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四天王  作者: 原善
第一章 プロジェクトソルジャー
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その3 ヒデ、丘に立つ

 その街は直径3キロ程の丸い廃墟街だった。街の周りには鉄やコンクリートの塀が囲っていて、各四方には大きなゲートのような物が建てられてある。その塀よりも高い倉庫群や見張り台、風力発電機用の風車が数機。ゲート近くの見張り台には幾つもの機銃や人の姿が見れる。


 街の向こうに見える東の海から、ちょうど太陽が昇り始めていた。


「奴だ!キグロだ!間違いないぞ!」

 男は再度、双眼鏡でロクの車を確認しながらそう叫ぶと、振り返りざま走り始める。


 彼の先には、車やテントが並び、様々な格好をした者たちが食事や車の整備に追われていた。

その中には片足を無くした老人。肌を必要以上に露出した若い女性たち。刺青を全身に彫っている筋肉男。そして、戦闘で負傷したのか血だらけの包帯を巻き、無数のハエに集られて寝ているのか死んでいるのか分からない者。数人の子供の姿までいる。


 車の大半はジープ仕様。半分は破損している様子。屋根があるようなものは1台も無い。後部座席には機銃砲を取り付けてある。またどの車もボンネットには黒いパネルが取り付けている。

 そんな集団の中心に戦車のような装甲車が置かれていた。


 そこは、まるで小さな街だった。


「ヒデ!ヒデ!?」

 集団の中を名前を呼びながら走り回る男に、一人の女が指をさす。指された方に急ぎ駆け出す男。



 その男は一人、集団から離れていた。痩せた顔つきに、眼光鋭く、鍛えたシャープな体、背丈は180センチを超えているだろう。


「ヒデ、ここか!奴だ!キグロだ!」


 その場所は、様々な物で作られた十字架が大小無数に建てられていた。あえて街に見えるように建てられたのかもしれない。十字架の数だけ仲間が死んでいた。

その中の一つ、錆びた鉄骨で組み込まれた十字架の前で、膝を折り、祈りを捧げながらヒデが答える。


「今、行く・・・」


 明らかに不機嫌な声。しかし、ヒデはなかなか祈りをやめようとしない。その後ろ姿にそれ以上声を掛けれず一人集団の中に戻ろうとする男。するとヒデはすっと立ち上がると男と並んだ。


「で?どこに向かったんだ?」

 男に問うヒデ。小走りに二人は丘の方へと向かった。


「南だ!車は4台だけ。全部偵察車タイプだ!」

「4台全部が偵察車か?舐められたもんだな・・・?」

「えっ?」

「昨日の今日で、俺らがここにいるのは分かってるはずだ。なのに奴らは・・・」

 ヒデは親指を唇に当てた。

「ど、どういう事だよ!?」ヒデの言葉を理解出来ない男。


 丘に着くと、男から双眼鏡を取り街の方を覗く。しかし砂煙で既にロクたちを双眼鏡では確認する事は出来なかった。


「うーん、もう確認出来ない。奴で間違いないんだな丸田?」

「間違いない。あの黄色と黒の斑だ!」

 丸田と呼ばれた男は身振り手振りでヒデに説明する。


「なぜ奴らこんな早朝に偵察なんだ?何か理由があるはず・・・?」と考え込むヒデ。

「分からない。なぜ偵察車だけなんだ?武装車を付けず、危険を承知で出てくることがあるのか?奴らは?」

「まあいい。仇が取れるじゃねえか?リキの仇がよ!南に向かったんだろ?なら帰るルートは2つだ。丸田!お前の装甲車で奴らを追え!」

「早朝に出たんだ・・・奴等遠出じゃねぇのか?」不安がる丸田。

「偵察タイプだ!山は越えんさ!」とヒデ。

「そうだな!正論だ!分かった!」

 丸田は激しく首を振った。


「極力、街の近くを目立つように走れ!装甲車の20ミリなら奴らは逃げるしかないからな!」

「わかった。挟み撃ちって事だな?頼むぞ。今日からお前がリーダーだからな!?」

「全員に伝えろ!リキの弔い戦をするぞ!」

 ヒデは大声を上げた。



 桑田がいる指令室。偵察隊を送りだし、各自おもいおもいに作業をしていた室内に突然響く声。

「動きました!昨日の奴らです!」


 桑田のすぐ後ろの席、ある眼鏡の男が叫んだ。一時の緊張が解かれていた室内が、その一声で一気に慌ただしくなった。一斉にモニターに目を向ける各員。桑田も眠い顔をしていたが、額の前に上げていたインカムのマイクを口の前に戻し机に正対した。


「装甲車とSCが4台。こちらを無視して南に向かっています!」

 その眼鏡の男は後方の黒服、制帽姿の老人に報告する。


「ロクの所か?奴は人気者だな・・・桑田!バズーをスタンバイさせろ!」

 老人はモニターを見て、ニヤリと笑った。 

「バズーさんで宜しいのですか?」命令を聞き直す桑田。

「装甲車じゃダブルじゃ勝ち目があるまい・・・」諦めに近い口調。

「了解!」と桑田。

「柳沢!他の連中は!?」

 老人は少し大声を上げた。

「変です!まだ丘の上です。動きはありません!」と柳沢。


「どういう事だ?装甲車じゃ追いつけないはずだ?奴らもそこまで馬鹿じゃないよな?まして本隊が動かないとは・・・?なぜ追えない相手を追うのだ・・・?」

「昨日の戦いで多少ながらダメージを追っているのではないでしょうか?」柳沢が冷静に答えた。

「もーう、昨日の戦闘に勝手に入るからこうやって敵に狙われるのよ・・・」桑田はひとり小声で呟く。 


「うーん・・・そうあって欲しいな。桑田!念のためだ。ロクに追手が行くことを伝えろ!まだ無線は届くはずだ!装甲車はこっちに来ないんだな!?街への警報はなし!但し警戒レベル3は継続する!」

「了解!」と桑田と柳沢。


「うーん・・・昨日と何かが違うな?焦りがない・・・敵に余裕すら感じるな?」

 老人は制帽を脱帽すると、無造作に髪の毛を掻き始めた。

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