その12 難攻不落
03:45 P6地下3階SC整備室。全部黒で塗装された、ダブルのジャガーストームの脇に桑田の姿があった。運転席にはダブルが苦悩の顔をして乗っている。
「もう・・・なんでわかんないんですかねー!?」
桑田がキレ気味にダブルに説教をしていた。
「もう一度だ・・・頼むもう一度最初から説明を・・・」
「もーう!あの機械音痴のあのロクさんで“すら”勘で覚えましたよ!」
「お前・・・言い方きつくなったな・・・!?」
「最後ですよ!いいですか!?ダブルさん?」
「ああ・・・」
桑田が、ダブルに怒って機器の説明をしている。その様子を見ているキーンと高橋技師長。
「なんか明らかに変わってますね?なつみ・・・」
「さっきから、別人になったような気が・・・」
その様子にキーンはなつみに質問をぶつけてみる。
「おーい!なつみ?どうした?ロクにでもキスされたのかー?」
「そっけんな○△×※□▼◎だがっー!」
桑田は説明途中にキーンの方を振り返ってキレていた。
「図星か・・・どこの方言ですか?技師長?」
「わ、分かりやすい・・・誰だあいつをスパイって疑ってんのは?」
「さ、さあ・・・?だ、誰でしょうかね・・・?」
キーンと高橋が小声で話す中、そこにバズーが眠そうな顔で入って来る。
「やっと起きたかバズー・・・」
「あれ?ゴロゴロ様は?」とバズー。
「だ・れ・だ・よ・・・?」とキーン。
「ロクだよ。なんかあいつ、敵から砂漠の雷さまって言われてるんだろ?」
そこに桑田が素早く飛び込んで来て、バズーの顔の近くまで近寄った。
「バズーさん!それを言うなら砂漠の雷獣ですよ!らいじゅう!ライジュウ!RAIJYU!」
そういい終えると、再びダブルの車に素早く戻って行く。
「ダブルさん!全然出来てないじゃ・・・死にたいんでしょ!?ねぇ!?ねぇ!?だからここは・・・ぐがぁー違うばい!」
桑田の豹変振りに戸惑う3人。
「さ、さてと・・・俺はシンガリだよな?北ゲートにいるぞ!」と背伸びするバズー。
「ああ。頼んだぞ!」
「悪いな。お前のはSCが間に合わなくて・・・」と高橋。
「いいえ、ロクとダブル、あの二人が優先ですから!」
「ただフロントガラスは、一応防弾ガラスにしてある!そこは安心しろ!」
「ありがとうございます。おーい、そろそろ時間だろ?ダブル行くぞ?」
「まだです!全然まだです!この人たちに教育?いや学習ってものがそもそも欠けています・・・あー!だぁ・かぁ・らっ!そうじゃなくって・・・こうじゃないですか!?」とダブルに説教を続ける桑田。
「あとは、戦場でロクみたいに勘でするよ。ねぇ、技師長?」ダブルに助け船を出すキーン。
「そ、そうだな。おい、もう許してやれよ。桑田?」高橋も賛同する。
「はあ、私はそんなつもりで・・・でも戦場で困るのはダブルさんですよ?」
「ロクに出来て、俺に出来ない事ないだろ?」なぜか強きのダブル。
「その自信どこから来るのやら・・・?」呆れる桑田。
「じゃあ、俺も行きますんで!」
キーンはこの部屋を出て行った。するとこの部屋のエレベーターシャフトの扉が開き始めた。ダブルは自分のジャガーストームをシャフト内に入れ始めた。桑田と高橋は、ダブルのSCの側に近寄った。
「必ず帰って来て下さいよ。ダブルさん!」
「同じセリフ・・・ロクにも言ったのか?」
桑田は何かを思い出して、急に真っ赤な顔をして目が飛んでしまっている。
「そうか・・・お前、隠し事下手~!まあ若いんだからしょうがないけどな!?」
「ロ、ロクさんとは、なんにもないですよ・・・」慌てる桑田。
「そうかい?まあロクにしては上出来だ!もっと奥手だと思ってたからな?まあ、あいつの覚悟・・・見させてもらうよ!」
「な、なんかあったんですか!?ロクさん!?」
「いいや、大丈夫だよ。ロクは俺らが守る!」
「はい!」
「ほな、行って来る!」
ダブルは運転席から桑田に親指を立てた。桑田と高橋はシャフト内のダブルに対し敬礼をする。
03:50 ジプシャン軍松島基地側居酒屋。
