その6 スパイ疑惑
21:00 P6南ゲート前。レヴィアが並んで4隻止まっている。その周辺は慌ただしく、兵やトラックが動き回っている。 トラックの荷台に証明が付いている車がレヴィアの横コンテナ部分を照らし、夜間作業を明るくしている。ロクはこの光景を南ゲートの塀の上で眺めていた。海はまだ月が東にあるせいかまだキラキラともせず、静かな海であった。
「今日は風が弱い・・・いい海だ・・・」
その塀の上に、ロクを捜しに来たのか桑田が息を切らしながら登って来る。
「はぁー。やっぱここでした・・・みんな捜してます。お願いですから、無線持って下さいよー!」
「悪い。作業さぼって・・・もうちょっと自分で作戦をイメージしたくてな・・・」
「司令が、幹部にもう一度作戦を説明して欲しいと・・・」
「そっちかよ?」
「いつも、ここに来てますね?」
「好きなんだな~ここが・・・」
「私もです!」
二人はそこを動く事なく、また海を見つめていた。
「なんか、星と海見てると楽しかったあの頃に戻れるっていうか・・・ああ、ごめん手紙まだ読んでないや・・・」
「あっ、いや・・・あの・・・やっぱり返して下さいっていったら駄目ですか?」
「なんでだよ!?」
「うーん・・・でもいいです。読んで下さい!」
「どっち?」
「読んで下さい・・・」やや照れる桑田。
「な、なんだよ・・・?」
「あの・・・それと、うまく言えないんですが・・・作戦頑張って帰って下さい・・・」
「ああ、なんとかする!」
「出た出た・・・」
「本当は恐いんだぜ。でも自分を励ますって言うか・・・俺のおまじないさ!」
「知ってます・・・凄く痩せ我慢してる時のロクさんのセリフです。」
「な~んだ、知ってたのか?」
「知ってますよ。ロクさん専属のオペとメカニックですよ!」
「もう3年か・・・」
「いいえ~12年ですよ。妹から数えたら・・・」
「ぷっ!妹からか?そうだな?長いな・・・?」
「長いですよね・・・」
「・・・」
「・・・」
二人は海を見ながら黙り込でしまった。
「あのさ・・・!」ロクが咄嗟になつみに切り出した。
「は、はい!?」
「お前は生きろよ!」
「えっ?」
「何がなんでもお前は生きろ・・・」
桑田は何か緊張の糸が切れたか目に涙を浮かべた。
「な、なんで、そんな事突然言うんですか・・・な、なんでこんな時に・・・そんな事を・・・?」
急に泣き出した桑田を見て、ロクは動揺した。
「ごめん・・・おいおい、ここで泣くなよ・・・」
「行かないで下さい・・・行かないでお兄ちゃん・・・行かないで・・・」
桑田は泣きながら両手でロクの右腕を掴んでいた。ロクは桑田の正面に立ち、左手で桑田の手をそっと包み込む。するといつもの笑顔で桑田に答えた。
「戻るよ。なつみが整備した車だ。大丈夫だ!」
「ほんと?・・・ほんとに?」
「約束する!」
「ほんと?」
「大丈夫だ!」
桑田は、我に返ったのかロクの腕を突き放した。赤くなる桑田とロク。
「すいません。わ、私・・・」
「帰るよ・・・必ずな・・・」そんななつみが愛しく感じるロク。
「はい!」
二人は暫く向かい合っていた。
21:15 P6大会議室。弘士、久弥、曽根の他に数名の参謀。キーン、ダブル、バズー、柳澤、高橋技師長など、15名程が揃っている。そこにロクと桜井が遅れて入ってきた。
「すいません。遅れました!」
「すぐ始めてくれ!」
ロクは会議室中央にあるスクリーンの前に立つと、長い棒を持って司令や参謀たちに説明し始めた。
