたいと思え!」とバズー。

「ああ、頼む・・・」

 ロクは1人整備室を後にする。重い足取りで長い廊下を自分の部屋へと歩き出して行く。



 バズーはその頃、みんなのリーダーだった。バズーは3歳の頃に、両親を亡くしP6に連れて来られた。当時はマサと自分で呼んでたらしい。体が大きい事もあり、格闘技を中心に訓練を叩きこまれた。また、拳銃よりも、大型の武器を早くから持たされ訓練に励んでいた。バズーカを持つことが多かった彼を人は“バズー”と呼ばれるようになる。


「なんか南ブロックにジプシーの女の子をいじめる奴がいるらしい。」

「行こう!」

「長い棒を用意しろ!」

「今度こそブッ飛ばしてやる。」

 そう言うと、10名程が集まり街になだれ込む。そんな毎日だった。ある日、ロクはバズーからある言葉を聞く。


「今日、戦場で敵の兵を殺した!」

 仲間たちは、どう殺したのか、なんの武器を使ったのかとバズーに詰め寄った。バズーは自慢げに皆の前で話す。しかしロクだけはその話に耳を貸さなかった。

「そんな事をしたら、またこっちが殺されるじゃないか?」

 幼いロクが叫んだ。


「敵を殺して、何が悪いんだ!」

「221は、048の仇を取ったんだぞ!」

「仲間を殺した奴だ!死んで当然だ!」

反発する仲間たち。ロクを殴り付ける者までいた。


「やめろ!」

 止めたのはバズーだった。

「こいつの言う通りかもしれない・・・」


 バズーの言葉で誰もがロクを殴るのをやめていた。ロクの言葉を重く受け止めたのはバズーだった。それからバズーはロクの言葉をよく聞くようになる。小さいながら戦士たちは少しづつ大きくなっていった。しかしその成長と共に、幼い兵たちも一人一人と戦場に散っていく。



 ロクは自分の部屋に戻って来た。部屋に入ると脇、腰、足と拳銃を抜き取り、壁のフック部分に掛け始めた。薄暗い部屋をよく見ると、壁には50近い拳銃が綺麗に並べられて飾られていた。ロクはその開いている隙間に六丁の拳銃を一丁づつ置き始めた。


「また、生きて帰っちまった・・・」

 ロクはひとり呟くと、上段の左から拳銃をひとつひとつ触り始めた。

「ブルース・・・ザン・・・拓・・・駒ちゃん・・・レッド・・・バル・・・ゴンちゃん・・・マッド・・・そら・・・マウス・・・」


 ロクは声を震えながら拳銃を触り、その手は2段目に移った。一人一人の名を呼ぶたびに、その者らの顔がオーバーラップする。

「ハチ・・・みっちゃん・・・ジョグ・・・北斗・・・クック・・・ゾノ・・・DC・・・χ(カイ)・・・P子・・・コウタ・・・」


 ロクの手は3段目に移る。蘇って来る戦士たちの顔は笑顔ばかりだ。

「コロ・・・おーくん・・・アゲハ・・・ナナミ・・・キュウ・・・ベガ・・・シュート・・・我流・・・風ちゃん・・・瑠璃・・・」


 ロクの手は4段目になった。女の子の笑顔も出てくる。

「飛鳥・・・オロチ・・・ロック・・・ニコ・・・マグナム・・・アックス・・・キッド・・・ラッシュ・・・ブイ・・・モスキート・・・」


 ロクは最後の5段目になっていた。蘇ってくる彼らの映像は死に際にロクに拳銃を手渡す所だった。

「ライ・・・マッハ・・・キキ・・・ホーリー・・・ドルフィン・・・イブ・・・」


 最後の6名はロクの腕の中で死んで行った者らだった。ロクは一人泣いていた。頭を壁に激しく強く打ち付けロクは号泣した・・・何度も何度も壁を叩き、ロクは声にならない雄叫びを上げた。

 そこにあったのは、ロクがいたプロジェクトソルジャー3期生の50名中、亡き46名の拳銃がそこにあった。



 P5指令室。死龍と司令が話し合っている。

「では、明日は予定通りで・・・」と死龍。

「まあ2日ばかりだ、こっちは任せろ!」と五十嵐。

「はい・・・」

「6年ぶりか?P6は?」

「そうですね?」

「里帰り気分で、もう帰らないなんて言うなよ死龍?」

「そんな薄情な女じゃありませんよ!」

「そうだな。それと新兵器はまだ完成してないが、あとは向こうで組み立ててくれるだろう。」

「今回は500名のジプシーですよ・・・」

「3台に分けて搭乗させるか?」

「虹の三角はそんな柔じゃないですよ。荷物と一緒というのは、反発を買いそうですけど・・・」

「わかった。後はこちらでする。明日早いのだろ?今日はゆっくり休んでくれ。」

「了解!」敬礼をして指令室を立ち去る死龍。



 P6指令室。弘士が指令席に腰掛けている。他の兵も皆、笑顔で談笑している。

「ロクは休んだのか?」と弘士。

「こちらに寄るんですか?夜から仲間内で祝勝会でもしようかと・・・なあ我妻?」柳沢が背伸びしてロクを捜す。

「そうですよ。呼んで来ましょうか?」と我妻。

「報告は明日でもいいんだが・・・」

「そういう楽しい事なら・・・俺、呼んで来ますよ。こっちも煮詰まってしまって・・・他の連中もな・・・」

 ダブルはいじっていたパソコンの席を離れて、会話に参加してきた。

「寝ているんだったら起こすなよ。今回、一番の功労者だ。好きなだけ寝かしてやれ。」

「わかりました。」

 ダブルは指令室を出て行く。



 P6地下3階ジプシー専用医務室。

「松井!桑田!もういいわよ。一度休みなさい。もう怪我人も来ないようだし・・・」関根が二人に声を掛ける。

「はい!」

「ロクは戻ってるんでしょ?どうせまたSCをボロボロにしてるんだから、桑田はそっちに回りなさい。」

「はい!失礼します!」部屋を出ていく二人。



 P6地下3階整備室。キーンとバズーがバイクを挟んで暗い顔をしていた。

「ロク、何か言ってたか?バイクの事?」

「降りろとよ・・・バイクから・・・」

「だろうな・・・それでお前は・・・?」

「俺にはこれしかないって・・・そう言ったのさ・・・」

「それはそれで、お前らしいな。」

「どうも・・・」

 キーンは珍しく照れ笑いを見せた。


「あいつ、昔からさ・・・」遠くを見つめるバズー。

「ん?」

「めちゃくちゃだけど、言うことはまともだったよな?仲間の事を思う際は・・・」

「ああ・・・」

「それでも、自分を貫くか?」

「そうだな。こればっかりはな・・・」

「そうか・・・」

「そうだ。」

「あんま、ロクを悲しませんなよ!」

「お、おお・・・!」空元気のキーン。

「俺は、バイクに乗るお前が好きだけどな。じゃあ、俺寝るわ!」

「ああ・・・」

 バズーも整備室を出て行く。バイクを見つめるキーン。



 P6は既に夕方近くになっていた。ロクはいつもの南ゲート近くの塀の上に登っていた。

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