既に酒場の女たちの姿はなく、タケシは酔い潰れていた。ほとんどのテーブルは兵らが酔いつぶれている中、ヒデと丸田、嶋、石森の4人は酒を飲み続けている。そこへヒデの仲間のタカが入って来る。ヒデの側に近寄ると、ヒデに耳打ちをする。
「海竜が妙な動きを・・・?」
「ん?」傍にいた嶋がそれに気づく。
「補給をし、再び海に潜っています・・・」とタカ。
「そうか・・・わかった・・・」
「それと・・・」
「ん?」
「ミキが戻っていないって女たちが騒いでます・・・」
「そうか・・・捜せ・・・」
「はい・・・」
タカが店を出る。その様子を見て、不審がる嶋。
「どうしたヒデ?」と嶋。
「いえ、なんでも・・・」
「・・・・・・」無言で目を細める嶋。
「そういやぁ、なぜポリスの船はここを襲わない?」
すると、嶋とヒデの会話に石森が口を挟む。
「湾の入り口に大量の機雷を敷き撒いてる。」
「潜ればいい。向こうは海中を潜れる潜水タイプと聞く?」とヒデ。
「向こうの方がデカイ。機雷の下はくぐれないのさ。それに湾の中は、浅いところも多く座礁しやすい。湾内にはいくつもの沈没船がある。所用箇所に船をあらかじめ沈めておいたのさ!水陸両用タイプにしては、エアーブースターの船底をぶつけたら致命だ。今度は陸に上がれないからな・・・そうだな嶋?」
「ああ、過去20年近く、ポリスはここを破ってない。俺が敵なら機雷を除去して攻めるな。しかしその時間にこちらは、守備を固められる。後ろは山、左右は細い海岸道、更に正面に海とたくさんの島々だ。ここは難攻不落の自然の要塞だ。古来、大津波がこの地域を何度も襲ったと聞く。だがここは被害すらなかった。ポリスのSCだろうが、船だろうがここを突破など不可能だ!」
「ふはははっ!」
ヒデは突然笑い出した。
「ヒデ?何がおかしいんだ!?」
嶋がその態度にヒデを責めた。
「いや、悪い悪い!急に昔の仲間を思い出してな!」
「仲間だと?」
「ああ、絶対に無理だと聞くと、破るまで何日も考える馬鹿がいたなと思ったら、急におかしくなってよ!」
「ふっ!バカバカしい!」
「うふふふ、あの馬鹿が生きてるなら、ここをどう攻めるんだろうな・・・?」天井を仰ぐヒデ。
03:54 ロクのジャガー。ロクは車内の時計を見つめていた。
「あと30分・・・」
ハンドルを握る手が微かに震えている。
03:55 P6北ゲート。キーンのSC。
「出るぞ。我妻!ゲート開けてくれ!」
『了解!』
星明かりのない暗闇の荒野。北ゲートから出るダブルとキーンのSC。2台は北の浜田基地方面に向かった。
03:58 レヴィア1番艦ブリッチ。国友がある地形モニターを検索してる。
「なんてこった・・・ジプシャンの奴等!この湾の入り口だけで20隻以上の船を自沈してます!どうしてもここは通さない気ですよ!」ボヤく国友。
「くっ・・・魚雷で爆破でもするか・・・?」とほのめく桜井。
「駄目ですよ!楠本さんに後で報告して、P7で引き上げて貰います!鉄不足のP5が泣いて喜びますよ!」
「ふふふ、そうだな・・・」と桜井。
「それで桜井さん!このルートなら、突入にリスクは少ないかと・・・?」
国友の席に近寄り、地形データーを見つめる桜井。
「うん・・・確かに・・・作戦まで26分・・・行くぞ。三島!後方の3隻に照明信号!“ワレ二ツヅケ”だ。」
「了解!」
「俺らがここを通過しなければ、作戦は成り立たない・・・ロクさんの言葉じゃないけど・・・さぁーて、行きますか?」
03:59 レヴィア2番艦ブリッチ。司令と佐々木がいた。
「1番艦より照明信号。“ワレ二ツヅケ”です。」
「来たか?よし我艦も動くぞ!」と弘士。
04:01 レヴィア1番艦ブリッチ。
「進路このまま。微速前進!」桜井がレバーを引く。海中で動き出すレヴィア。
04:02 レヴィア4番艦ブリッチ。久弥が席から立ち上がり、一人腕を組んでいた。
「1番艦から3番艦!移動を開始した模様!」ある兵が叫ぶ。
「動いたか?この艦は指示があるまでここで停止!頼むぞ!・・・ロク!・・・桜井!」
満潮まであと22分だった。