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四天王  作者: 原善
第三章 死龍覚醒
53/209

その3 孤児、ロク・・・

 P6東軍事ブロックあるエレベーター前。ジャガーを降りた弘士と曽根の姿があった。


「それなら、わかりませんよ!」笑いを堪えるロク。


 車を降りていた弘士と曽根に、ロクは車内から答えた。よく見ると曽根は、ロクが愛用している穴だらけのポンチョを腰に羽織っていた。

「わ、悪いな・・・」

「では、司令、参謀。先に技師長の所に寄って行くんで!」

「ああ、後でこっちにも寄れ。」と弘士。

「失礼します!」


 ロクは街の中心部に向かって走り出した。既に日は真上を指していた。自分の車庫のエレベーターは昨日の襲撃で破壊されていたため、住居街を抜け別なエレベーターシャフトに向かった。街は昼時なのか、道には人が溢れている。しかし昨日の奇襲のせいか、以前のような賑わいではない。人々の顔も暗く、まるで光を失ったようだ。海で採れた魚の干物も建物の窓から出している所が少なく、ポリスが臨時で配給している食事の列に、人が並ぶ姿が多く見られていた。

「また子供が多くなったな・・・」


 ロクは車内で一人そう呟くと、昨日の奇襲で親のない孤児が増えたのを感じた。ロクの目には、その子供らの姿しか見えなかった・・・


 ロクも孤児みなしごだった・・・


 年齢も分からない。まだ立てないときなので1歳未満と考えられる。ロクはパトロール中の久弥に拾われたという。既に両親はジプシャンに殺され死後2、3日は経っていた。その中、ロクは母親に抱きかかえられ、大きな声をあげ泣いていたらしい。まるで“生きたい”と久弥の耳には聞こえたらしい。


 久弥はすぐにロクをP6に連れて帰った。今の身体検査と違い、当時の身体検査はやたらと注射で済ます。だから、この頃のロクの腕は内出血でいつも真紫色だったと言われる。ロクは5歳まで孤児施設で育った。幼く拾われた彼に名前すらない。唯一親しかった母親代わりはポリスの女スタッフがいたが、それすらも引き離され、ロクはプロジェクトソルジャーの訓練校に入れさせられた。

 

 ここで初めて、ダブル、キーン、バズーと出会う。3桁の数字で呼ばれる毎日。7歳で初陣、と言っても後ろで兵のアシストをするものだった。10歳まで訓練校にいたロクたちは、僅か5年で殺人兵器と呼ばれる集団になっていた。訓練は実戦に近く、亡くなる仲間も多かった。ロクはその死んでいった仲間たちの拳銃を握り始めた。彼らの遺志を引き継ぐのを目的に・・・そして6つの銃を持った時、初めて仲間から“ロク”と呼ばれていた・・・


 ロクは車窓の風景と、自分の過去を照らし合わせていた。懐かしくもあり、せつなくもあり。ロクは昔を思い出しながら、車を走らせていた。


 

 ジプシャン軍本部。表の駐車場部分には、40台程のSCが並んでいる。嶋、石森やヒデ、丸田の仲間の姿も見える。

「タケシ様、ミサイル隊は積載完了!」


 タケシは遠くを見ていた。タケシの目線の先には、長さ30メートル程の巨大な大筒がまさに巨大なクレーンによって何かに取り付けられようとしていた。

「あれが新兵器の大筒か・・・姉貴の船にでも取り付けようとしているのか・・・?」

「タケシ様・・・?」と嶋が覗き込む。

「お、おっ!・・・これより古川基地に向かい新型のサンドシップを受け取り、北のP5に向かう。いいな!?」


 タケシが50人程の兵に熱弁の中、ヒデと丸田は小声で話し始める。

「おい?・・・本当に嶋の言うことを信じるのか?」

「あれはどう見ても、跳ねられた感じじゃない・・・」とヒデ。

「どうみても強姦されてるぞ・・・」

「その後、跳ねられたか・・・?」

「それにしても、やったのは松島の兵か、タケシの隊の奴だろ?」

「そうだな・・・やはりあいつだよな?」

 ヒデはタケシの横にいる嶋を睨み付けた。

「こいつだ・・・」



 P6地下3階整備室。ロクと高橋がジャガーを挟んで話している。

「そうか・・・飛んだか?」機嫌のいい高橋がいた。

「はい!」

「車体は装甲を厚くした分とガトリングバルカンを積んだ分、1トンに近い。それで30メートルか・・・凄いな・・・」

「加速だけではないと思います!やはりエアーブースターの力があったからですね!」

「分かった。更にパワーを増そう!」

「2メートル・・・」ロクが突然呟いた。

「ん?」

「2メートル・・・垂直に真上に飛べないでしょうか?」

「真上?垂直に2メートルか?うーん・・・」

「無理な話ですか?」

「エアーブースターがもう一つはいるな。出来なくはないが、こいつの後部座席を潰すならばなんとかなる!」

「ちょっと早急にやってもらえませんか?」

「ああ、お望みとあらば・・・丁度キーンのSCに付けようとしたのが余ってるしな・・・」

「キーンが・・・?キーンがどうしたんですか?」


 ロクの顔がいつになく真剣になった。

「あいつ、話してないのか?SCから降りるそうだ。」

「バイク・・・ですか?」目を細めるロク。

「慣れないSCより、奴らしいよ。」

「そうですが、あいつ・・・今まで何度も生死を彷徨ってんのに・・・」

「奴らもさ、何だかんだお前を目標にしてんだよ・・・」

「目標?」

「お前に追いつきたいって言うか・・・なんかうまく言えないけどさ。自分の居場所を捜してんだよ。みんなもだ!」

「はあ・・・?」イマイチ意味が分からないロク。

「親父さんがよく言ってるよ。お前は彷徨えば彷徨うほど輝きを増して帰ってくるって。みんな、昔のお前を待ってんだよ。だからお前以上に輝こうって頑張ってんじゃないか?」

「待たれる程の器量なんてないですけどね。」

「そうだな。ただの泣き虫の屁タレなのにな?あっそうだ、お前桑田に何かしなかったか?」

「へっ?」意表を突かれロクの顔が珍しく崩れた。高橋はそんなロクの表情を見逃さなかった。


「図星か!?なつみに手出したら、わしが許さんぞ!規則を破ったら監獄行きだからな!」

「プロジェクトソルジャー規則第7条:ソルジャーは恋愛を禁止をする。これを破る者は禁固と処する!」声を変えて棒読みするロク。

「わかってんなら、女を突き放すのも愛だろ!?今は戦争中だ。いいなロク?」いつになく真剣な高橋。

「技師長・・・」


「ガキの頃から、お前ら二人を知ってんだ!互いの気持ちは俺が一番知ってるよ。ここは我慢するんだ。残念ながら今は敵とドンパチしてんだぞ!もっと現実をだな・・・」

「分かってます。分かってますから・・・」

 そう言うとロクは渋々と整備室から出て行こうとする。


「お前・・・全然分かってないよ・・・」高橋が呟いた。


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