「レヴィア1から3番艦は、明日03時15分にここを出発。満潮の04時20分まで湾入り口の海底で待機。機雷のもっとも薄い所を捜し湾内に侵入します。この際、機雷が接触する可能性があるので、レヴィア艦首より船のブースターを海底で始動。噴出した泡で機雷を移動し、艦1隻分の進路を確保します。微動での移動につき、3隻全部湾内に入るのに15分程度。更に各艦が各基地の射程距離までの移動に10分。この際、1番艦は浜田基地、2番艦は松島基地と浜田基地の間の橋、及び松島基地から出てきたSC隊。3番艦は手樽基地の射程距離まで移動です。砲撃の合図ですが、私が浜田基地に単独で侵入します。作戦を装わせないように1台で目立つように浜田基地を襲撃し、その足で松島基地に向かう振りをします。そこで、松島基地より迎撃があれば、2番艦の砲撃をきっかけに各艦が各基地に砲撃します。2番艦はその後、松島寄りの橋を砲撃、敵SCを海岸線に孤立させます。その際なんですが、浜田基地にアシカムを先頭にダブルとキーンが突入します!」
「浜田・・・?それは聞いてないな・・・」と顔をしかめる曽根。
「砲撃は10分間だけ止めていただければ十分です。」
「それはどういう事だ?」
曽根は最初から、ロクの意見に聞く耳はない口調子だった。
「保険というのか、私が浜田に向かった時にどのくらいのSCが出て来るかなんですが・・・たくさんのSCに迎撃された場合、基地を攻撃しても本来の目的のSC隊への砲撃が出来なくなってしまいます。それの壊滅が最大の目標です。それとですね・・・」
「まだあるのか?」
「バズー、キーン、ダブルが基地内に侵入、敵情報を収集します。」
「無茶だ。砲撃をした基地だぞ。」
「基地の破壊具合では、こちらの作戦は中止します。まあ敵のドサクサを狙うんですが・・・」
「しかし・・・」
「やらせてやれ、どうせ無理はしないんだろ?こいつらが一番分かってるよな?」
横にいた久弥が初めて口を開いた。
「はい!4番艦には1から3のレヴィアの逃げ道を作ってもらう為、同刻湾外より機雷を砲撃してもらいます。以上までで05時10分。この作戦を終了。ここまでで何か質問は?」
「浜田基地の情報収集の意味はあるのか?」と曽根。
「最近、ポリス内を騒がすスパイ騒動・・・浜田基地より怪しい無線が出てると聞きます。恐らく何らかの指示等はここが発信源かと・・・」
「まあそれしかありえないと思うが・・・もっと違うやり方はないのか?これじゃあ危険過ぎるぞ・・・」
「今のところは・・・まあ意表を突くという事です。他に何かありませんか?」
「いいだろう。時間も迫っている。各員作戦まで他言だ。海兵にも行き先は語るな。いいな?」
「はい!」
会議が終わり、皆部屋から出ようとしていた。すると弘士がロクを呼び止めた。
「ロク!すまん!」
「何か?」
「二人だけで話がある。」
「はい・・・」
会議室は二人を除き全員が出て行き、急に静かになった。ロクは立ったまま弘士に正対した。
「実は大場の件だ・・・」
「何か分かったのですか?」
「いや何も分かっていない。ただ、大場を取り調べした時の事を覚えてるか?」
「なんでしょう?」
「スパイは内部に入れるジプシーだと・・・」
「それは・・・」
「本当に内部にスパイがいるのなら、この作戦も筒抜けだぞ?いいのか?」
「そしたらなんらかの動きがありますね。それはそれでスパイの尻尾を掴めます!」
「話を戻そう・・・地下3階以降に入れるジプシーはロクら4人と、桑田、松井、メカニックの2名の合計8名。」
「それが・・・?」不安がるロク。
「ひとりひとりのその時間の確認をした・・・襲撃があった時刻、地下3階以降にいなかったのは、戦闘をしてた3人、P7に行ってたロクと・・・」
「・・・と?」
「桑田だ・・・」
「う、嘘だろ!?」
ロクは大声を出す。司令からそんな言葉が出るとは思ってもいなかったのだ。
「幹部の一部では桑田がスパイではないかと思う者も出ている・・・」
「桑田がスパイ!?何かの間違いです。」
「あの時、地上にいたのも桑田だけだ・・・大場は地上で暗殺された・・・」
「ふざけるなっ!!あんた、仲間を疑うのか!?」
ロクは机を叩き席を立ち上がった。