その1 暴動
この世界、既に“神”というものはなくなっている。もし神がいるのであればこんな惨劇はなかっただろう。第六ポリスが作られて25年以上。タケシ襲撃はP6最大の惨劇だった。
16:30 P6の街に日が沈もうとしていた。街はまだ焦げ付いた臭いがたちこめている。親族が亡くなったのか、声を枯らして叫ぶ少女や、親と逸れたのか、路上で泣き叫ぶ子供。意気消沈し瓦礫の上で座り込む老人と様々だった。
ロクと直美は二人向かい合っていた。直美の目からは涙がこぼれ、それでもロクを見つめていた。
「もう一度言って!」直美はロクに正対した。
「君のお父さんは・・・死んだんだ・・・」
「嘘よ、嘘だよ・・・」
「君らも危ない。地下に保護する・・・」
直美は突然ロクの胸倉を掴むと怒りに任せロクに詰め寄った。
「何で父は死んだの!ここは安全って言ったじゃない!」
ロクを激しく揺さぶり泣き叫ぶ直美。ロクは何の抵抗もなく、直美の怒りを受け止めていた。しばらく詰め寄っていたが、力尽きた直美をロクはそっと抱きしめていた。ロクの胸で泣き叫ぶ直美。
「行こう・・・ここは危険だ。」
「誰がこんな事を・・・」
弟と妹は、なぜ姉の直美が泣いているのかを理解も出来ず、ロクと姉をポカンと見ていた。
16:47 P6指令室。
「司令。海岸線に、レヴィア2番艦と3番艦です。」
「動けるのか?テスト航海もしてないのに・・・我妻、P7に無線だ!」
「了解!」
指令室の中央スクリーンに久弥と楠本の姿が映し出された。
『派手にやられたみたいだな・・・桜井から連絡があった。テスト航海中の2番艦と3番艦をそちらに向かわせた。もう着く頃だが・・・』と久弥。
「到着しました。負傷者は7000人を超えそうです。死者は500人を超え・・・」
『なぜジプシーたちはシェルターに入らなかったんだ?』
「警報は何度か出したのですが・・・いつもの事だと思ったのでしょう・・・慣れ・・・という奴です・・・」
『そこの者らは無事なのか?』
「幸いにも・・・」
『上陸したら、海兵も作業に当てさせろ。皆、各々の家族を心配している。』
「分かりました・・・」
17:02 P6西ゲート前。
破壊されたゲート前には、たくさんの生き残ったジプシーたちが、自分の荷物を持って集まっていた。ゲート前にはアシカムが横付けされており、ジプシーを通さない格好に置かれていた。
アシカムの前には銃を持ったポリス兵が並び、銃を集まったジプシーに向けている。ジプシーの数は住居地区に近いせいか、時間が経つに連れどんどん増えていく様子だった。皆ポリスから出せと騒いでいる。
バズーはアシカムの上部に立ってこの様子を見ていたが、慌てて指令室に無線を飛ばした。
「こちら西ゲート、バズー。指令室聞こえるか?」
『こちら指令室我妻ですが・・・』
「西ゲート前に、ジプシーが集まっている。数は千人以上。皆ポリスを出ると言っている!」
17:03 P6指令室。
「了解・・・司令。西ゲートでジプシーの暴動。バズーさんから応援要請です!」と我妻。
「どこも手が一杯だ。キーンの隊をまわせ!」と弘士。
「了解!」
「暴動だと・・・?避難さえちゃんとしてれば・・・」
17:04 P6西ゲート前
怒り出したジプシーが瓦礫の破片を持っては、バズーのアシカムに投げ始めた。すると何人ものジプシーが投石を行いだした。石はアシカムはもちろん、前にいた兵にも当たり事態は深刻化して行く。
その時だった。一発の銃声がジプシーの集団の後ろから響き渡った。集団は慌てて後ろを振り向くと、拳銃を上に向けて立つロクと、直美の兄妹がいた。
「逃げたきゃ、逃げな!」
ロクの言葉に唖然とする一同。ロクは直美らを連れ群集を掻き分けると、アシカムの上にひょいと飛び乗った。
「逃げたい奴は逃げればいい。止めやしないさ!」
すると最前列にいたジプシーの男がロクに叫ぶ。
「だったら、そのでかい戦車をさっさとどけろ!」
「逃げてどうすんだよ!?」
「ここよりはマシだ!ここにいたらさっきみたいにみんな死んじまうぞ!」
「そうだ!そうだ!」
「ポリスは守ってくれないじゃないか!?」
「お前らなにしてんだよ!軍人だろうが!」
「これからは俺らは外で暮らすぞ!」
再び騒ぎ始めた群衆。
「ったく・・・」
するとロクは再び、拳銃を抜き空に向かって二発も発射した。再び沈黙する群集。
「助かるかもしれないな・・・ほんの何人かは・・・」
群集を説得するロクを不安そうに見つめる、直美やバズー。
「ロク・・・」心配するバズー。
「荒野に出ればみんな殺される。ジプシャンはそうしてきた。それはみんな知ってるよな?」アシカムの上でオーバーな素振りを見せるロク。
