その7 聖の決意
「あんた、本気で言っているのかよ!?」
ロクは立ち上がり弘士に詰め寄ろうとする。
「落ち着け!まだ決定というわけではない・・・」
「俺はあいつを信じる。あいつはそんな奴じゃない。ガキの頃からここで育ったんだ。ジプシャンと接触出来るわけがないだろ!?ポリスはなぜそれが分からないんだ!?」
「どこでどう繋がるかは分からない。それは我々ポリスだって同じなんだ!」
「だったら先にポリスを疑れ!」
「分かっている。ポリス内は全員調べている。」
「くそっ!・・・どうすりゃいいんだ?」
「一人一人調べている。ただ今現在、一番の疑いが桑田という事だ。そこは肝に命じろ!」
「お、俺は絶対信じないからな!」
ロクは、怒って一方的に会議室を飛び出してしまった。困り果て、怒りをどこにもぶつけられない弘士がいた。
21:38 P6地下3階ジプシー専用医務室。その中のある病室に10人くらいの患者がベットに寝ている。そこにダブルが入って来る。ダブルはその一人に近づくが、その者は頭部の目以外全部を包帯で巻かれていて誰かが分からない状態だった。ダブルはその者のベットの側のイスに腰掛けた。そのベットの者は目を開けていた。
「聖さんかい?」
「うん・・・ここは?」
「ポリスの地下3階だ。ロクが連れて来たそうだ。」
「か、顔が痛い・・・」
「顔や体に火傷を負った。」
「覚えてない・・・」
「無理もない。砲弾の爆風を受けたらしいからな。」
「何があったの?」
「P6が攻撃を受けた・・・」
「タケシ?」
「そうだ。」
「たくさん死んだの?」
「ああ・・・」
「子供たちも・・・?」
「ああ・・・」
聖は突然、ベットの上で泣き始めた。
「ごめん・・・」
「なんで謝るんだ?」
「私の仲間だもん・・・」
「そうとは限らない。」
「だって・・・」
「そんな事はどうでもいい。今は治療に専念してくれ。」
「私が・・・奴らを説得する・・・」
「その体じゃ無理だ!!」
「お願い・・・仲間のところに連れてって。お願い・・・」
「あんたは重態だ。今は動かせない・・・」
「お願い・・・」
「無理だ・・・いいか、今はちゃんと専念しろよ。」
ダブルが途中で諦め、病室を出て行く。聖はベットに寝たまま号泣していた。
21:55 ジプシャン軍松島基地近くの酒場前。ヒデと丸田が暗い路地で話していた。
「ヒデ?明日にはP5だな・・・」
「わかっている・・・」
「このままでいいのか?」
「何が?」
二人は東の空から昇り始めた月を見ていた。
「軍に入りたいが、いきなり訓練もなしに前線送りかよ・・・」
「P6の奇襲の際、逃げるべきだったな?」
「逃げれば銃殺だぜ・・・」
「それも、分かってる。」
「聖は分かったのか?」
「タカの話だと、P6に向かった足跡があったらしい。」
「聖が・・・P6に・・・まさか・・・」
「投降した・・・可能性はなくない・・・」
「どうする、これから?」
「タケシを殺して、ここを脱出する。」冗談混じりのヒデ。
「ふふふ、面白い。」
「まあ、それは最終プランだな?」
そこへ、二人の男がヒデらに近寄ってきた。2人ともヒデらと同世代で体格のいい二人だった。
「ヒデ!」
先に声を掛けたのはタカ、髪の毛はなく色黒の男だった。
「P6が変なんだ。」
「どうした?」
「海竜が4隻いる。」
後に声を掛けたのが羽生。色は白いが同じ坊主であった。
「P6に4隻・・・?」
「P6は、戦艦は1隻じゃなかったのか?」
「それとなんだか慌ただしいんだ。P6周辺が・・・」と羽生。
「ジプシャンは?」
「まだ気づいていない。こいつら余裕なのか偵察一台出してないぞ!」とタカ。
「そりゃあ余裕だね・・・」笑うヒデ。
「どうする?ヒデ?タケシに報告するか?」
「なぜそんな事する?いいチャンスじゃないか。」
「チャンス!?」
「飲み直すぞ!お前らも来い!」
「どういうこった・・・?」驚く丸田。
「ん?・・・面白くなる・・・」
ヒデらは、再び酒場へと戻って行った。
22:00 P6地下3階検視室。大場の遺体の左右にロクと関根の姿があった。
「ロク、忙しいのよ・・・患者はまだまだ来るのよ?」
「すいません。すぐ終わります。」
「しょうがないわね・・・」
関根は大場の遺体、特に撃たれた傷口をよく見ていた。
「心の臓を狙っている。至近距離から・・・即死ね。プロだわ。銃弾は突き抜けていて・・・弾は分からないわ。ただ恐らくポリスと同じ銃口径。または反動が少ない拳銃ね。女子供でも撃てるタイプ・・・だけどこの人は逃げなかった。」
「ど、どうしてですか?」
「正面から入って、真っ直ぐに抜けてる。逃げる暇を与えてないかもしれないけど。人間は咄嗟に逃げるものよ。だから反抗は背は低い奴の犯行。あとは・・・解剖しないと無理ね・・・」
「女ですか?」
「そ、そう言えばそうね。女なの?この犯人?」
「そんな噂です。」
「それなら話が合う・・・背の低い女・・・背の低い男ってダブルくらいだし・・・」
「はあ・・・分かりました。ありがとうございました。」
大場の遺体に、再び布を掛けるロク。
「ああそうそう、聖って女だけど・・・」
「何か?」
「妊娠してた・・・」
「えっ?」
「あんたっ!?」
関根は、怖い顔でロクに迫った。
「なんでだよっ!?」
「そうよね・・・」
関根は、笑ってロクに話す。
「まあダブルなら可能かと・・・」
「そうよね。まああんたらじゃなくてホント良かったわ・・・」
「それで、お腹の子は?」
「うーん、流産したの・・・しかも今回の怪我より流産の方が深刻なの。」
「というと・・・?」
「命も危ないかも・・・?」
「えっ・・・?」驚くロク。