「ここに居たって同じだろうが!」
「何人死んだんだ!?」
「さっさと出せよ!」
「軍人の言う事は聞かんぞ!」
「ここに居れば仲間がいるじゃないか!助け合って、かばいあって、飯食って・・・荒野で死んだって誰も墓も作ってくれないぜ!」
静まり返る群衆。
「それでもいいなら出て行きな・・・バズー!こいつを動かせ!」
「しかし・・・」躊躇するバズー。
「いいから動かせ!」
バズーがアシカムを動かし、ゲート前から移動した。その先には荒野が見えている。誰も動こうとしない群集。
「心配するな!俺たちはジプシャンみたいに後ろから撃たないぜ!」
ロクはアシカムを降り、直美らの方に近づいた。群集は外に出るものはなく、各家に帰り始めた。
「やるな・・・ロク・・・」バズーが群衆に消えるロクの背中を見つめる。
「寄り道したな・・・行こうぜ!」唖然とする直美にロクが声を掛ける。
「ええ・・・」
歩き出す四人。直美たちはロクとの距離を置いた。
「ねぇ、お姉ちゃん?この人ちょっとかっこいいかも?」雨音が直美に小声で話す。
「言うね、雨音。そうかも・・・」
「あれ?俺・・・車どこにやったっけ?」
ロクは乗り捨てたジャガーを見失っていた。
「やっぱ、撤回・・・」その姿に幻滅する三人。
そこへ、キーン率いる風人隊が西ゲートに応援に来た。
「暴動はどこだ?」とキーン。
「あいつにやられたよ・・・」バズーは四人の方向を見つめた。
「ロクか・・・さすが交渉人だな・・・」
17:10 ジプシャン軍浜田基地。
ここはP6から北へ12キロと一番近い浜田基地。松島湾の海岸線の中央部に位置する。このすぐ北3キロに松島基地。さらに海岸線を東に6キロに手樽基地とジプシャンは松島湾だけで3つの基地を設けてあった。この3つの北の部分わずか8キロに、本部である品井沼基地がある。つまりこの3基地がジプシャン軍のP6側最終防衛ラインとなっていた。
浜田基地は基地といっても、簡単な囲いに建物とテントがいくつか、簡易レーダーに無線を飛ばす高い塔だけの基地らしい基地ではない。普段は20台程のSCだけを常駐している。三方を山に囲まれ、一方は海という自然の要塞でもあった。最前線基地の役割が大で、実質の基地の役割は隣の松島基地にあった。そこにタケシのSC本隊140台が集結していた。先程のP6での戦いでは、奇襲が功を奏して犠牲は僅か10台程であった。更にそこには、ヒデの仲間のSCが加わり150台以上のSCが集まっていた。
「ヒデ、ご苦労だった!」タケシがヒデを見つける。
「いいえ。お役に立てず・・・」
「お前らは隊の中に女を入れているのか・・・?」
タケシはヒデの仲間の露出の多い女たちを見ていた。
「はあ・・・おかしいでしょうか?」
「いや、うちの軍には女はいらん。まあ、後で話そう。まずは松島基地で酒だ!祝杯を挙げるぞ!」
「はい!」
突然、石森が見慣れない者を連れてきた。雲行きが怪しい様子だ。
「タケシ様・・・本部の者が・・・」
「姉貴の手の者か・・・ここに通せ!」
輪の中央に入って来る使者。タケシを見つけると人を掻き分けタケシに近寄る。
「タケシ様、総帥がお呼びです・・・」
「明日の朝、本部に寄る。それまで待てと伝え!」
「すぐお呼びとの事です!」使者は強い口調になった。
「呼びつけられるような事はしてない・・・ミサイルのテストだと伝えろ。」
「しかしですが・・・」
タケシはいきなり拳銃を抜き使者の額に向けた。
「タケシ様!な、何を!?」慌てる使者。
「姉貴に伝えろ!!明日朝戻ると・・・」
「わっ、わ、わかりました・・・」
代理が慌てて帰るのを、嶋や石森らも笑いながら見ていた。
「大丈夫ですか?本部の物に・・・」と嶋。
「ある意味、タケシ様より怖い方ですぞ。寛子様は・・・」と石森。
「構わん!言い訳は考えてるよ!それより酒だ!みんな行くぞ!」
「ははっ!」
タケシはある年配の部下に向かい命令した。
「念の為、早坂の二番隊は浜田基地に残り、隊の殿を任す!」
「ははっ!」
「それと、手樽基地にも隊を分ける!いいな!」
「相変わらず、用心深いですな?」
早坂は妖しく笑いながらタケシを見た。
「枕を高くして眠る為だ・・・」
17:32 P6地下3階。検死室。
大場の遺体が置かれている。暗い部屋には直美とロクだけで直美は涙を溢しながら大場と対面していた。
「本当の父ではなかったの・・・」直美が大場の顔に布を被せる。
「そうか・・・」
「でも、私たちにとってはいい父だったわ。一体誰がこんな酷い事を・・・?」
「教えてくれ?なぜ、あんたたち家族はジプシャンを脱走したんだ?」
「そ、それは・・・」 うつ向く直美。




